幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央

文字の大きさ
2 / 8

居残り


「金がない!?」

 朝早くに目覚めたクレイの開口一番に出た言葉がそれだった。
 同じ部屋にはベッドが三つあり、それぞれに男女が一組ずつ。
 腕の中に金髪の化粧の濃い商売女を抱いた剣士は、ベッドの側に立てかけた愛刀を横目でにらみつつ、財布を預かっていたはずの仲間に視線を移す。彼はいやあーと申し訳なさそうに頭に手をやってすまん、と一言でクレイの無言の訴えを終わらせてしまった。

「金がないとはどういうことだ、アロン!? お前、王都でも有名な綿花を扱うロナルド商会の跡取り息子だろうが! 金貨の十枚や二十枚どうにでもなるって俺を誘っておきながら金がないとはどういことだ?」
「いやーすまん、クレイ。考えてみれば、オヤジに金を送るように家人に手紙を渡したのだが、一向に戻って来る気配が無くてなー」
「おい、ふざけんなよアロン。ここに泊まってもう二週間だ。その間のツケが……」

 もう一人の悪友、王国騎士のバルッサムも困り果てた顔をしていた。
 今回の遊びの原因はこの男の離婚を祝おうとやってきたのに……その主催者が金がないと言い出したのでは何も始まらない。

「悪いな、クレイ。俺は元妻に慰謝料として家屋敷まで持っていかれた。今ではこのアリサの家に住まわせてもらってる身だ。金はない」
「いやそりゃ、お前はアリサの好意でそうしてもらってるだけで、ここの払いまで無くなる訳じゃ……おい、アロン?」
「クレイ、すまんな。俺もバルもこれから家の用事と王国騎士としての任務があるから戻らなきゃならん。つまり、身体が空いているのは――お前だけだ」
「マジかよ……??」

 そしてクレイの視線は裸の男女が集うこの部屋でただ一人、きちんとしたスーツに身を包んだ初老の男性が強張った笑みをその顔に張り付かせて微笑んでいた。

「では、クレイ様。クレイ様には、我が娼館これまで何度もお越し頂いていますし、ここは一つ。その身体で支払っていただくということで……」
「何!? いや、嫌だ! 俺は男相手に身体を売るなんて!」
「……そんなサービスはしておりませんので。その剣の腕を見込んでうちの用心棒兼ひまなときは色々と下働きをしてもらいましょうかね?」
「嘘だろ、おい……。俺だけ居残りかよ!? 冷たいぞ、お前らっ!!」

 そろそろ自宅では息子が戻らないと母親がキレているはず。あのババアを怒らせると、二度と外にでれなくなるかもしれない。そんな危惧を抱きつつ、クレイは仲間たちを見渡すが誰も首を縦に振ることはなかった。

「では、決まったということで。ああ、御嫌なら男性相手の娼館にクレイ様を派遣するという手もありますが……どうしますか?」
「用心棒兼下働き……やらせていただきます」

 クレイは諦めたように首を縦に振る。
 それを聞いて、娼館の老主はにこやかに微笑んだのだった。

感想 7

あなたにおすすめの小説

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。 母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。 「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。 このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。 弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した―― 全3話

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。 妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。 美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。 3話完結

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

好き避けするような男のどこがいいのかわからない

麻宮デコ@SS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。 彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。 全5話

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。