幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央

文字の大きさ
3 / 8

サリーナ

しおりを挟む

 その朝、色町で呑み客相手に会話を暖める水商売の世界で、この街一番の人気のホステス、サリーナはまだ頭のどこかに残っているアルコールのもたらす酔いを覚まそうと部屋の窓を開けた。
 春先、東向きで建物の四階にある彼女の部屋は王都をぐるりと取り囲む城壁に遮られずに、朝日を拝むことが出来る。冷たい朝の空気と新鮮な陽光をその身に浴びて、どうにか一日を元気に過ごせそうだと思ったその時。サリーナはふと、眼下に通る大通りを行こうとする人影を二つ、目にとめていた。

「あん? なんだよ、堅物な王国騎士様とロナウド商会の道楽息子じゃないか。……クレイはどうしたのさ。何時も三バカでつるんでいるくせに……珍しい」

 ここ最近は自分の店にも立ち寄らないでどこかに雲隠れしていると思い、サリーナは内心、機嫌が悪かった。クレイは上得意だし、金がない金がないと言う割にはその剣の腕で何かしら稼いで来ては、真っ先に店に来てくれていたからだ。貴族だというのに偉ぶったところもないし、他の常連客のように無理矢理、身体の関係を迫ってきたこともない。酔いつぶれて暴れることもないし、むしろ店が終わってからこのアパートの入り口まで送ってもらったことも何度もある。上がれと誘っても自分にはなびこうとしない……その割にアーセルの娼館にはたまにいるという噂も流れてくる。そろそろ、自分のことをどう思っているのかはっきりさせたいところだった。

「ふーん? なんだろ……」

 上から見ただけではあの二人のことがわからない。どうもどこかで酔いつぶれて起きた後に家に戻ろうとしている感じだが、クレイがいないのが気になる。
 声を上げて周囲から見られるのも嫌なので、手すりに干していたタオルでも投げつけてやろうかと思った時、彼はやってきた。
 この色町の警備を取り仕切る役人、ランダースだった。
 三人は何やらひそひそと話をしていて、でもそれは上からは丸わかりだ。

「あーもう、めんどくさいね!」

 タオルを手にすると、丸めてぎゅっと搾り上げ、ボールみたいにしてランダースたちの足元をめがけて放り投げてやる。
 それは運悪く狙いが外れて不幸な王国騎士の頭を直撃したが……。

「っいて!? なんだよ!?」

 バルッサムがいきなりぶつけられたそれを足元から取り上げて空を見上げると、そこには目を丸くして困ったように笑うサリーナがいた。

「あらー……しまった。バルッサムの旦那に当たっちゃった……」
「サリーナ? おーい、なんだよこれは!?」
「旦那―、ごめーん」

 そんな謝罪の声が上から降って来るが、見上げた三人の男たちは目にしたそれをどういう意味だと理解できずに首をかしげてしまう。
 サリーナがちょっとうちまで上がってこいと、手招きしていたからだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

自信過剰なワガママ娘には、現実を教えるのが効果的だったようです

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵令嬢のアンジェリカには歳の離れた妹のエリカがいる。 母が早くに亡くなったため、その妹は叔父夫婦に預けられたのだが、彼らはエリカを猫可愛がるばかりだったため、彼女は礼儀知らずで世間知らずのワガママ娘に育ってしまった。 「王子妃にだってなれるわよ!」となぜか根拠のない自信まである。 このままでは自分の顔にも泥を塗られるだろうし、妹の未来もどうなるかわからない。 弱り果てていたアンジェリカに、婚約者のルパートは考えがある、と言い出した―― 全3話

姉の引き立て役として生きて来た私でしたが、本当は逆だったのですね

麻宮デコ@SS短編
恋愛
伯爵家の長女のメルディナは美しいが考えが浅く、彼女をあがめる取り巻きの男に対しても残忍なワガママなところがあった。 妹のクレアはそんなメルディナのフォローをしていたが、周囲からは煙たがられて嫌われがちであった。 美しい姉と引き立て役の妹として過ごしてきた幼少期だったが、大人になったらその立場が逆転して――。 3話完結

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

実家を没落させられ恋人も奪われたので呪っていたのですが、記憶喪失になって呪わなくなった途端、相手が自滅していきました

麻宮デコ@SS短編
恋愛
「どうぞ、あの人たちに罰を与えてください。この身はどうなっても構いません」 ラルド侯爵家のドリィに自分の婚約者フィンセントを奪われ、実家すらも没落においやられてしまった伯爵家令嬢のシャナ。 毎日のように呪っていたところ、ラルド家の馬車が起こした事故に巻き込まれて記憶を失ってしまった。 しかし恨んでいる事実を忘れてしまったため、抵抗なく相手の懐に入りこむことができてしまい、そして別に恨みを晴らそうと思っているわけでもないのに、なぜか呪っていた相手たちは勝手に自滅していってしまうことになっていった。 全6話

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~

琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。 自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌! しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。 「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。 ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

処理中です...