エステティシャン早苗

MIKAN🍊

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5.弁護士 八ヶ岳

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若木邸。その客間。
マホガニーのマントルピースの前で若木猛、芙美子夫妻、そして顧問弁護士の八ヶ岳信郎の三人が文字通り膝付き合わせていた。

「残念な事に早苗さんは被疑者から被告人になりました。おわかりですね。古い言い方をすれば未決囚というわけです。裁判が始まり刑が確定するまで拘留される事になります」
八ヶ岳はこれまでの経過を簡単に説明した。

「…これから検察官に対して妥当な理由がない事、つまりこれ以上拘留の必要性がない事を主張していきます。早苗さんはすでに罪を認めていますし、証拠隠滅のおそれもましてや逃亡の理由もない」
「当たり前だ!」
「あなた!」

「保釈の可能性から言えば、被告人が病気だとか親族が危篤状態にあるとか、そういう特殊な場合も認められます」

「私に大怪我しろと言うのか?」
「あなた!それなら私が!」
「いやいや待って下さい。そういう場合もあるという話しです。これからそういった細々としたお話しをします。少しでも早く早苗さんを自由にしてあげる為にね」
八ヶ岳は汗をぬぐった。そしてヒヤヒヤしながら先を続けた。

「公判までは約一カ月です。実刑判決が出た場合大半の費用は無料。執行猶予がついた場合は有料となります。まあその、弁護料は別の話しですが」
「わかっている。いくらでも欲しいだけ出してやる。金の亡者は腐るほど見てきてる」
「あなた…」

「判決が不服なら初公判の日から二週間以内に不服を申し立て控訴する事ができます。しかしながら最高裁まで争っても無罪の判決が下る可能性は年に一人いるかいないか程度です。お勧めはしませんね。初公判ですべて決まると言っても過言ではないでしょう」
「ああ、あなた…」

芙美子は貧血で倒れそうだった。
若木猛は庭の木々を憎々しげに睨んでいた。

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