王都のチートな裏ギルド嬢

和泉鷹央

文字の大きさ
18 / 36
2.ダンジョンの爆破魔

11.地上への帰還

しおりを挟む
「えー……と。その、御二人の犠牲は尊いものですが、もうすでにありますので、器は」
「え?」
「あ……嘘」
「本当です。でも一つ問題がありました。入れないんです、というかダンジョンコアに人格はないので、その計算さる部分と言いますか」
「……魔導知能みたいなものってこと? 演算して結果から物事を予測して、ゲームの駒のように穴菜たちを動かして、優位に物事をすすめる、みたいな?」
「そうそう、シリルさん。さすがです、その通りです。容量はあまり要らないのです、私一人でも問題ありません。問題なのは、それをあちらの魔導知能から私へと転送するためには、物理的な何かが必要なのです。それがわかりません」
 
 ああ、それで壁抜けを利用したらいいけど時間がかかると言ったのかとシリルは納得した。
 エミリアはよく分からないようで、きょとんとした顔をしている。
 役立たずの後輩はいまさら無用だ。
 シリルはエミリアを無視することにした。

「応用しなくてもいいと思うわ」
「どういうことですかね?」
「私があなたとダンジョンコア、もしくはダンジョンコアが別のハサイヒメに命じてその周囲にだけ、独立した防御網を張り巡らせたらいいのよ。そこだけ、空間を切り取って、捻じ曲げて、ひっつける。それで独立した物理法則が適用されるから、その中で壁抜けを利用して……ね?」
「ああ、なるほど。その考えはなかった。単純に移動することしか考えていませんでした。なるほど、こちらからあちらへと行けばいいわけですか。しかし、そうなるとそちらが困るのでは?」
「……ダンジョンの崩落だけは勘弁だから。基礎的な素材をすべて固定化して普通の意志や大地にして貰えないかしら。それだけでいいわよ」
「……もし、私達が地上へ出たらどうします?」
「あー……どれくらい人数いるの? 増殖とかする?」
「ははは、いやいや、しませんよ。ダンジョンの中にいるから生息できたのです。ダンジョンコアがこのダンジョンの全てを放棄して私という移動できる素体を手に入れるなら、彼はそれからは一人か……」
「ナターシャ、貴方ただけを望む?」
「そこは分かりませんが、静かにいろいろと回りたいですねー。それで世界を知りたい。マスターにも会いたいので」
「マスターって、製造者ってこと?」
「はい、これでもいるんですよ。この世界のどこかに。ちなみにこのダンジョンは製造ナンバー六。総計でマスターが手掛けたダンジョンは十二を越えますかね。詳しくは分かりません」

 もう、十分詳しく語られた気がするのは気のせいだろうか?
 とりあえずこのままではダンジョン内部に封印されそうなので、シリルは自力で鎖をバラバラにして戒めから脱出した。
 後ろで、「ああっ!」とか悲鳴が聞こえたけど相手にしない。
 多分、渾身の力作だったのだろう。その程度で満足するとは、魔法学院の質も落ちたものだとぼやきながら、シリルはエミリアをがしっ、と杖の先でひっかけて足元に引き寄せる。

「そう、ならそれでいいわ。もういろいろと関わり過ぎた気がするから、地上に送還してくれないかしら。失敗したときの為に逃げておきたいの」
「冷たいですねーさすが魔族」

 魔族だって名乗ったかな? 
 名乗った気もするけど、どうでもいい。
 崩落の危険からまずは逃げ出さないと。そして、地上でやることもある――と、思ったらナターシャの最後の一言が来た。

「次は本当の御二人に会いに行きますねー。さよーならー」

 ぐっと胸の奥の真実を掴まれたような気がする。
 そこまで見破られていたか。
 足元を見ると、エミリアがどうしようばれちゃった、と寝ぼけたことを言うから蹴飛ばしてやった。

「きゃんっ」
「お黙り! 要らない事ばっかり言わないで! さっきの反抗、戻ったら話があるからね」
「ひえっ」

 さよーならーと手を振るハサイヒメ、ナターシャに見送られて二人はシリルの転送魔法により、地上へと生還を果たした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

処理中です...