上 下
2 / 11

2.新品のリーバイスみたいに真っ青なカサブランカの空

しおりを挟む
「マドモワゼル、何かお探しですか?」
わたしに解ったフランス語は厳密にいうとそれだけ。
はじめまして。怪しい者ではありません。ご旅行ですか?とか何とかそれらしき言葉を相手が発してるとしても。
わたしは迷子の仔犬。男は犬のお巡りさん。
金髪の男はニコニコと微笑みながらわたしの顔を覗き込む。
その態度、その眼差し。ちょっと待って。この人ふざけてる?
言葉が半分もわからないとしても、小馬鹿にされている気がして。
だけどもの凄くイイ男。そんじょそこいらの男前とはレベルが違う。
地球の反対側にはこんなギリシャ彫刻男がゴロゴロ居るってわけ?
新品のリーバイスみたいに真っ青なカサブランカの空が二人を見つめてる。嘘でしょ。あなた近過ぎ。
さあ、もっとアクションを続けて。でないとわたし…。

固まっているわけではない。観察しているのだ。
急に思いついた。
この男はわたしの大枚叩いて買ったセリーヌのバッグをひったくる気じゃないかしら?って。遅過ぎ。
わたしは全財産を盗られて立ち尽くすのだ。見知らぬ異国の地で。可哀想なわたし。
そういう場合はどうするの。そうだ、大使館だ。大使館を探さなくちゃ!
わたしはキョロキョロと周囲を見回した。
突然男のブルーの瞳が豪快に笑った。
「フランス語話せますか?」
「全然わかりません」わたしはフランス語で答えた。

「驚かせてすみません」ブルーアイズは日本語で言った。
わたしはそっちに驚いた。日本語、流暢過ぎ。
持っていたパンを落としそうになるくらい。
ブルーアイズはそのパンを宙でヒラリと掴んで、もう一度わたしの手に持たせた。まるでマジシャンみたいな身のこなし。
おかえりなさい。わたしのパン。
あなたは手品師、詐欺師、大道芸人?それとも…
「日本人?」
「そう見えます?」ブルーの瞳がキラキラどっこいしょ。
「いえ、全然」わたしは顔が熱くなった。夏のせい?カサブランカは今、秋だったはず。
何だろうこの外人、わたしをからかっているのか。いや、此処じゃわたしが外人か。

どうしよう。恋に落ちそうだ、わたし。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

我ら旧人類遺産調査部隊

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

犯罪者育成プログラム

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

天使との恋は禁物ですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

ベリーショコラ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

悪魔がいっぱい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

喧嘩凧

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

学生の俺

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

熊弥がくれた御守【32】

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

29歳、独身女の婚活殺人ミステリー

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

「磨爪師」~爪紅~

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:20

処理中です...