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診察
しおりを挟む僕は、その笑顔に吸い寄せられるように受付けの前に行った。
「初診ですね、どうされました?」
おばさん看護婦は親しみやすい声で聞いてきた。
いきなり、「どうされました?」って僕に言わせる気なのかと焦ってしまう質問である。
でも、言わないと話が進まないのである。勇気を出して、小声で言ってみた。
「あのぉ、ちょっと、ここが被れてしまったみたいで……」
患部を言葉にするのが嫌なので、指でアソコを指していった。
おばさんはふんふんと軽く頷くと、またも答えにくいことを聞いてきた。
「症状とかってありますか?」
このおばさんは、何眠たいこと言ってるんだと心底思った。
被れているのだから、痒いのに決まってるだろう。
もう痒くて、痒くて仕方ないから、恥を忍んでまで来ているんだよ! と喉まででかかったが、そんな事を言うような根性は持ち合わせていないのである。
僕はグッと高ぶる感情をおし殺して「痒みがあるんです」とだけ言った。
「それじゃ、初診なので、住所と電話番号、それと症状をこの紙に書いてください」
おばさん看護婦から渡された紙には、来院された理由(症状等お書きください)って項目が大きく書くようになっていた。
書かせるなら、最初から聞くなよとつっこみを入れたくなってくる。
住所と電話番号を紙に書いて、症状のところは手短に陰部の痒みとだけ記入した。
書いた紙をおばさん看護婦に渡すと、「しばらくしたら、お呼びいたしますので、その間に熱を測っておいてください」と言われた。
体温計を脇にはさむと、緊張しながら呼ばれるのを待った。
検温が終わる音がピィピィと鳴ったと同時に、私の名前は呼ばれた。
「どうぞ、診察室にお入りください」
僕はいよいよだと思い、立ち上がると診察室のドアを開けて中に入った。
診察室の中には、見た目しょぼくれた感じのする、よれよれの白衣を着たじいさんの医者と、じいさん医者とは不釣合いな若い看護婦が待っていた。
じいさんの医者はいいとしても、若い看護婦がいるのは、これから患部を見せなければいけない私にとっては辛いものであった。
看護婦に医者の前に座るように私は言われた。
医者は、さきほど私が手短に書いた紙をにらめっこしている。
「陰部の痒みってのは、どんな痒さなの?」
医者は鼻毛を出しながら真面目に聞いてくる。
痒みにどうもこうもあるのかよ! と私は思ったのだが、「ひたすら痒い」と言った。
「いや、痒いのは分かってるのだけどね。痛みがあるとか、尿をするときに違和感あるとか、そういったことはありますか?」
医者はあきれたように聞いてきた。
僕はどう答えていいものかと考えあぐねて黙っていると、医者は、「とりあえず、性病かも知れないので見てみようか」と言った。
医者は透明のビニール手袋を装着すると「それじゃ、そこのベットに仰向けに寝て、パンツをおろしてください」と僕にとってとんでもない事を言ってきた。
「さぁ、どうぞ」と若い看護婦がベッドに寝るようにすすめてくる。
仕方なしにベットに仰向けになって寝ると、ズボンのベルトを緩めて、ズボンを膝までずらした。
ずらしたズボンの痕には、青色のトランクスだけが残された。
トランクスをずらすのを躊躇していると、じいさん医者はとんでもない事を若い看護婦に指示したのだった。
「パンツずらしてあげて」
僕は、その時に若い看護婦の信じられない表情を見てしまったのだった。
若い看護婦は医者の指示を聞いて、一瞬ニヤっとしたのだ。
「失礼しますね」と言って、看護婦はトランクスを一気に膝までずらしたのであった。
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