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序章
第五話 電撃的な出会い
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出会いというのは突然で、電撃的で、感慨深いもののはず。
この日を境に、アイズによって酷薄な扱いを受け婚約を破棄されたリオラには、どんな告白もそう思えなくなってしまった。
「あのクソ男‥‥‥六年間も嘘の仮面でみずからを偽っていたなんてっ!」
リオラは自室にあるベッドの上で、夜着のまま、壁際にぞろりと揃えている、熊のぬいぐるみの腹に拳を叩きこむ。
とはいっても、彼女は聖女だ。
本気でやったら、悲惨なことになってしまう。
能力をかぎりなくひかえめに、モーションはおおきく!
拳は肩から捻りをくわえて撃つ! と教育係の神殿騎士から習った要領で撃ち抜くと、すぱんっ、といい音が室内に響きわたる。
さらに腰だめにして撃ち抜くと、ぼすっと鈍く重たい音がした。
「せっ、聖女様! だめです、夜だからって静かにしないと、周りに響きます‥‥‥」
もう熊でも素手で殺せるんじゃないか、と思いミーシャはあわあわとなりながら、リオラを説得しにかかる。
神殿の四階にあるこの階は、神官長や大神官、巫女長などの部屋もある上級層の住むところで、聖女であるリオラには東側のおおきなテラスが魅力的な、部屋が与えられていた。
毎夜になると、現れる蒼の月に祈りを捧げるのに、ほどよい位置にあるためだ。
しかし、今夜。
リオラは定時になっても、礼拝に出ようとはしないかった。
「聖女様はどうしておられる? なぜ、礼拝に来られぬのだ?」
と、もはや定例化してしまったこの儀式に毎夜、参列する神官や巫女、神殿騎士たちが、顔を揃えて不安そうに見合っていた。
中継ぎをさせられるのはいつも、侍女であるミーシャの役割だ。
普段ならお腹が痛いとか、気分が優れないとか言い訳のしようもあったが、今夜ばかりはそうもいっていられない。
なにせ、満月だ。
煌々とかがやく蒼い光の下、王都の信徒たちもまた、テラスやベランダ、窓をあけ祈りをささげ始めている。
おまけに蒼の月は、満月の時、このテラスをバックに王都へと姿を見せるよう、神殿建設時に微妙な配置を計算して作られた。
舞台は整ったのに、主役が出でてこないのでは、話にならない。
「ほら、行きますよ。もういい加減に諦めろって!」
「嫌、いやだああ! こんな腫れた顔見られたくなあいいいっ!」
叫びどおり、リオラの顔は腫れていた。
自宅謹慎が始まって七日間。
寝る暇も食事をする暇も惜しんで、泣きに泣いて、泣き倒しては溜ったストレスを熊さんで発散する‥‥‥という、何かの拷問プレイかと思うことをやっていたのだ。
もちろん、その間に食事も水も睡眠もまともにとっていないから、体力は削られ、気力だってがりがりと減っている。
聖女として宿している膨大な魔力でどうにか正気を保っているだけで、いま酒の一杯でも飲んだなら、夜通し三日は眠れるに違いない。
「ミーシャはもう疲れたんですよ! なんですか、だらしない! そんなに瞼が腫れあがるまで泣くなら、どうして殴ったりしたんですか!」
「だって、だって、だって――悔しい! でも見られたくないいっ。醜い顔を晒すのはいやああっ」
聖女の付き人であるミーシャもまた、ただの侍女ではない。
有事の際は身を張って主人を守れるよう訓練された警護役でもある。
熊さんを盾に構えつつ、逃げようとするリオラの腕を交わして、肩の上に身を持ち上げた。
「ほら、さっさと行け! ミーシャだってほとんど寝てないんですからね! 早く着替えろ、駄目聖女!」
「うぐぐっ、ひどいいっ」
「ひどくない! みんな待ってるの! 役割!」
「‥‥‥ぐす。はい‥‥‥」
ベッドから椅子に移動し礼服を押し付けられて、リオラはぐすぐす泣きながらそれを着こんだ。
ぼさぼさの髪、腫れあがった両方の目、涙の跡はもう拭いても消えないのではないかと思うくらい濃く頬の上にくっきりと浮き出ている。
みじめだな、私。そう思うも、自分で招いた結果というものもある。
大人しくなったのを確認すると、侍女はよし、と小さく頷き、回復魔法を聖女にかけた。
みるみるうちに瞼の腫れ引き、頬はりんご色に彩を取り戻す。
続いて浄化魔法でこの一週間近く、不摂生していた肉体を上から下まですみずみと綺麗に浄化して、不衛生な肉体がものの数秒でいつものリオラになった。
「こんなにうつくしいのですから。もう終わった恋は忘れて、ね? リオラ」
「うん‥‥‥うう」
侍女は糖蜜を煮詰めたシロップをぽいっとリオラの口に放り込む。
ハッカが効いていて、まだ迷いが多く残る頭がすっきりとした。
鏡に映るらしくない自分をまじまじと見て、「頑張るか」と月に一度、時には二度になる満月を祝う催事にでることにした。
テラスに赴くと、大神官や巫女長、巫女たち、神殿各所の神官長たちなど、この蒼い月の神殿の経営層が、顔を集めていた。
いま、この場を襲撃されたら王国における女神フォンテーヌ教は立ちいかなくなるだろう。
それほどに重要な人物たちが一堂に会するのは、偶然ではない。
特にリオラの祖父や祖母代わりの大神官や、巫女長が神妙なでも優しさの満ちた顔で、聖女を出迎えた。
この日を境に、アイズによって酷薄な扱いを受け婚約を破棄されたリオラには、どんな告白もそう思えなくなってしまった。
「あのクソ男‥‥‥六年間も嘘の仮面でみずからを偽っていたなんてっ!」
リオラは自室にあるベッドの上で、夜着のまま、壁際にぞろりと揃えている、熊のぬいぐるみの腹に拳を叩きこむ。
とはいっても、彼女は聖女だ。
本気でやったら、悲惨なことになってしまう。
能力をかぎりなくひかえめに、モーションはおおきく!
拳は肩から捻りをくわえて撃つ! と教育係の神殿騎士から習った要領で撃ち抜くと、すぱんっ、といい音が室内に響きわたる。
さらに腰だめにして撃ち抜くと、ぼすっと鈍く重たい音がした。
「せっ、聖女様! だめです、夜だからって静かにしないと、周りに響きます‥‥‥」
もう熊でも素手で殺せるんじゃないか、と思いミーシャはあわあわとなりながら、リオラを説得しにかかる。
神殿の四階にあるこの階は、神官長や大神官、巫女長などの部屋もある上級層の住むところで、聖女であるリオラには東側のおおきなテラスが魅力的な、部屋が与えられていた。
毎夜になると、現れる蒼の月に祈りを捧げるのに、ほどよい位置にあるためだ。
しかし、今夜。
リオラは定時になっても、礼拝に出ようとはしないかった。
「聖女様はどうしておられる? なぜ、礼拝に来られぬのだ?」
と、もはや定例化してしまったこの儀式に毎夜、参列する神官や巫女、神殿騎士たちが、顔を揃えて不安そうに見合っていた。
中継ぎをさせられるのはいつも、侍女であるミーシャの役割だ。
普段ならお腹が痛いとか、気分が優れないとか言い訳のしようもあったが、今夜ばかりはそうもいっていられない。
なにせ、満月だ。
煌々とかがやく蒼い光の下、王都の信徒たちもまた、テラスやベランダ、窓をあけ祈りをささげ始めている。
おまけに蒼の月は、満月の時、このテラスをバックに王都へと姿を見せるよう、神殿建設時に微妙な配置を計算して作られた。
舞台は整ったのに、主役が出でてこないのでは、話にならない。
「ほら、行きますよ。もういい加減に諦めろって!」
「嫌、いやだああ! こんな腫れた顔見られたくなあいいいっ!」
叫びどおり、リオラの顔は腫れていた。
自宅謹慎が始まって七日間。
寝る暇も食事をする暇も惜しんで、泣きに泣いて、泣き倒しては溜ったストレスを熊さんで発散する‥‥‥という、何かの拷問プレイかと思うことをやっていたのだ。
もちろん、その間に食事も水も睡眠もまともにとっていないから、体力は削られ、気力だってがりがりと減っている。
聖女として宿している膨大な魔力でどうにか正気を保っているだけで、いま酒の一杯でも飲んだなら、夜通し三日は眠れるに違いない。
「ミーシャはもう疲れたんですよ! なんですか、だらしない! そんなに瞼が腫れあがるまで泣くなら、どうして殴ったりしたんですか!」
「だって、だって、だって――悔しい! でも見られたくないいっ。醜い顔を晒すのはいやああっ」
聖女の付き人であるミーシャもまた、ただの侍女ではない。
有事の際は身を張って主人を守れるよう訓練された警護役でもある。
熊さんを盾に構えつつ、逃げようとするリオラの腕を交わして、肩の上に身を持ち上げた。
「ほら、さっさと行け! ミーシャだってほとんど寝てないんですからね! 早く着替えろ、駄目聖女!」
「うぐぐっ、ひどいいっ」
「ひどくない! みんな待ってるの! 役割!」
「‥‥‥ぐす。はい‥‥‥」
ベッドから椅子に移動し礼服を押し付けられて、リオラはぐすぐす泣きながらそれを着こんだ。
ぼさぼさの髪、腫れあがった両方の目、涙の跡はもう拭いても消えないのではないかと思うくらい濃く頬の上にくっきりと浮き出ている。
みじめだな、私。そう思うも、自分で招いた結果というものもある。
大人しくなったのを確認すると、侍女はよし、と小さく頷き、回復魔法を聖女にかけた。
みるみるうちに瞼の腫れ引き、頬はりんご色に彩を取り戻す。
続いて浄化魔法でこの一週間近く、不摂生していた肉体を上から下まですみずみと綺麗に浄化して、不衛生な肉体がものの数秒でいつものリオラになった。
「こんなにうつくしいのですから。もう終わった恋は忘れて、ね? リオラ」
「うん‥‥‥うう」
侍女は糖蜜を煮詰めたシロップをぽいっとリオラの口に放り込む。
ハッカが効いていて、まだ迷いが多く残る頭がすっきりとした。
鏡に映るらしくない自分をまじまじと見て、「頑張るか」と月に一度、時には二度になる満月を祝う催事にでることにした。
テラスに赴くと、大神官や巫女長、巫女たち、神殿各所の神官長たちなど、この蒼い月の神殿の経営層が、顔を集めていた。
いま、この場を襲撃されたら王国における女神フォンテーヌ教は立ちいかなくなるだろう。
それほどに重要な人物たちが一堂に会するのは、偶然ではない。
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