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結婚前夜
コンスタンスがではよろしく、と溜飲を下げて帰宅してからすぐのことだ。
次男フィルナンドは母親から聞かされた、いや、逃げ場のない命令を申し付けられて背中に冷や汗をかいていた。
「お母様? ……本気ですか??」
「本気ですよ、フィルナンド。あなたがコンスタンスと結婚しなさい。今更破談にされたら、どうなるか理解できますね? 不出来な兄のようにこの母を泣かせる気ですか?」
「そのー泣いているのは兄上だと思いますが。母上の贅沢な趣味のためにさんざん、こき使われてお金が貯まらずにコンスタンスとの結婚が出来ず、それをやるせなくて兄上はあそぶようになってしまったのは、周知の事実ですよ?」
「それは当たり前よー。だって親をぜいたくさせるのが」
「子供の使命ではありません。そんな役割は致しません」
「お前……」
「母上にはその楽器の腕があります。二年も励めば、死ぬまで贅沢しても有り余るだけの財産が手に入るはず。爵位を受け継ぐのなら、それが条件です。嫌ならば、僕もこの家を出ていきます。没落貴族の家がとうとう断絶するのはなかなか見物かと」
「……なんてひどい言い草。この母の老骨に鞭うってまだ働けと言うのですか!?」
「焼肉をたらふく食べてまだワインだのケーキを平らげる立派な胃があれば、なんだってできますよ。子の出世のために身を粉にするのも親の勤めではないのですか?」
「……分かったわよ。ならやりますよやればいいんでしょ、やれば。まったく優しくないんだから……」
これならまだクレイの方が優しかったわ。そうぼやく女公爵にフィルナンドは更に追い打ちをかけてやる。
「母上、兄上は借金のカタに水商売をされているサリーナ様と結婚なさるそうですよ? そちらに行かれた方が母上には良いかもしれませんね?」
「お前、まさか……っ!?」
「これまで贅沢してきた罰ですよ、ね? 母上?」
フィルナンドは静かに微笑んだ。
☆
「……は?」
晴天の霹靂。
しかし、これは予想はしていたがここまで早く決まるなんて……女公爵、恐るべし。
コンスタンスはあれから数日後に告げられた一言にどこか安堵を覚えていた。
「まさかあなたと結婚する羽目になるなんて」
「不満かい? まだ式には日取りがあるけど、結納金は母上がきちんと作ってくれたよ」
「……何をさせたの?」
「別に。ただ、家にあった道楽で集めた楽器とか、書物、宝石の類や家宝の壺やお皿なんかを売っただけだよ」
「おば様があんなに大事にしていたものを? そこまで私を大事にしてくださるなんて……でも、申し訳ないわ。それに怖いかも」
「何が? 虐められるかもしれないって? 宝物を売らせたから?」
「……うん」
「大丈夫だよ。母上は兄上のところに行かれたから」
「へっ? どういうこと……?」
「うーん。僕もあの贅沢な癖は嫌気がさしてたんだ。自分だけ好き勝手して、兄上が苦しむ姿を見て来たから。親を大事にしろっていうなら、子供お大事にしてくれないとね」
「あなた、とんでもないことを決めたのね」
「まあ、そういうことでさ。コンスタンス様、どうか僕と結婚していただけますでしょうか?」
「……はい。もう逃げれないのね、私。受けますわ、フィルナンド様」
逃げ場はないらしい。
まさか兄でなく、年下の夫ができるとは思っても――可能性はあると考えていたけど。
幸せになれるなら、まあいいかな。
コンスタンスはそう思い、フィルナンドの求婚を受けることにした。
次男フィルナンドは母親から聞かされた、いや、逃げ場のない命令を申し付けられて背中に冷や汗をかいていた。
「お母様? ……本気ですか??」
「本気ですよ、フィルナンド。あなたがコンスタンスと結婚しなさい。今更破談にされたら、どうなるか理解できますね? 不出来な兄のようにこの母を泣かせる気ですか?」
「そのー泣いているのは兄上だと思いますが。母上の贅沢な趣味のためにさんざん、こき使われてお金が貯まらずにコンスタンスとの結婚が出来ず、それをやるせなくて兄上はあそぶようになってしまったのは、周知の事実ですよ?」
「それは当たり前よー。だって親をぜいたくさせるのが」
「子供の使命ではありません。そんな役割は致しません」
「お前……」
「母上にはその楽器の腕があります。二年も励めば、死ぬまで贅沢しても有り余るだけの財産が手に入るはず。爵位を受け継ぐのなら、それが条件です。嫌ならば、僕もこの家を出ていきます。没落貴族の家がとうとう断絶するのはなかなか見物かと」
「……なんてひどい言い草。この母の老骨に鞭うってまだ働けと言うのですか!?」
「焼肉をたらふく食べてまだワインだのケーキを平らげる立派な胃があれば、なんだってできますよ。子の出世のために身を粉にするのも親の勤めではないのですか?」
「……分かったわよ。ならやりますよやればいいんでしょ、やれば。まったく優しくないんだから……」
これならまだクレイの方が優しかったわ。そうぼやく女公爵にフィルナンドは更に追い打ちをかけてやる。
「母上、兄上は借金のカタに水商売をされているサリーナ様と結婚なさるそうですよ? そちらに行かれた方が母上には良いかもしれませんね?」
「お前、まさか……っ!?」
「これまで贅沢してきた罰ですよ、ね? 母上?」
フィルナンドは静かに微笑んだ。
☆
「……は?」
晴天の霹靂。
しかし、これは予想はしていたがここまで早く決まるなんて……女公爵、恐るべし。
コンスタンスはあれから数日後に告げられた一言にどこか安堵を覚えていた。
「まさかあなたと結婚する羽目になるなんて」
「不満かい? まだ式には日取りがあるけど、結納金は母上がきちんと作ってくれたよ」
「……何をさせたの?」
「別に。ただ、家にあった道楽で集めた楽器とか、書物、宝石の類や家宝の壺やお皿なんかを売っただけだよ」
「おば様があんなに大事にしていたものを? そこまで私を大事にしてくださるなんて……でも、申し訳ないわ。それに怖いかも」
「何が? 虐められるかもしれないって? 宝物を売らせたから?」
「……うん」
「大丈夫だよ。母上は兄上のところに行かれたから」
「へっ? どういうこと……?」
「うーん。僕もあの贅沢な癖は嫌気がさしてたんだ。自分だけ好き勝手して、兄上が苦しむ姿を見て来たから。親を大事にしろっていうなら、子供お大事にしてくれないとね」
「あなた、とんでもないことを決めたのね」
「まあ、そういうことでさ。コンスタンス様、どうか僕と結婚していただけますでしょうか?」
「……はい。もう逃げれないのね、私。受けますわ、フィルナンド様」
逃げ場はないらしい。
まさか兄でなく、年下の夫ができるとは思っても――可能性はあると考えていたけど。
幸せになれるなら、まあいいかな。
コンスタンスはそう思い、フィルナンドの求婚を受けることにした。
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