エステティシャン早苗

MIKAN🍊

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6.紀伊国屋宗介と飛鳥乙芽

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紀伊国屋宗介は目を覚ました。
リクライニングシートを引き起こしラジオのスイッチを入れると突然、ビートルズの『All My Loving』が始まった。

イントロなしでスタートするポールのボーカルがサビのシャウトまで一気にドライヴしていく。
リズムギターはジョン。軽快なメロディーに鳥肌モンのギター・カッティングが並走する。
ハモッているのはジョージだ。

夢のような目覚めだった。
「ナヨナヨしたガキは好かねえがこいつらは別だ」
ダッシュボードに載せたミラーのレイバンを鼻先に突っかけ、宗介はイグニッションキーを回した。
まるで自分の人生に点火するように。

環状七号線を型落ちしたセドリックが疾走する。
車高を下げた年代物の白いクジラが唸りを上げる。
東京拘置所に向かって。



その頃、若木芙美子は自室に戻り悲劇のヒロインに浸っていた。

コンコン…

「会いたかったわ」
「私もです。奥様」
ドアを開けたのは若木猛の専属運転手、飛鳥乙芽だった。
「あの人は?」
「羽田まで送って参りました」
「いつだって仕事仕事なのね…早苗がこんな時なのに」
「私でよければ」
「癒してくれるというの?」
「出来る限り」
「ああ… 乙芽…」
「奥様」
二人はひしと抱きしめ合った。

「奥様はよして。芙美子と…」
「芙美子、愛しているよ」
飛鳥乙芽は芙美子の口を吸った。
そのふくよかな乳房に手を添えて。
「欲しかったんだ。こんなにも」
「ああ…」
「もうこんなに濡れている…」

「脱がせて。乙芽…何もかも忘れさせて」
春の柔らかな陽光が部屋一杯に満ちたりていた。

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