7 / 15
プロローグ
第7話 魔獣と食材
しおりを挟む
その夜の食卓は、ちょっとしたパーティさながらだった。
海鮮類が豊富なラーベラは、ちょっと足を伸ばすだけで、新鮮な魚介類を手にすることができる。
帰宅途中に市場に立ち寄り、エレナとルシアードは『ガナム』と呼ばれる貝類を多めに買った。
二枚貝でカラスガイほどの大きさがあり、中には親指大の貝が入っている。
「悪いことが起こる前のパーティって言ったらなんだか変だけど。お父さんとお母さんはあなたのことを歓迎すると思うの。だからそれは素直に受け入れてほしい」
「もちろんそうするよ。2人は俺にとって本当の家族みたいなもんだし‥‥‥騙すようで本当に申し訳ない」
「被害者はあなたなんだし。こっちは加害者の家族だから、ある意味、謝罪として受け入れてくれても」
と、エレナは顔を伏せ申し訳なさそうに言葉にした。
ルシアードは恋人の心を痛めた様子に、逆に苦しそうな顔になっていた。
「何も言わずに去ったほうが良かったか?」
彼はふとそんなことを口にする。
恋人のもとに来るよりも、さっさと実家に引き戻った方が良かったのかもしれないと思ったからだ。
けれどそうなるとエレナとは二度と会えないだろうし、お互い消化不良の感情を抱えたままずっと長い時間を過ごすことになる。
それはどう考えても2人にとって良い未来とは言い難かった。
「ううん。それはない。そんなことはない。逃げずにちゃんと来てくれて嬉しい――あなたも私も今は被害者だから」
「いつか加害者になるそんな言い方をしないで欲しいな」
「加害者にはならないわよ」
「ならどうする?」
太めの糸で編み込まれたネットの中に、大ぶりなガラムが十個1つで売られている。
ネット二つ分を手にして、エレナはふふ、と意味ありげな笑みを浮かせる。
「まだわからない、でも、エリオットの出方次第では家族総出で、ギルドも国も巻き込んで裁判とかすると思う」
「竜殺しの二つ名と、戦女神ラフィネの司祭の立場は強いな」
「そうなった時あなたはどっちに着く?」
購入したガラムをどう調理しようか、と二人で市場を歩きながら意見を出す。
茹でてもいいし、パエリエのように米と一緒に炊いてもいい。
噛むと鶏のモモ肉のような触感があって、濃厚な搾りたての山羊のミルクのような味がする。
赤唐辛子と一緒に大鍋に刻んだ野菜などと一緒に入れて煮るもよし、貝柱だけを取り出しておおまかに切り、油を使って焼いてもいい。
どんな調理方法にも合う、牛や豚などの肉類をも合わせても喧嘩をしない、多様な用途に応える食材だ。
「それはもちろん君の方に」
「身分と立場を捨ててまで恋人のために生きることなんてないと思う」
「意外な返事だ‥‥‥」
「好きな人の未来を奪ってまで幸せになりたい女なんていないから」
あっさりとした彼女の意見にルシアードは驚いた。
「一緒にいたいのかそれとも嫌なのか、君の意見はコロコロ変わるから判断が難しいよ」
「結婚したいのは本当よ? 仲良くなってずっと一緒にいてたくさんの子供に囲まれて、親孝行もしたい」
「俺は頑張って働かないとダメだね」
「そうかしら? コカドリーユの出産くらいの子供は欲しいけど。あなたは研究に生きればいいと思う。私が働けばいいだけの話だし」
「四つ子は想像できないな‥‥‥」
肉屋では魔獣の肉を購入した。
雄鶏とヘビとを合わせたような姿の魔獣で『コカドリーユ』と呼ばれている、ラーベラの特産物だ。
コカトリスの亜種で、人間が畜産のために品種改良をほどこした魔獣だ。
近郊の牧場で飼育されているこいつらは大きさは牛ほども。
全体的に白い羽毛に覆われていて、見た目は大きさを除けば雄鶏と大差ない。
野生のコカトリスには視線で敵を石化する魔法があるから、その機能を削いだのがコカドリーユだ。
味は部位によっても他生の差異はあるけれど、だいたい牛肉によく似ている。
人に懐くし、仲間意識が強く外敵が襲ってくれば、雌を守って戦ってくれる。
牧童を置くよりも、オスのコカドリーユ一頭とメスのコカドリーユ数十頭で畜舎を作った方が、よほど採算が取れるというから、飼育もしやすいのだろう。
メスが産む無精卵は透明な殻に覆われているがとても頑丈で、堕としたくらいではヒビひとつはいらない。
産んでから二週間は鮮度を保つことから、輸送にも大きな手間暇がかからず、土地の農家の貴重な収入源となっていた。
その他に新鮮な根菜類や魚果物などをたくさん購入して、2人はエレナ宅へと向かった。
父親のミゲルと母親のミアーデは、実の我が子のようにかわいがっているルシアードの来訪をよろこび、彼がしばらく泊まり込みで研究をしたいというと、快諾した。
ルシアードはドラゴンの皮革に含まれる魔法を反発させる効果を研究している。
この街でもっともドラゴンと接することが多く、その深淵まで踏み込んだのは誰か。
それは竜殺しミゲルしかいない。
海鮮類が豊富なラーベラは、ちょっと足を伸ばすだけで、新鮮な魚介類を手にすることができる。
帰宅途中に市場に立ち寄り、エレナとルシアードは『ガナム』と呼ばれる貝類を多めに買った。
二枚貝でカラスガイほどの大きさがあり、中には親指大の貝が入っている。
「悪いことが起こる前のパーティって言ったらなんだか変だけど。お父さんとお母さんはあなたのことを歓迎すると思うの。だからそれは素直に受け入れてほしい」
「もちろんそうするよ。2人は俺にとって本当の家族みたいなもんだし‥‥‥騙すようで本当に申し訳ない」
「被害者はあなたなんだし。こっちは加害者の家族だから、ある意味、謝罪として受け入れてくれても」
と、エレナは顔を伏せ申し訳なさそうに言葉にした。
ルシアードは恋人の心を痛めた様子に、逆に苦しそうな顔になっていた。
「何も言わずに去ったほうが良かったか?」
彼はふとそんなことを口にする。
恋人のもとに来るよりも、さっさと実家に引き戻った方が良かったのかもしれないと思ったからだ。
けれどそうなるとエレナとは二度と会えないだろうし、お互い消化不良の感情を抱えたままずっと長い時間を過ごすことになる。
それはどう考えても2人にとって良い未来とは言い難かった。
「ううん。それはない。そんなことはない。逃げずにちゃんと来てくれて嬉しい――あなたも私も今は被害者だから」
「いつか加害者になるそんな言い方をしないで欲しいな」
「加害者にはならないわよ」
「ならどうする?」
太めの糸で編み込まれたネットの中に、大ぶりなガラムが十個1つで売られている。
ネット二つ分を手にして、エレナはふふ、と意味ありげな笑みを浮かせる。
「まだわからない、でも、エリオットの出方次第では家族総出で、ギルドも国も巻き込んで裁判とかすると思う」
「竜殺しの二つ名と、戦女神ラフィネの司祭の立場は強いな」
「そうなった時あなたはどっちに着く?」
購入したガラムをどう調理しようか、と二人で市場を歩きながら意見を出す。
茹でてもいいし、パエリエのように米と一緒に炊いてもいい。
噛むと鶏のモモ肉のような触感があって、濃厚な搾りたての山羊のミルクのような味がする。
赤唐辛子と一緒に大鍋に刻んだ野菜などと一緒に入れて煮るもよし、貝柱だけを取り出しておおまかに切り、油を使って焼いてもいい。
どんな調理方法にも合う、牛や豚などの肉類をも合わせても喧嘩をしない、多様な用途に応える食材だ。
「それはもちろん君の方に」
「身分と立場を捨ててまで恋人のために生きることなんてないと思う」
「意外な返事だ‥‥‥」
「好きな人の未来を奪ってまで幸せになりたい女なんていないから」
あっさりとした彼女の意見にルシアードは驚いた。
「一緒にいたいのかそれとも嫌なのか、君の意見はコロコロ変わるから判断が難しいよ」
「結婚したいのは本当よ? 仲良くなってずっと一緒にいてたくさんの子供に囲まれて、親孝行もしたい」
「俺は頑張って働かないとダメだね」
「そうかしら? コカドリーユの出産くらいの子供は欲しいけど。あなたは研究に生きればいいと思う。私が働けばいいだけの話だし」
「四つ子は想像できないな‥‥‥」
肉屋では魔獣の肉を購入した。
雄鶏とヘビとを合わせたような姿の魔獣で『コカドリーユ』と呼ばれている、ラーベラの特産物だ。
コカトリスの亜種で、人間が畜産のために品種改良をほどこした魔獣だ。
近郊の牧場で飼育されているこいつらは大きさは牛ほども。
全体的に白い羽毛に覆われていて、見た目は大きさを除けば雄鶏と大差ない。
野生のコカトリスには視線で敵を石化する魔法があるから、その機能を削いだのがコカドリーユだ。
味は部位によっても他生の差異はあるけれど、だいたい牛肉によく似ている。
人に懐くし、仲間意識が強く外敵が襲ってくれば、雌を守って戦ってくれる。
牧童を置くよりも、オスのコカドリーユ一頭とメスのコカドリーユ数十頭で畜舎を作った方が、よほど採算が取れるというから、飼育もしやすいのだろう。
メスが産む無精卵は透明な殻に覆われているがとても頑丈で、堕としたくらいではヒビひとつはいらない。
産んでから二週間は鮮度を保つことから、輸送にも大きな手間暇がかからず、土地の農家の貴重な収入源となっていた。
その他に新鮮な根菜類や魚果物などをたくさん購入して、2人はエレナ宅へと向かった。
父親のミゲルと母親のミアーデは、実の我が子のようにかわいがっているルシアードの来訪をよろこび、彼がしばらく泊まり込みで研究をしたいというと、快諾した。
ルシアードはドラゴンの皮革に含まれる魔法を反発させる効果を研究している。
この街でもっともドラゴンと接することが多く、その深淵まで踏み込んだのは誰か。
それは竜殺しミゲルしかいない。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる