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しおりを挟むエマが去っても、テーブルには不自然な沈黙が落ちたままだった。
ダニーはずずっと音を立ててコーヒーを啜り、トーストにかぶりついた。それからジーンの表情を見て顔を顰める。
「辛気臭い顔をするな。慰めの言葉はいらんよ。嫌な父親だったのは間違いないさ」
ダニーは肩を竦めた。
「特に息子には嫌われていた。可愛がった記憶もないから、仕方がない。あれに、少しでもあんたみたいな可愛げがあれば話は違っただろうがね」
ダニーが〝嫌な父親〟だなんて、ジーンは信じられなかった。口が悪いところはあるが、彼ほど思いやりのある友人は他にいない。
ネイトが暴力を見せるようになったとき、早く別れるようにと進言してくれたのもダニーだった。拗れるようなら彼の自宅に避難するようにとまで言ってくれて、必要とあらば警察やセキュリティ会社、弁護士にも口を利いてやると請け合った。実際、別れ話は拍子抜けするほどあっさり済んでしまって、ダニーの世話になることはなかったが、あのときダニーがいてくれて、どれほど心強かったか。
ジーンにとって、ダニーは友人であり、実の父亡き今は父のように慕っている。すべての親子が円満な関係を築けるわけではないことは理解しているが、ダニーの息子はきっとろくでもない、薄情な男なのだろう。会ったこともない彼の息子のことが、ジーンは嫌いになった。
「さあ、この話は終わりだ。それよりあんたの新しい恋人の話をもっと聞かせてくれ」
「そうだね」とジーンは微笑んだ。
ジーンも、早くダニーにザックの話を聞かせたい。
きっと、ダニーも彼を気に入るだろう。
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