16 / 50
第十六話『黒猫の目が見た王女の狂気』
しおりを挟む
夜の帳が城の中庭に降り、月明かりが白銀のように石畳を照らしていた。遠くの塔の影は濃く、風が高い壁を越えてひそやかに流れ込み、部屋のカーテンをそっと揺らす。昼間のざわめきは跡形もなく消え、廊下を行き交う足音すら途絶えている。
「さて……」
背後から低く呟く声に振り返ると、ニールが壁にもたれ、腕を組んで私を見ていた。
「ちょっと内部の偵察に行ってくる」
「偵察? こんな時間に?」
私が眉をひそめると、ニールは片方の口角を上げ、子どもみたいにいたずらっぽく笑った。
「夜だからこそだよ。昼間は目立つけど、今なら衛兵の目もすり抜けられる」
そう言って私の正面に立った彼は、軽く両手を振るような仕草をした。空気がふわりと波立ち、次の瞬間、そこにいたはずの少年の姿は艶やかな黒毛の猫に変わっていた。
「……猫?」
思わず息を呑むと、小さな口からニールの声が聞こえた。
「俺が変われるのは猫だけなんだ。ご主人様は蛇にもカラスにもなれるんだけどな。俺はこれが限界」
どこか照れくさそうに尻尾を揺らす黒猫の瞳が、月の光を受けて鋭く光る。
「気をつけなさいよ。捕まったら、ただの野良猫扱いされるんだから」
「心配性だなぁ。俺の足なら誰にも見つからない」
ニールは小さく笑い、窓枠にぴょんと飛び乗った。肉球が木の縁を押す音すら、夜の静けさに吸い込まれる。
「じゃ、すぐ戻る」
ひらりと外へ飛び降りる黒い影。その姿が中庭の暗がりに溶けていくのを、私は窓辺に立ったまま見送った。
胸の奥で、不安と期待が複雑に絡み合い、鼓動を早める。あの足音なき影が、どんな真実を私に持ち帰るのか——その時を静かに待った。
■
王女の部屋を後にした俺――いや、この時は黒猫の姿だった――は、闇に溶けるように廊下を駆け抜けていた。背後から響く重い足音が、耳の奥にまで食い込んでくる。振り返ると、巨大な影——ゴリアテが、驚くほどの速さで迫ってきていた。
「……化け物みたいな図体で、なんでそんなに速いんだよ……」
心臓が毛皮越しにも高鳴り、肉球に冷たい石床の感触が刺さる。柱の陰から陰へ飛び移り、呼吸を押し殺す。ようやく足音が遠ざかった時、薄暗い物置部屋の扉が半開きになっているのが目に入った。
好奇心が勝ち、音もなく中へ滑り込む。埃と古木の匂いが鼻をくすぐる。中には古びた肖像画がいくつも立てかけられていた。その一枚には、王女そっくりの女が描かれていたが——髪は黒く塗り潰され、口元には刃物で裂かれたような禍々しい傷が走っている。
「……家族か? いや、もっと厄介な匂いがするな」
背筋に冷たいものが這い、尻尾がぶわりと逆立つ。これ以上はまずいと感じ、すぐに部屋を後にした。城内の奥へ進むと、明かりの漏れる厨房の前に出る。
中では夜勤の下働きの青年が、パンを盗み食いしていた。俺は猫らしく、音もなく背後に現れ、尻尾をゆらりと揺らして足元にすり寄る。
「ひっ……!」
青年が落としたチーズの欠片を素早くくわえ、口の中で転がす。
「お前の秘密は守ってやる。こいつは俺の取り分な」
青年が呆けた顔で見送る中、チーズを味わいながら城の外れへ向かった。人気のない物陰に入り、月光の下で人の姿に戻る。
「……あの女、思ってたよりずっとタチが悪い」
吐き捨てるように呟き、主人公の部屋の前まで歩く。ノックする前、塔の最上階で微笑む王女の姿が一瞬、脳裏をよぎった。背筋にぞくりと冷気が走る。
扉を軽く叩き、開いた隙間から顔を覗かせる。
■
ニールが戻ってきたのは、部屋の蝋燭が半分ほど溶け落ちたころだった。窓辺から音もなく滑り込み、猫の姿のまま私の前に軽やかに着地する。その瞳は月光を映し、どこか興奮の色を帯びていた。
「いやぁ、すごいもん見ちまった」
低く押し殺した声でそう切り出すと、尻尾をゆっくりと一度だけ揺らし、私の足元に腰を落ち着けた。私は視線を合わせ、続きを促す。
「まず、城の北翼は予想通り厳重な警備だった。王女の部屋の前にはゴリアテがいてな……あれは化け物みたいにデカい。肩まで俺の二倍はあるし、全身が岩みたいに硬そうなのに、動きはやたら素早い。廊下を走れば影みたいに後ろにつきまとってくる。何度か本気で尻尾を掴まれそうになった」
私は思わず息を飲む。奴がそんなに厄介とは……。
「逃げ回ってたら、部屋の中から王女の声がしたんだ。『可愛いネコちゃん』ってな。異変に気づいたらしく、扉を少し開けて手招きされた」
ニールはその時のことを思い出したのか、鼻先を小さくひくつかせた。
「部屋に入った瞬間、金糸のカーテンが揺れて、甘く酔いそうな香の匂いが鼻を突いた。床には厚い絨毯が敷かれ、中央の肘掛け椅子に王女エミリアが座ってた。背筋をぴんと伸ばし、まるで舞台の主役みたいに俺を見下ろしていたよ」
その光景を想像した瞬間、私の胸の奥にじわりと警戒心が広がっていった。
ニールは、窓辺の影の中で尻尾をゆるく揺らしながら、低く囁くように語り出した。
「王女はな、女官長エルヴィラを部屋に招き入れてた。あの女……ただそこに立っているだけで、部屋の空気がぴんと張り詰めるような奴だ。若いのに妙に落ち着いていて、氷を思わせる冷ややかな眼差しをしてた」
私はその名を聞き、脳裏に先ほど対面した端麗な女官長の姿が蘇る。その静かな気配の奥に、何か鋭い棘を隠していたのを思い出す。
「そこへ王女は若い新人女官を呼び寄せた。立ち上がった王女は、ふわりとスカートを揺らして近づくと、その子の手をそっと取って耳元に何か囁いた。何を言ったのかまでは聞こえなかったが……新人の顔が一瞬で赤く染まるのが見えた」
ニールの瞳が月明かりを受けて細く光る。
「それから頬や首筋に指先を滑らせて……まるで花びらを愛でるみたいにゆっくりと、しかもわざと見せつけるようにな。あれは新人に向けた仕草に見せかけて、実際は横に立つエルヴィラを射抜いてた。あの視線は……嫉妬を煽るためのものだ」
その光景を思い描くと、私の胸の奥に薄ら寒いものが広がった。王女エミリアの微笑は、愛情でも親しみでもない。もっと歪み、計算され尽くした冷たい愉悦の匂いがした。
なるほど……ニールが見た光景は、酒場で聞いた噂どおりだ。
意外と容易に彼女へ近づけるかもしれない――そんな考えが、私の中で静かに芽を出した。
ニールは部屋の片隅で、黒猫の尾をゆっくりと揺らしながら、声を潜めて続けた。
「……次はな、もう狂気じみてた。王女はわざと新人を自分の膝に座らせたんだ。嫌がってわずかに身を引くその肩を、逃げ場を与えない優雅な手つきで押さえつけてな。わざと見せつけるようにワインを口に含み、そのまま口移しで飲ませた」
目の前にその光景が浮かぶ。王女の唇から紅い液体が滴り、膝の上で硬直する新人の頬を、白い指がなぞる。その指先は甘やかでありながら、檻の鍵のように冷たい。
「エルヴィラは一見、氷みたいに無表情だった。けどな……眉尻のほんのわずかな揺れ、唇の端の強張り……あれは嫉妬と苛立ちが滲んでた。あの女でも、感情を抑えきれない時があるらしい」
私は思わず息を詰めた。噂は本当なのかもしれない――王女は同性愛者。そしてその嗜好は、計算と愉悦の道具になっている。ならば、王女に近づく道は意外と容易い……。
「他の女官たちは、全員視線を逸らしてた。あの場の空気は重くて、誰もが“何も見なかった”ふりをしてた。少しでも目を合わせれば、自分が次の玩具になるって分かってるんだ」
ニールの低い声が闇に溶け、部屋の空気がひやりと冷える。私は窓の外の王女の塔を見上げ、胸の奥で新たな算段を静かに練り上げた。
ニールの報告を聞きながら、私は窓辺に立ち、夜空に浮かび上がる王女の塔を見上げた。漆黒の闇に包まれた城の中で、その塔だけが月明かりを浴び、白銀の刃のように冷たく輝いている。塔の上層の窓には、揺らめく燭火がかすかに見え、その奥で誰かが微笑んでいるような錯覚さえ覚えた。
権力と美貌を盾に、人の心を弄び、感情を試す王女——もしそれが本性なら、必ず隙はある。むしろ、そういう相手のほうが落とし甲斐がある。胸の奥に、鋭い期待と熱が同時に芽生えた。
「面白いじゃない……そんな相手なら、落とし甲斐があるわ」
自分でも驚くほど自然にその言葉が漏れた。声に出した瞬間、胸裏で小さな火花が弾け、じわりと温かい熱が広がる。冷たい塔の最上階で、彼女を見下ろす未来の光景が、鮮やかに脳裏に描かれた。
ニールは壁際で黒猫の姿のまま、尻尾を揺らしながら肩をすくめた。
「俺はもう少し見ていたかったけどな。氷みたいな女が、あそこまで感情を揺らしてるなんて滅多にないし」
茶化す口ぶりとは裏腹に、瞳の奥には微かな警戒が宿っている。その表情を見て、私は口元に笑みを浮かべた。
「十分よ……次は、私が近づく番」
心の中で、復讐の盤上に新しい駒が置かれる音が確かに響いた。その音は、静かだが確実に、これから訪れる嵐の始まりを告げていた。
「さて……」
背後から低く呟く声に振り返ると、ニールが壁にもたれ、腕を組んで私を見ていた。
「ちょっと内部の偵察に行ってくる」
「偵察? こんな時間に?」
私が眉をひそめると、ニールは片方の口角を上げ、子どもみたいにいたずらっぽく笑った。
「夜だからこそだよ。昼間は目立つけど、今なら衛兵の目もすり抜けられる」
そう言って私の正面に立った彼は、軽く両手を振るような仕草をした。空気がふわりと波立ち、次の瞬間、そこにいたはずの少年の姿は艶やかな黒毛の猫に変わっていた。
「……猫?」
思わず息を呑むと、小さな口からニールの声が聞こえた。
「俺が変われるのは猫だけなんだ。ご主人様は蛇にもカラスにもなれるんだけどな。俺はこれが限界」
どこか照れくさそうに尻尾を揺らす黒猫の瞳が、月の光を受けて鋭く光る。
「気をつけなさいよ。捕まったら、ただの野良猫扱いされるんだから」
「心配性だなぁ。俺の足なら誰にも見つからない」
ニールは小さく笑い、窓枠にぴょんと飛び乗った。肉球が木の縁を押す音すら、夜の静けさに吸い込まれる。
「じゃ、すぐ戻る」
ひらりと外へ飛び降りる黒い影。その姿が中庭の暗がりに溶けていくのを、私は窓辺に立ったまま見送った。
胸の奥で、不安と期待が複雑に絡み合い、鼓動を早める。あの足音なき影が、どんな真実を私に持ち帰るのか——その時を静かに待った。
■
王女の部屋を後にした俺――いや、この時は黒猫の姿だった――は、闇に溶けるように廊下を駆け抜けていた。背後から響く重い足音が、耳の奥にまで食い込んでくる。振り返ると、巨大な影——ゴリアテが、驚くほどの速さで迫ってきていた。
「……化け物みたいな図体で、なんでそんなに速いんだよ……」
心臓が毛皮越しにも高鳴り、肉球に冷たい石床の感触が刺さる。柱の陰から陰へ飛び移り、呼吸を押し殺す。ようやく足音が遠ざかった時、薄暗い物置部屋の扉が半開きになっているのが目に入った。
好奇心が勝ち、音もなく中へ滑り込む。埃と古木の匂いが鼻をくすぐる。中には古びた肖像画がいくつも立てかけられていた。その一枚には、王女そっくりの女が描かれていたが——髪は黒く塗り潰され、口元には刃物で裂かれたような禍々しい傷が走っている。
「……家族か? いや、もっと厄介な匂いがするな」
背筋に冷たいものが這い、尻尾がぶわりと逆立つ。これ以上はまずいと感じ、すぐに部屋を後にした。城内の奥へ進むと、明かりの漏れる厨房の前に出る。
中では夜勤の下働きの青年が、パンを盗み食いしていた。俺は猫らしく、音もなく背後に現れ、尻尾をゆらりと揺らして足元にすり寄る。
「ひっ……!」
青年が落としたチーズの欠片を素早くくわえ、口の中で転がす。
「お前の秘密は守ってやる。こいつは俺の取り分な」
青年が呆けた顔で見送る中、チーズを味わいながら城の外れへ向かった。人気のない物陰に入り、月光の下で人の姿に戻る。
「……あの女、思ってたよりずっとタチが悪い」
吐き捨てるように呟き、主人公の部屋の前まで歩く。ノックする前、塔の最上階で微笑む王女の姿が一瞬、脳裏をよぎった。背筋にぞくりと冷気が走る。
扉を軽く叩き、開いた隙間から顔を覗かせる。
■
ニールが戻ってきたのは、部屋の蝋燭が半分ほど溶け落ちたころだった。窓辺から音もなく滑り込み、猫の姿のまま私の前に軽やかに着地する。その瞳は月光を映し、どこか興奮の色を帯びていた。
「いやぁ、すごいもん見ちまった」
低く押し殺した声でそう切り出すと、尻尾をゆっくりと一度だけ揺らし、私の足元に腰を落ち着けた。私は視線を合わせ、続きを促す。
「まず、城の北翼は予想通り厳重な警備だった。王女の部屋の前にはゴリアテがいてな……あれは化け物みたいにデカい。肩まで俺の二倍はあるし、全身が岩みたいに硬そうなのに、動きはやたら素早い。廊下を走れば影みたいに後ろにつきまとってくる。何度か本気で尻尾を掴まれそうになった」
私は思わず息を飲む。奴がそんなに厄介とは……。
「逃げ回ってたら、部屋の中から王女の声がしたんだ。『可愛いネコちゃん』ってな。異変に気づいたらしく、扉を少し開けて手招きされた」
ニールはその時のことを思い出したのか、鼻先を小さくひくつかせた。
「部屋に入った瞬間、金糸のカーテンが揺れて、甘く酔いそうな香の匂いが鼻を突いた。床には厚い絨毯が敷かれ、中央の肘掛け椅子に王女エミリアが座ってた。背筋をぴんと伸ばし、まるで舞台の主役みたいに俺を見下ろしていたよ」
その光景を想像した瞬間、私の胸の奥にじわりと警戒心が広がっていった。
ニールは、窓辺の影の中で尻尾をゆるく揺らしながら、低く囁くように語り出した。
「王女はな、女官長エルヴィラを部屋に招き入れてた。あの女……ただそこに立っているだけで、部屋の空気がぴんと張り詰めるような奴だ。若いのに妙に落ち着いていて、氷を思わせる冷ややかな眼差しをしてた」
私はその名を聞き、脳裏に先ほど対面した端麗な女官長の姿が蘇る。その静かな気配の奥に、何か鋭い棘を隠していたのを思い出す。
「そこへ王女は若い新人女官を呼び寄せた。立ち上がった王女は、ふわりとスカートを揺らして近づくと、その子の手をそっと取って耳元に何か囁いた。何を言ったのかまでは聞こえなかったが……新人の顔が一瞬で赤く染まるのが見えた」
ニールの瞳が月明かりを受けて細く光る。
「それから頬や首筋に指先を滑らせて……まるで花びらを愛でるみたいにゆっくりと、しかもわざと見せつけるようにな。あれは新人に向けた仕草に見せかけて、実際は横に立つエルヴィラを射抜いてた。あの視線は……嫉妬を煽るためのものだ」
その光景を思い描くと、私の胸の奥に薄ら寒いものが広がった。王女エミリアの微笑は、愛情でも親しみでもない。もっと歪み、計算され尽くした冷たい愉悦の匂いがした。
なるほど……ニールが見た光景は、酒場で聞いた噂どおりだ。
意外と容易に彼女へ近づけるかもしれない――そんな考えが、私の中で静かに芽を出した。
ニールは部屋の片隅で、黒猫の尾をゆっくりと揺らしながら、声を潜めて続けた。
「……次はな、もう狂気じみてた。王女はわざと新人を自分の膝に座らせたんだ。嫌がってわずかに身を引くその肩を、逃げ場を与えない優雅な手つきで押さえつけてな。わざと見せつけるようにワインを口に含み、そのまま口移しで飲ませた」
目の前にその光景が浮かぶ。王女の唇から紅い液体が滴り、膝の上で硬直する新人の頬を、白い指がなぞる。その指先は甘やかでありながら、檻の鍵のように冷たい。
「エルヴィラは一見、氷みたいに無表情だった。けどな……眉尻のほんのわずかな揺れ、唇の端の強張り……あれは嫉妬と苛立ちが滲んでた。あの女でも、感情を抑えきれない時があるらしい」
私は思わず息を詰めた。噂は本当なのかもしれない――王女は同性愛者。そしてその嗜好は、計算と愉悦の道具になっている。ならば、王女に近づく道は意外と容易い……。
「他の女官たちは、全員視線を逸らしてた。あの場の空気は重くて、誰もが“何も見なかった”ふりをしてた。少しでも目を合わせれば、自分が次の玩具になるって分かってるんだ」
ニールの低い声が闇に溶け、部屋の空気がひやりと冷える。私は窓の外の王女の塔を見上げ、胸の奥で新たな算段を静かに練り上げた。
ニールの報告を聞きながら、私は窓辺に立ち、夜空に浮かび上がる王女の塔を見上げた。漆黒の闇に包まれた城の中で、その塔だけが月明かりを浴び、白銀の刃のように冷たく輝いている。塔の上層の窓には、揺らめく燭火がかすかに見え、その奥で誰かが微笑んでいるような錯覚さえ覚えた。
権力と美貌を盾に、人の心を弄び、感情を試す王女——もしそれが本性なら、必ず隙はある。むしろ、そういう相手のほうが落とし甲斐がある。胸の奥に、鋭い期待と熱が同時に芽生えた。
「面白いじゃない……そんな相手なら、落とし甲斐があるわ」
自分でも驚くほど自然にその言葉が漏れた。声に出した瞬間、胸裏で小さな火花が弾け、じわりと温かい熱が広がる。冷たい塔の最上階で、彼女を見下ろす未来の光景が、鮮やかに脳裏に描かれた。
ニールは壁際で黒猫の姿のまま、尻尾を揺らしながら肩をすくめた。
「俺はもう少し見ていたかったけどな。氷みたいな女が、あそこまで感情を揺らしてるなんて滅多にないし」
茶化す口ぶりとは裏腹に、瞳の奥には微かな警戒が宿っている。その表情を見て、私は口元に笑みを浮かべた。
「十分よ……次は、私が近づく番」
心の中で、復讐の盤上に新しい駒が置かれる音が確かに響いた。その音は、静かだが確実に、これから訪れる嵐の始まりを告げていた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、
魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。
ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる