【改訂版】 戦艦ミカサを奪還せよ! 【『軍神マルスの娘と呼ばれた女』 2】 - ネイビーの裏切り者 -

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第二章 対決

50 弟の仇、帝国の小娘を殺せ!

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 弟ツァオの死を知らされ、テイは天を振り仰いだ。

 幼いころから悪事も苦行も、痛みも苦しみも喜びも共に分かち合った唯一の肉親。あのツァオがこうもあっけなくやられてしまうとは・・・。

 いったい、その小娘はどこにいるんだ!

 ツァオ、お前の仇はオレが必ずとってやる!

「絶対に、許さねえ・・・」

 テイは腰の半月刀を抜き、部下たちを叱咤した。

「いいか、必ず小娘を見つけ出すんだ。2人一組で行動しろ。単独でやり合うな。見つけたら笛で知らせろ。わかったら、行け!」

 殺せば1両。生かして捕らえれば3両だと聞いた。

 だが、もはやカネではない。捕えたら思い切り辱めて、切り刻んで、殺してやる!

 そう心に決め、過去幾人もの人間の血を吸った半月刀の鈍く光る刀身に歪んだ顔を映し、その冷たい鋼の肌を舐めた。

 テイは部下たちを艦内各所に散らし、自らも2、3名を率いて多くの兵員たちがいる居住区や兵員食堂を回った。

 ミカサの兵たちは信じられないほど従順だった。

 100名近い男女の水兵たち。肌の色の白いのや黄色いのや中には黒いのもいた。全員テーブルに着いていた。皆一様に突然入って来たテイたちを睨んでいた。

 だが、テイは思った。

 これがわが王国を何度も屈服させてきた帝国の軍人たちなのか、と。

 あまりにも不甲斐なさ過ぎて、拍子抜けしそうなほどだった。

 首領のミンからは厳命を受けていた。

「弾薬庫と機関室の立て籠もりは放っておけ。どうせ永久に立て籠もるわけにはいかんのだ。ハラも減るだろうしな。泊地に着いたら自然に降伏する。それまで人数を張りつけて逆に閉じ込めておけばよい。あとの丸腰の水兵どもだが・・・。

 テイ。大事な人質達だからな。むやみに危害を加えてはならんぞ。私の命に背けばどうなるかはわかっていような」

 だから、乱暴はしなかった。

「この中、女いるか? 若い茶色い髪。背はこのぐらい」

 片言の帝国語が話せる部下に通訳させ、テーブルを回った。乗艦した際の交渉の場で一度だけ見たから顔は覚えていた。が、魚の腐ったような目の白人たちはどれも同じような顔をしていてわかりにくかった。

「隠すとためにならんぞ。そう、言え!」

 部下がテイの言葉を通訳して回った。が、皆黙っているだけで要領を得なかった。

 水兵たちの中に、自分たちが攫って来た子供が何人かいた。その一人の、負けん気の強そうなガキと目が合った。ガキは顔の周りをオニオンソースだらけにしてキツイ目でテイを睨んできた。

「・・・ふん!」

 どうもここにはいないようだ。

 諦めて居住区に行くことにした。


 


 


 

 メイヤー少佐は自分の軍服の袖を引き千切り、切り裂いて副長の脚を何カ所かで縛り止血した。

「動脈は外れているし、弾も抜けている。だが、すぐに医官に見せた方がいいな」

「ありがとう、ジャック・・・」

 副長は痛みに顔を歪め、脂汗を額に滲ませて呻いた。

 ラカ少佐は舷窓に顔を寄せ、艦首方向に目を細めていた。

「見えてきましたよ。・・・何隻かいます。あれは、鉄甲船ではありませんか?」

 メイヤーがラカの傍に寄った。

 右舷の機関車の軌道の先に大きな湖が広がっているのが見え、そこに大小さまざまな船が浮かんでいた。大型の木造船に装甲を張った黒い船が何隻か停泊し錨を下ろしているのが見えた。

「おお・・・。意外に大きいな。それにしてもやつら、こんな湖に水上戦力を隠していたんだな。水深もありそうだ。ややっ、あれは・・・。チャレンジャー級ではないか!」

 マルセイユを母港とする第三やキールの第四艦隊に配備されているチャレンジャー級の軽巡洋艦と同じ艦影がそこにあった。進水したばかりで現在艤装工事中らしく、艦の上部構造物の上に竹で作った足場が幾重にもかけられていた。

「あんな艦の図面までが盗まれていたのか・・・」

「海軍だけではあるまい」

 気が付くとワワン中将の長身が背後にあった。

「陸軍の兵器も、相当な秘密が盗まれているのだろう。恐らくは図面だけでなく、現場の職人も相当数がチナに渡っているのだろう。今後のいくさは手強いものとなるだろうな」

 テーブルではデービス大尉と、通訳のためにブリッジに送り込まれた下士官のマークとが、テーブルクロスを引き裂いて副長のために止血用の包帯を作っていた。


 

 前部の弾薬庫は扉も上の砲塔直下の水密ハッチも堅固に施錠されていた。

 テイはその状況を確認し、抑えの部下に指示をした。

「あと1時間で泊地に到着する。それまで中のネズミどもをしっかり監視しておけ!」

 すると艦尾の方向から艦内捜索に回していた部下が息せき切って走って来るのを見咎めた。

「どうした! また誰かやられたのか!」

「アニキ、ちょっと来てください!」

 部下に案内されて2フロア上の上甲板下、ほぼブリッジの真下にある通路に上がった。部下が唇に指を当てて静かに、のジェスチャーをしながら天井を走る通風ダクトの片隅を指した。艦内照明の陰になった部分から微かな灯りが漏れていた。

 ダクトを追い、忍び足で歩いてゆくと居室と居室の間の小さなドアのボルトが外されているのがわかった。気配を殺し、そっとその扉に耳を寄せると、中から囁き声が聞こえた。それは帝国語で、明らかに女の声だった。

 ・・・見つけたぞ。

 テイは口の端を引き、ニヤリ、歯を見せた。
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