冒険者を生還させるな!と命じられた超一流の迷宮ガイド、魔獣生物学者の助手に転職する~高年収な上に美少女ダークエルフと旅ができて最高です~

和泉鷹央

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第二章 聖女と黒狼

第17話 賢人会

「しくじったようではないか、バクスター」

 闇の中に潜む、数人の視線がダークエルフの男を見つめていた。
 彼に突き刺さるその意図は、しくじり、怒り、誹り、そういったものだった。

「ほう。俺がしくじりをした、と……?」

 銀髪を短く刈った髪型のいやに鋭い目つきの男は、ぐるりと宙を見渡した。
 彼らの。

 賢人会という通称の割に、こんな暗闇のなかでしか会話ができない、顔を晒すことすら恐れる者たち。

 自分の上司にして、臆病な総合ギルドの運営者たちに、バクスターは白けた気分になる。

「カラムを知っているか。優秀な暗殺者だったダークエルフの若い女だ」
「もちろん。だが、姿を見た者はいない。今回、接触したのも初めてだった」
「あれには特別な任務ばかりをこなさせてきた。今回もそうなるはずだった」

 ……生還率九割を超える、凄腕の案内人の暗殺。
 地下世界の魔獣たちを避け、依頼者を生還させる任務は、ある意味で王族の暗殺を成功させるよりも難しいものがある。

 そのことに熟知していたからこそ、カラムという顔の見えない凄腕の殺し屋を使うことにしたのだろう。

「彼女がどうかしましたか」
「……死んだ。返り討ちにあったと我々は見ている」
「返り討ち? だが、依頼は勇者パーティーに参加することで中断されたはず」

 そうだ、と目の前の闇のなかに潜む彼らの一人が頷く。
 どういうことだと、バクスターは眉根を潜めた。

 そこはとある屋敷の一室で、普段はなにもない倉庫のように使われている部屋の一つだった。

 歩けば十歩も行かないうちに壁へと到達して、そこにある小窓に手が届くようなそんな場所だ。

 なのに、いまそこにあるのは黒々とした深い闇で、あちら側には数人が座する円卓があり、こちら側には小窓からの春の斜陽が差し込んでいる。

 太陽は真昼を過ぎて、西の空へと傾き始めたようで、この時間にはもっとも陽が差し込む角度にその小窓はあるのに、室内の闇はちっとも晴れようとはしない。

 それどころか更に深みにはまっていきそうな、こちらを飲み込みそうな黒い霧が辺りに立ち込めていて、男はぶるっと背筋を震わせた。

 境界線となっているあちら側の別の誰かが、口を開いた。

「そうですね、バクスター様。カラムは少し先走ってしまったようです。あなたから依頼を聞いた、数日後には自宅のマンションから飛び降りて死体となりましたよ」

 誰かが暗闇の中にいるのに、なぜか影が人の形を取ってそう告げた。

「それではあちらのミスということになる」

 怪訝な顔では鳶色の瞳を曇らせた。

 陽光と闇と、黄金と黒の室内に絹のような輝きをみせる銀髪は、いずれダークエルフを統べる存在となるだろう。

 三色が混じり合い、奇妙な同調を伴って恐怖よりも荘厳と呼べる雰囲気がそこには漂っている。

 彼の問いに、また別の誰か。
 今度は先の二名が男性だったのに対して、女性の声だ。

 まだ若くて幼さを感じさせる声だった。

「確かに、カラムは先走り過ぎました。ですが任務は任務です。あの男、迷宮案内人はあまりにも多くの秘密を知りすぎました。あなたは分かっているでしょ?」

 それを聞いて、バクスターはさして驚きもしなかった。
 迷宮案内人キースが回避した危険な財宝などの隠された罠は数百に及ぶ。

 その全てが、未だ手つかずのままだ。
 彼がそれらを全て手に入れようとしたら、あっという間に大富豪になるだろう。

 地下世界に、新しい勢力が生まれることになる。
 それは、地上世界の支配者たる彼らからしてみれば何も面白いものではなかった。

「ならばどうしようとおっしゃいますか」

 と、バクスターは短く問う。

「生憎と自分の部下には、死んでいった彼女以外の手練はいませんよ。あれほどの使い手は、なかなかいない」

 動きようがない。
 有能な部下のいない今の自分には。

 どうすればいいかも思いつかなかった。

「それでは内務調査局のマスターの座に就くことはできませんね、バクスター様」

 幼い声が小ばかにするようにそう言った。
 銀髪が照り返した陽光を受けて見えたその輪郭は、やれやれと首を横に振る。

「……殺さなければならないのですか? ギルドから追放して、迷宮に入れなくしてしまえばいい」
「そうでなければなりません。しかし厄介なことに、地下世界には日雇いという制度があるのです。また勇者パーティが生還すれば、彼は棄民から解放される。そうなった時、彼の知る地下世界の財宝のありかは、必ずあの男が我々の脅威となるでしょう」

 幼い声は残酷な響きをやめて諭すように語った。
 誰が王国を支配するかは、自分たちが決める。
 不遜で大胆でとてつもなく恐ろしい響きだった。

「一応私にも、内務調査局の一員として些細なプライドがあるのですよ。彼が勇者様達の任務を手伝うことにより正当な報酬によって自由になることができたなら、彼を罰するものは法律にはありません」
「面白いこと。法律なんて関係ないんですよ」

 あなたのプライドなんて大したことないでしょう、と幼い声は言う。
 そして、闇の中からいくつもの嘲笑がこだました。

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