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第一章
動揺
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恥ずかしながら思わず動揺してしまった。
何にって?
彼――ラッセルの飛行船の中での発言。
冗談めかしたのか、それとも本気だったのか……仮の夫婦を装わないかという話に。
ないない、ありえない。
あり得ないし、そんな火事場泥棒みたいな真似を彼にして欲しくない。
そんなことをアンナローズは繰り返し、戻った自室で一人考えベッドの上に突っ伏しては苦悶の声を上げていた。
「あーっもう、ラッセルの馬鹿っ! 優しくないし、思いやりも気遣いもできないなんて最低っ! 結婚したいならって助け舟まで出したのに……これじゃ、私が間抜けみたいじゃないの!」
どうして助け舟まで出したんだろう。
彼が火事場泥棒? いや、そうじゃない。
殿下をふり、フラれて婚約破棄まで言わせたまではお互い様。恋人同士なのだから男性だけを悪しざまに言うのはなんだか公平じゃない。
それよりも自分だ。
助け舟という口実で彼を遊んだ?
それも何か違う気がする……言われて動揺したのは確かで、イラっとしてしまいつい、からかうように提案したのは自分自身。でもなぜ、あんな提案をしたんだろう?
アンナローズは自分の心が理解できずに、更に動揺しもがいてしまう。
「あー……間抜けだわ。それも特大の大馬鹿よ、私ったら。ラッセルはただ、主の娘を守るための一案として提案してくれただけ? 多分……家臣の善意を無駄にした気がする」
そう言えば、あの結婚を申し込んでいたかもしれないという話だって、ラッセルは嘘だと言ったが本当かもしれない。もっとも、王国にいた頃からそんな噂は流れてこなかったけど、とアンナローズはふと我に立ち返る。
「疲れてる、私……?」
ようやくその事実に気づいたというか、婚約者に裏切られ、思わず怒りを優先したら国外追放を受けたことを口実に故郷に家族まで残して独り卑怯にも逃げて来てしまった。
叔父夫婦に匿ってもらうも、王国からの刺客の魔の手を恐れてラズの市内に別に住むことになり、そこまでの手筈はすべてラッセルがやったことだ。
それも家臣だから当然といえば当然だが……。
「何もかも被害者のフリをして自分は悪くない、そう言えるはずなんだけど。違うか、貴族である限りならそれも許されるんだわ。それを隠して庶民の中に混じって生きるなら――きちんと向き合わないとダメなのね」
そこまで思うと、アンナローズは生まれて初めて、特権階級の恩恵にを受けてきたのかを理解する。
これまでどれほど優遇され、特別扱いをされてきたのか――それを捨てた時、果たして自分はラッセルにお嬢様と呼ばれる資格があるのかという不安に今度は囚われてしまっていた。
何にって?
彼――ラッセルの飛行船の中での発言。
冗談めかしたのか、それとも本気だったのか……仮の夫婦を装わないかという話に。
ないない、ありえない。
あり得ないし、そんな火事場泥棒みたいな真似を彼にして欲しくない。
そんなことをアンナローズは繰り返し、戻った自室で一人考えベッドの上に突っ伏しては苦悶の声を上げていた。
「あーっもう、ラッセルの馬鹿っ! 優しくないし、思いやりも気遣いもできないなんて最低っ! 結婚したいならって助け舟まで出したのに……これじゃ、私が間抜けみたいじゃないの!」
どうして助け舟まで出したんだろう。
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それよりも自分だ。
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アンナローズは自分の心が理解できずに、更に動揺しもがいてしまう。
「あー……間抜けだわ。それも特大の大馬鹿よ、私ったら。ラッセルはただ、主の娘を守るための一案として提案してくれただけ? 多分……家臣の善意を無駄にした気がする」
そう言えば、あの結婚を申し込んでいたかもしれないという話だって、ラッセルは嘘だと言ったが本当かもしれない。もっとも、王国にいた頃からそんな噂は流れてこなかったけど、とアンナローズはふと我に立ち返る。
「疲れてる、私……?」
ようやくその事実に気づいたというか、婚約者に裏切られ、思わず怒りを優先したら国外追放を受けたことを口実に故郷に家族まで残して独り卑怯にも逃げて来てしまった。
叔父夫婦に匿ってもらうも、王国からの刺客の魔の手を恐れてラズの市内に別に住むことになり、そこまでの手筈はすべてラッセルがやったことだ。
それも家臣だから当然といえば当然だが……。
「何もかも被害者のフリをして自分は悪くない、そう言えるはずなんだけど。違うか、貴族である限りならそれも許されるんだわ。それを隠して庶民の中に混じって生きるなら――きちんと向き合わないとダメなのね」
そこまで思うと、アンナローズは生まれて初めて、特権階級の恩恵にを受けてきたのかを理解する。
これまでどれほど優遇され、特別扱いをされてきたのか――それを捨てた時、果たして自分はラッセルにお嬢様と呼ばれる資格があるのかという不安に今度は囚われてしまっていた。
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