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婚約破棄
「はあ……無いですわ、本当に信じられない」
ガラス戸の向こうでまるで買われていく子牛のようにうなだれて、クレイが見知らぬ女性に手を引かれて歩いていくのを見て、コンスタンスは車内で小さく叫んでいた。
どうにかして探そうと思い色町に来てみれば……まさか、こんな現実に遭遇するなんて……。
自分はどこまでも不幸に見舞われる体質らしい。
もう、男性なんて誰も信じられない、そう思っていた。
「あーあ、兄さんたら……。あれはまずいな、ごめんよコンスタンス」
「フィルナンド。あなたの兄上はあんなどうしようもない男性だって弟の目から見てもそう思うの?」
「否定できないねえ。うん、ごめんよコンスタンス。僕が当主だったらこんなことにはさせないんだけど。お母様がああだから。うちはいつまでも貧乏だよ」
「あなたが当主だったら……?」
「へ? それがどうかした? 多分、それは無いと思うよ。お母様は兄上がなんだかんだで大事だし、爵位を受け継ぐには僕はまだ幼いしね」
クレイの弟。
公爵家第二令息フィルナンド。
まだ十四歳と若いが、成人は十三歳からだから、彼だって伯爵家当主を名乗ることが出来る。
兄のクレイが侯爵位、次男は伯爵位を受け継ぐことが出来るからだ。
……同じ伯爵位。フェルナンドがもし、公爵になれたらクレイはその下の侯爵位だ。つまり、弟が兄に命令することもできるから……。
「ねえ、フィルナンド。あなたが爵位を継げば円満解決になるんじゃないの?」
「いやだから、無理だって。兄上に余程の落ち度がないとそんなことは認められないよ」
「それもそうね。なら少し調べさせましょうか」
「調べるって何をさ?」
「あの娼館から出て来た理由を、よ。一緒に来ている下男に聞きに行かせるわ」
「はあ……それで何か分かればいいけどね、コンスタンス」
しばらくして、下男が娼館から戻って来た。
彼の聞いてきた内容によると、クレイは借金のカタに居残りをさされていたのだという。先ほど、ホステスのサリーナという女性が借金を肩代わりしてクレイを請け出した。そんな話らしい。金額は金貨五枚。なかなかの大金ねとコンスタンスは思案する。
そしてクレイは引きずられるままに、サリーナの自宅と思われる高級アパートに二人連れで入っていくところを三人――コンスタンス、フィルナンド、そして下男は確認してした。
「これって、このまま不名誉ということで婚約破棄に持ち込めないかしら? 私、あんな浮気男と結婚なんかしたくないわ。もうたくさんよ……まだ、同じ公爵家ならフィルナンドの方がましだわ」
「へっ? いや待ってよ、コンスタンス! それは困るよ、そんな不名誉なことがあったなんて周囲に、しかも女性からの婚約破棄なんてされた日には……我が公爵家は国王陛下から怒りを買うに決まっているじゃないか。仮にも王族の端にいるんだよ、うちの家は……頼むよ。怒りをおさめてくれないか……」
「じゃあ、どうにかしなさいよ。あなたが!」
「コンスタンス……」
公爵家に戻ったコンスタンスは女公爵に直談判をする。その怒りは簡単にはおさまらない上に、スキャンダルを握られているとあって女公爵はもう、謝罪するしかなかった。
そしてさんざんな議論の末に導き出された結論。
クレイをスキャンダルを起こした責任を取らせて後継者の資格をはく奪するとともに、その後には次男のフィルナンドがなることが決まった。
事実上のクレイとの婚約破棄が決まったのだが……まだ、家同士の約束は残っていることをコンスタンスは忘れていた。
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