セピア色の恋 ~封印されていた秘め事~

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30 Hot Love

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 スタジオの下仕事はすぐに覚えたので二週目からは一人で付けるようになりました。ヤマギシ君とはシフトが合わなかったのか二週目に一度見かけましたが昼食の時間も合わず、顔を見て挨拶を交わしただけでした。彼は下宿住まいで徹夜も出来たので、そのせいもあったでしょう。

 二週間で三万円ほど稼ぐことができました。合宿費用を払ってもまだ余裕がありました。

 ところがそこで困ったことが起きました。

 充てにしていた大学からの助成金が減らされてしまったのです。年度半ばになどは異例のことで、部員の誰もが言葉を失いました。ヤマダさんが密かに危惧していたことが現実になったのです。合宿の宿泊費用は個人もちでしたが、そのままでは設備の使用料まで賄うことはできませんでした。

「春のリーグ戦も目立った活躍が無かった。毎日遊んでいるとは言わないがクラブとして何も努力していないと見なさざるを得ないし、そんな不真面目な活動に今まで通りの金額は出せない。その分を夏以降の活動を縮小するか中止するか自分たちで考えなさい。それにこのままではクラブの廃部もありうるからね」

 それが大学事務局側の言い分でした。

「あんなに練習したのに」

「チキショー! 全部四年生のせいだ」

 チームの誰もがそう思いました。

 でもヤマダさんだけは涼し気な顔をしていました。

「要は体育館を借りられればいいのよね、タダで」

「でも、旅館はもう抑えてあるんですよ。今からじゃ変更は無理です。近くにタダで貸してくれる施設なんて・・・」

「あるじゃないの、たくさん・・・」


 

 結果としては、わたしたちは予定通り長野での合宿に向け、中央線の電車に乗ることができました。しかし、それを実現させるための努力には涙ぐましいものがありました。

「自分が持ってるものをフルに活用しなさい。どうしたらいいか、みんなで考えよう。きっと道は開ける!」

 ヤマダさんがそういうのなら大丈夫だろう。わたしたちは道を開くために必死に努力しました。一年生全員が事務局とキャンパス内の公衆電話に手分けして走りました。

「あのう、わたし市ヶ谷女子大バレー部のハヤカワと申します。○○小学校さんでよろしかったですか? 急で申し訳ありませんが夏休み中の体育館を貸していただくことはできますでしょうか・・・」

「はい。タダでとは申しません。お礼にといってはなんですが、ご希望の児童さんには夏休みのお楽しみ教室をいうことで、わたしたちが講師になりまして・・・」

「ファックスでカリキュラム案を送ります。先生方でご検討いただいて・・・」

「・・・そこは全員国立大学の学生ですので。ご安心いただけるかと・・・」

「みんな! 引き受けてくれるって! 公衆電話に行ってる子たち、呼んできて!」

 たった一日で、道が開けました。

「やったじゃん。じゃ、講師の方は一年生でよろしくね」

 ヤマダさんは涼し気にそう宣いました。

 その準備は合宿直前までかかりました。首にかけたタオルで額の汗を拭きつつ、わたしも久々に指先をインクで黒く染め、子供たちのテキストを作るためにガリ版印刷のローラーを回し続けました。

 ヤマダさんはみんなを激励し、アイディアを出しただけです。あとの実施はほぼ一年生が行いました。それでも誰もヤマダさんを恨んだりはしませんでした。それどころか、以前にもまして彼女のシンパは増え、バレー部のほぼ全員が彼女の意のままに動くようになりました。それまでの「自分の学年さえよければあとはどうでもいい」という悪しき伝統の、今流に言えば、「パラダイムシフト」が起こったのです。

「できるよ。これなら絶対優勝できる。秋で勝って、必ずEリーグに上がるからねっ!」

 初日のロードワークが終わって旅館の前で息を切らしている部員の前で、ヤマダさんは気合を入れました。

 朝起きて旅館付近をロードワーク。朝食後体育館を貸してくれた小学校までランニング。そのまま基礎錬。昼食を取りに旅館までランニング往復。午後はまた体育館に戻りセット練習。五時まで練習して旅館に戻り夕食。その後はフリー。

 部屋割は人数の少ない二三年生で十畳間を一室。一年生で一室。

 もちろん、合宿中は男子禁制・・・。

 そういう不文律があったようなのですが、わたしたちの代からそれは有名無実になってしまいました。たぶん、わたしのせいだと思います。


 

 二週間の合宿中日。その日はオフで、二三年生は自主練を含むフリー。わたしたち一年生だけが体育館の使用の対価として小学校に出向き、二人一組で全4クラス、国語算数理科社会、教科ごとに分かれて「おもしろ教室」を開催しました。文学部法学部の子は国語と社会を、わたしを含めた理学部と家政学部が算数と理科をそれぞれ担当しました。

 前に申し上げた通り、わたしが出た高校の教師は変人が多く、物理の教師もその御多分に洩れず、変人でした。アイソトープの授業の時に丸々二時間を使って「ヒロシマ型原子爆弾の威力とその効果」のような授業を行い、後日その内容が校外に洩れ、さすがに左翼系右翼系中道系、いずれの色の親たちからも苦情が来て一時期職員室が大混乱したという逸話があるほどでした。

 その教師のある授業を思い出し、天文学の授業を行いました。当時は真夏の炎天下といっても都心で三十度程度。避暑地である長野などは最高でも二十五度程度で、今のように熱中症など何の心配も要らない時代でした。

 予想に反して希望者が多く、わたしの担当したクラスがもっとも大所帯でした。参加児童全員を校庭に出し、事前に用意した紙芝居とロープと棒と石灰のライン引き。それに体育館にあった様々な大きさのボールだけを使い、二時間もたせました。

「みなさん、こんにちは! わたしは市ヶ谷女子大学のハヤカワミオといいます。今日は皆さんと一緒に太陽系の地図を描いていきたいと思います。太陽系ってなんだろう。聞いたことがあるひとー・・・」

 大学生と違い、小学生の声はカラフルです。青や緑、赤や黄色やオレンジ色の声が一斉に「は~い!」と元気よく跳ね返ってきます。

「は~い。元気いいですねえ。じゃ、一番元気がいい、そこのキミ。キミは何年生?」

「六年です」

「そう。じゃあ、太陽系ってなにかな」

「太陽のまわりを惑星が回ってる」

「そうだね。そこでです。キミに大役をお願いします。これなーんだ」

「バカにしてんの? バレーボールじゃん」

 ガキは生意気。わたしはそれをその教室で学びました。

「ぴぴー。違います」

 ええーっ? 子供たちから一斉に異論の声が上がります。

「ええーなんでェ。だって、バレーボールじゃん」

「これは、今キミが立っているこの地球です。キミはいまからこの地球を校庭のまんなかに置いてきてください。全てはキミのこの地球をもとにして描いていきます。これをどの辺に置けば太陽系が全部描けるか。責任重大ですよ・・・」

「ああ、そういうことかー 」

 そんなふうにして地球から太陽までの距離、太陽の直径を紙芝居で三択問題にして答えさせ、正解した子に太陽を描かせ、そこから近い順にクイズ&ドローイングを繰り返し、最後はみんなで校舎の屋上に登って校庭に描かれた太陽系の全景を見て、それを理解させて授業を締めくくりました。そのころはまだ冥王星は惑星であり、その位置を描くまでに地球や太陽の位置や大きさを何度も変更しなければならない。地球の大きさをバレーボールからピンポン玉よりも小さなマメ粒くらいにしないと校庭一杯を使っても太陽系が描けない。そんなことを学んでくれたと思いました。

 その授業は当然小学校の先生たちも見ていて、

「はあ、大したもんだ。通常の授業にも取り入れたいね」

「是非一度といわず、またやってくれよ」

 とお褒めの言葉をいただきました。他のクラスを担当した子たちもそれぞれに工夫を凝らして、「おもしろ教室」はおおむね好評に終わることができました。最後に校長先生に挨拶して、ぜひ来年も、とお願いまでされ小学校を辞し宿に戻りました。

「えーと、ハヤカワさんているかね。ご実家から電話があったんだけどね、ここに電話してくれって・・・」

 実家にも寮にも不在中の連絡先を置いてきていました。母に何かあったのかとドキドキしながら、渡されたメモを見ると市外局番がおかしいのに気付きました。でも何かピンとくるものがあって、それは口に出しませんでした。

 宿の電話を借り、その番号にかけました。知らない男の人が出ました。

「ハヤカワといいますが、ここにかけろと言われたんですが」

 すると電話の相手が変わりました。受話器の向こうがやけに騒々しかったです。どこかの飲み屋みたいに聞こえました。

「ミオちゃん? 夕飯、何時に終わる?」

 大広間での夕飯の後、二三年生と一年生の居室であるそれぞれの部屋や大浴場にみんなが消えて行くと一人でトイレに行きました。行くフリをしました。

 若い女性ばかりの集団はなにかと騒々しいものです。それが静かになったころあいでトイレを抜け出し、ササッと玄関に行きそそくさと旅館を出ました。寝巻用に着ていたTシャツとショートパンツのままです。時刻は八時。十時までというところか・・・。

 電話で教えてもらったとおり旅館を離れて百メートルほど行くと路肩に青い車が停まっているのが街灯の灯りでわかりました。

 ナガノさんは当時人気のあった青い「ケンメリ」に乗って現れました。助手席のドアを開け、「ケンメリ」に乗り込みました。

「旅館の番号、よくわかったね」

「『ハヤカワミオの父親ですが』って寮に電話したら教えてくれた」

 ナガノさんはニヤッと笑いました。おばちゃんズ、ガード甘すぎだなと思いました。ラジオからは、マーク・ボランの Hot Love が流れて来ていました。何故かこの人の曲はみんなエッチに聞こえて困りました。

 ちょうどナガノさんたちも合宿に来ていたのです。ですが、彼の宿はわたしたちの旅館から五十キロも離れた軽井沢の、大学の専用宿泊施設でした。そこからわざわざ車を飛ばしてきていたのです。お金持ちの大学はいろいろ違うなとおもったものです。

 待ちきれなかったのか、彼は運転しながらわたしの太腿に手を這わし、そこを撫でまわしました。もちろん、彼の指はショートパンツの中に侵入し、下着のクロッチをなぞり始めました。わたしは早くも濡れてしまっていて、それを知られるのがとても恥ずかしかったです。

「ミオちゃん・・・。イケない子だな」

 恥ずかし過ぎてわたしはずっと窓の外を流れる夜景を見ていました。それでも、もう一週間もマスターに抱いてもらっていませんでした。ギアを入れ替えるたびに手がいなくなるのが寂しく感じられるほど、萌えてきてしまっていました。ナガノさんのあの変な性癖のせいで100パーセント彼を受け入れているわけではありませんでしたが、おもいがけなく火を点けられて、欲しくてたまらなくなっていました。節操が、ありませんでした。

 車は真っ暗闇の河川敷の中に停まり、彼はさっそくわたしに襲い掛かってきました。わたしも彼の唇を貪りました。

 シートがリクライニングされ、熱いキスを受けながらショートパンツは剥ぎ取られ下着が下ろされ、Tシャツはすぐに捲り上げられました。布団の中でゴロゴロして寝るだけと思っていましたからブラジャーなんかしていませんでした。

 彼におっぱいを貪られながら、わたしは言いました。

「今日は足でやるのはイヤだからね」

「ええーっ、楽しみにして来たのに・・・」

「イヤなものは、イヤなの!」

「どうしても?」

 生理的に受け入れられることとそうでないことがあります。

 彼にはちゃんと彼女がいるのです。彼女とはそういう行為をせずにわたしには要求するというのがどうにもイヤでした。わたしにしてからがマスターというひとがいるのにナガノさんとしているのですからどっちもどっちのような気もしましたが。

 答える代わりにすでにジッパーが下げられて寛げられていた彼のに手を伸ばして扱きました。

「ゴム、持ってきてないんだ。お腹に出すから、いいだろ?」

 旅館を出てからすでにわたしもしたくてたまらなくなっていたのです。ここまで来て断るなんてできませんでした。助手席に移って来た彼を受け入れました。その体勢で受け入れるには脚を大きく開かねばなりませんでした。開くと窓の外に足が出てしまいます。足首に引っかかったぱんつが夜風に揺れていました。彼のをそこに受け入れながら、昂奮して車の外にぱんつを落とさないようにしなければなとぼんやり考えていました。
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