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番外編SS
七夕SS
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「七夕か……」
とある夏の昼下がり。
近所の家の軒下から、笹の葉がたくさん生えて見えた。
最初は若い竹が生い茂っているのかと思ったら、そこには色とりどりの紙細工で化粧を施された、笹が一本。
そっと設置されている。
それを見て、抱介はそういやもう夏だもんなー、と小さく呟き、爽快に冴えわたる夏の空を見上げた。
これから問題児たちと一緒に水着を購入しに行くのだ。
学校の授業お昼からふけて、一度帰宅し、それから目的地で合流する。
それは市民プールであり、その前に「水着を試着購入するから付き合え」という、槍塚姉妹の命令が待っていた。
俺の願いはたった一つ。
あの小悪魔たちに翻弄されないことそれだけ。
抱介はそう願い、帰宅したら短冊に書くことを脳裏で選びつつ、ショッピングセンターに向けて歩き始めた。
☆
「プールに行きませんか」
「まだ寒いだろ。七月頭だし」
「市民プールなら屋内で温水ですよ」
「この後に?」
「ええ、先輩と。お姉ちゃんと、ウチと三人で」
槍塚牧那がそんな提案をしたたのは、昼休みのことだ。
抱介たちの学校では、学年にもよるが六月末に期末試験がある。
それをどうにか乗り越えたら、二年、三年は大学受験に向けた模試を受けさされて、否が応でも自分の成績と向き合うことを余儀なくされる。
それがどうにかこうにか良い成績で終わった……と、思ったら、そんな提案がきた。
しかし、まだ木曜日。
週の終わりまであと二日もある。
基本的に平日は平日のことを。
休日はのんびりと余暇を過ごす。
それが抱介のポリシーだったから、出る返事は決まっている。
「土曜日にしないか」
「今日がいいんですよ。七夕だから」
「……意味が通じないんだが」
「市営プールの隣にあるイオンがセールやってるんです」
「はあ。何を購入しようと考えてるんだ、お前」
「分かんないですか? 嫌ですね、先輩。本当に鈍感なんだから」
「……」
何を察しろというのか。
場当たり的に始まったクイズゲームに付き合わされること数分。
うまいこと回答を導き出せない抱介を前に、牧那はやれやれ、と肩を竦める。
ずっと黙って二人の様子を眺めていた、槍塚季美が、「実はね」と口を挟んだ。
「今年の新作水着の販売って五月ぐらいからやってるんだけど」
「え?」
「あそこって三階建てでしょう?」
確かそうだった気がする。
いや、ショッピングモールが三階までだったんじゃないか?
「吹き抜けになっている通路のど真ん中で、水着を販売してるのよ」
「え……ええ?」
「建物の真ん中が吹き抜けになっていて、ところどころ、両際の通路とつながってる場所があるでしょ」
あった気がする。
そこにはソファーが幾つか配置されていて、土日に訪れると、いつも家族連れで買い物にきて、子供たちの面倒を見るのに疲れ果てた父親たちが、身体を休めているイメージが強い。
そんな場所で水着は販売しているってどういうことだ?
しかも……二階、だよな?
上から見えたりするんじゃないか。
「上から見えないわよ。そういう風に衝立でちゃんと仕切ってあるから」
「そんなこと考えてないよ……」
脳内を読んだかのように季美が抱介の考えを的確に言い当てると、それを聞いた牧那がにへらっ、とした笑みを顔に浮かべた。
「先輩ー、もしかして私たちの水着姿見たいんですか? 着替えてるとことか上から覗こうって思ってます」
「思ってねえよ、どっかの変態と一緒にすんな」
ちらっと思い浮かべたよ。それは間違いない。
ついでに俺以外の奴に見られたくないとも思った。
それは、牧那でも季美でもなく。槍塚姉妹、二人に対してそう思ってしまった。
あの一件以来、いつの間にか、姉妹と共にする時間が長くなりすぎたのかもしれない。
独占欲が、ゆらりっと心から顔を覗かせていた。
「本当に? まあ、まきは見せてもいいですけど」
「こんな場所でやめろ。まじでやめろ、俺が誤解される!」
「季美も別にいいけど?」
「ちょっ、おい……っ?」
『だって、プールで泳ぐんでしょ?』
姉妹の声がハモった。
いやそうだな。確かにそうだ、プールで泳ぐぶんには普通に見えるよな、うん。
てっきり売り場で試着した水着姿を披露してもらえると思って、心が舞い上がってしまった。
現実は甘くない。
「じゃあ今日はさっさと帰りましょう」
「まだ午後からの授業があるだろう」
「見たくないんですか?」
「だから何を――」
疑問点を姉妹が懇切丁寧に解説してくれた。
「一緒に買い物に行って」
「水着売り場で、私たちに合う水着を抱介に選んでもらって」
「それから市民プールに行くんです」
「夜の20時までやってるから。ゆっくりとできるわよ」
「残念ですね。午後の授業を受けてからだと、ウチらの水着を購入する姿が見れない」
「違うわよ、牧那。試着する姿を見れないの間違いでしょ」
「あ、そうそう。季美の言う通り」
「お姉ちゃんと言いなさい」
「はーい」
……。
この仲良し姉妹は!
仲良しっていうより。で悪魔のささやきじゃねえか。
そして今、彼は水着売り場の前にいる。
試着ブールの向こうからは、姉妹のどちらかが出てこようとしていた……。
とある夏の昼下がり。
近所の家の軒下から、笹の葉がたくさん生えて見えた。
最初は若い竹が生い茂っているのかと思ったら、そこには色とりどりの紙細工で化粧を施された、笹が一本。
そっと設置されている。
それを見て、抱介はそういやもう夏だもんなー、と小さく呟き、爽快に冴えわたる夏の空を見上げた。
これから問題児たちと一緒に水着を購入しに行くのだ。
学校の授業お昼からふけて、一度帰宅し、それから目的地で合流する。
それは市民プールであり、その前に「水着を試着購入するから付き合え」という、槍塚姉妹の命令が待っていた。
俺の願いはたった一つ。
あの小悪魔たちに翻弄されないことそれだけ。
抱介はそう願い、帰宅したら短冊に書くことを脳裏で選びつつ、ショッピングセンターに向けて歩き始めた。
☆
「プールに行きませんか」
「まだ寒いだろ。七月頭だし」
「市民プールなら屋内で温水ですよ」
「この後に?」
「ええ、先輩と。お姉ちゃんと、ウチと三人で」
槍塚牧那がそんな提案をしたたのは、昼休みのことだ。
抱介たちの学校では、学年にもよるが六月末に期末試験がある。
それをどうにか乗り越えたら、二年、三年は大学受験に向けた模試を受けさされて、否が応でも自分の成績と向き合うことを余儀なくされる。
それがどうにかこうにか良い成績で終わった……と、思ったら、そんな提案がきた。
しかし、まだ木曜日。
週の終わりまであと二日もある。
基本的に平日は平日のことを。
休日はのんびりと余暇を過ごす。
それが抱介のポリシーだったから、出る返事は決まっている。
「土曜日にしないか」
「今日がいいんですよ。七夕だから」
「……意味が通じないんだが」
「市営プールの隣にあるイオンがセールやってるんです」
「はあ。何を購入しようと考えてるんだ、お前」
「分かんないですか? 嫌ですね、先輩。本当に鈍感なんだから」
「……」
何を察しろというのか。
場当たり的に始まったクイズゲームに付き合わされること数分。
うまいこと回答を導き出せない抱介を前に、牧那はやれやれ、と肩を竦める。
ずっと黙って二人の様子を眺めていた、槍塚季美が、「実はね」と口を挟んだ。
「今年の新作水着の販売って五月ぐらいからやってるんだけど」
「え?」
「あそこって三階建てでしょう?」
確かそうだった気がする。
いや、ショッピングモールが三階までだったんじゃないか?
「吹き抜けになっている通路のど真ん中で、水着を販売してるのよ」
「え……ええ?」
「建物の真ん中が吹き抜けになっていて、ところどころ、両際の通路とつながってる場所があるでしょ」
あった気がする。
そこにはソファーが幾つか配置されていて、土日に訪れると、いつも家族連れで買い物にきて、子供たちの面倒を見るのに疲れ果てた父親たちが、身体を休めているイメージが強い。
そんな場所で水着は販売しているってどういうことだ?
しかも……二階、だよな?
上から見えたりするんじゃないか。
「上から見えないわよ。そういう風に衝立でちゃんと仕切ってあるから」
「そんなこと考えてないよ……」
脳内を読んだかのように季美が抱介の考えを的確に言い当てると、それを聞いた牧那がにへらっ、とした笑みを顔に浮かべた。
「先輩ー、もしかして私たちの水着姿見たいんですか? 着替えてるとことか上から覗こうって思ってます」
「思ってねえよ、どっかの変態と一緒にすんな」
ちらっと思い浮かべたよ。それは間違いない。
ついでに俺以外の奴に見られたくないとも思った。
それは、牧那でも季美でもなく。槍塚姉妹、二人に対してそう思ってしまった。
あの一件以来、いつの間にか、姉妹と共にする時間が長くなりすぎたのかもしれない。
独占欲が、ゆらりっと心から顔を覗かせていた。
「本当に? まあ、まきは見せてもいいですけど」
「こんな場所でやめろ。まじでやめろ、俺が誤解される!」
「季美も別にいいけど?」
「ちょっ、おい……っ?」
『だって、プールで泳ぐんでしょ?』
姉妹の声がハモった。
いやそうだな。確かにそうだ、プールで泳ぐぶんには普通に見えるよな、うん。
てっきり売り場で試着した水着姿を披露してもらえると思って、心が舞い上がってしまった。
現実は甘くない。
「じゃあ今日はさっさと帰りましょう」
「まだ午後からの授業があるだろう」
「見たくないんですか?」
「だから何を――」
疑問点を姉妹が懇切丁寧に解説してくれた。
「一緒に買い物に行って」
「水着売り場で、私たちに合う水着を抱介に選んでもらって」
「それから市民プールに行くんです」
「夜の20時までやってるから。ゆっくりとできるわよ」
「残念ですね。午後の授業を受けてからだと、ウチらの水着を購入する姿が見れない」
「違うわよ、牧那。試着する姿を見れないの間違いでしょ」
「あ、そうそう。季美の言う通り」
「お姉ちゃんと言いなさい」
「はーい」
……。
この仲良し姉妹は!
仲良しっていうより。で悪魔のささやきじゃねえか。
そして今、彼は水着売り場の前にいる。
試着ブールの向こうからは、姉妹のどちらかが出てこようとしていた……。
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