幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央

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請け出し

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「はあ? 居残りやらされてる!?」
「あーあまり大声出すな、まだ酔いが覚めてない」
「あのねえ、王国騎士様? あんたの離婚祝いをしてもらってて、それでクレイだけ置いてきたってどんだけ恩知らずなんだよ、あんたは!」
「いやだからだな……金貨五枚なんていきなりあるはずがないだろう? いずれ請け出し……金払って解放に行くからさ」
「いずれっていつよ? 離婚して慰謝料で元妻に全部持っていかれた王国騎士に、豪商の息子のくせに親の信頼がなくて大金持たせてもらない道楽息子がどうやってそんな大金、用意できるのさ?!」
「ぐぅっ! おい、アロン。お前も何か言えよ!」

 男勝りなサリーナの剣幕はすさまじく、バルッサムは二日酔いもたたってたじたじになっていた。アロンはもう知りませんよーとこちらも二日酔いがひどいらしい。サリーナにだらしないと叫ばれ、下履きの爪先ですねをしたたかに蹴られて呻いていた。

「はあ……どいつもこいつも。旦那! ランダースの旦那はどうなのさ!? 親友なんだろ、いつも幼馴染だって自慢してるじゃないか。この前なんて、クレイの手を借りて盗賊団を撃退したって言ってたよね? 助けないのかい?」
「いやーうちも妻がうるさくてな。この色町の管理をするだけでいい顔をしないのだ。あのクレイは遊び人だから、貴族にふさわしい行いが出来てないからと嫌っているしな。いま金貨五枚など……出せるわけがない」
「情けない……男のくせにその程度のごまかしもできないの!?」
「その程度ってなあ、サリーナ。金貨一枚あれば、一月は遊んで暮らせるんだぞ? そんな大金を使うほどに遊ぶクレイたちが悪い」
「はあ。なんでこうも情けない奴ばっかり。クレイが可哀想だよ」

 サリーナの部屋の一室。
 そこそこ広いこの高級アパートには来客用の設備も充実していて、突然誰かが来ても紅茶の一つ程度は出せるくらい常時湯が用意されていた。そこに取り置いていた菓子類と、近所の店から取り寄せた朝食を四人分。テーブルを囲んで頭痛にさい悩ませれながらもサンドイッチを口にしていた男性陣は閉口してしまう。
 しかしここまで言われてはさすがに苛立ったのか、無関係なのに侮辱されて怒ったのか。役人のランダースがそれを言うなら、とサリーナをにらみつけた。

「おい、サリーナ。そう言うが、お前だってクレイのおかげで普段は儲かっているだろうが。そんなに心配するのなら、いい加減に夫婦になったらどうなんだ?」
「あ、えっ……それは……クレイのやつが……首を縦に振らない」
「なら、提案をしよう。お前にもいい提案だ」
「提案? なんだよ、それは」
「簡単だ。お前が請け出せばいい。金貨五枚、あいつには逆立ちしても払えんよ。実家は貧乏だしな。これを機に借金を返すか、結婚するか。迫ればいいだろう?」
「あっ……」

 それは盲点だった。
 サリーナは良い考えだねと言うと、男ども出て行けと彼らを追い返す。
 朝食を手に持ったまま追い出された彼らは、これでクレイは自由になるとため息をついて解散していった。
 そして、昼前。
 銀行から金を降ろしたサリーナによって請け出されたクレイは、情けない顔をしながら娼館の玄関から足を大通りに踏み出す。
 その光景をじっと見つめる視線が一つ。
 馬車の中で信じられないと叫びそうになっていた、コンスタンスがそこにはいた。
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