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第六話『秘密基地の作戦会議──埋蔵金探検隊、結成!』
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夏休みの午後、川沿いの秘密基地はセミの大合唱に包まれていた。ブルーシートの屋根からこぼれる陽射しが、草や土の上でちらちらと揺れる。湿った風が時おり通り抜け、草の青臭い匂いと土の匂いが混ざった夏の匂いが鼻をくすぐった。
アラタ、ケンタ、西園寺ハルトの三人は、基地の真ん中に車座になり、古びたノートと鉛筆を広げている。横ではトラが尻尾をゆらゆらさせ、気持ちよさそうに寝そべっていた。ときおり片目だけを開けて三人の様子をうかがう。
「よし、今日から俺らは……『埋蔵金探検隊』や!」
アラタが胸を張って高らかに宣言する。声はわくわくが抑えきれず、少し高くはずんでいた。胸の奥が熱くなり、心臓がどくんと跳ねる。
「ええやん、それ! なんか本物の冒険隊みたいや」
ケンタが目をきらきらさせて言う。夏の日差しが汗で光る額に反射した。ハルトは腕を組んでそっけないふりをしていたが、口元はにやりとゆるんでいる。内心は誰よりも心が踊っていた。
「ほんでや、まずは道具集めやな」
アラタはノートに大きく“必要なもの”と書き、鉛筆の先で軽くトントンと叩く。三人は顔を見合わせた。
「スコップは絶対いるな。宝さがしやし」
「懐中電灯もやろ。山ん中は夜ほんま真っ暗やで」
「虫よけスプレーも必須や。蚊にさされたら探検どころやないしな」
三人は思いつくたびに声を重ね、ノートに書きこむ。トラが前足でノートをちょいと押したので、思わず三人は笑い合った。秘密基地の中は子どもらしい笑い声でいっぱいになった。
「あと、水筒とおやつもいるな。腹減ったら力出えへん」
「よし、じゃあそれぞれ家から持ってこよう。スコップは俺んちに二本ある」
アラタが誇らしげに言うと、ハルトが首をかしげた。
「二本か……。俺んちにもガーデニング用があるし、持ってくるわ」
「ほな三本そろったな!」
ケンタは頭の中で虫よけスプレーの場所を思い浮かべながらつぶやいた。
「虫よけは……母ちゃんに言えば貸してくれるはずや」
「オッケー! これで準備は万端やな」
三人は手を重ね合わせ、心の中のわくわくをぶつけるように声をそろえた。
「埋蔵金探検隊、結成ーーっ!!」
秘密基地の中に元気な声が響き渡り、外のセミの声に負けないくらい力強かった。トラがにゃあと一声鳴き、まるで「隊員として認めてくれよ」と言っているようだった。夏の冒険は、いよいよ始まろうとしていた。
夕方になり、川沿いの秘密基地は西日に染まって赤く光っていた。ブルーシートの屋根から差し込む光は揺らめき、地面の草と土の上にまだら模様を作る。湿った夏の空気には、青い草の匂いと土のにおいが混ざっていた。セミの大合唱はまるで応援団のようで、三人の胸をさらに高鳴らせた。
アラタ、ケンタ、西園寺ハルトは、秘密基地の真ん中に座り込んで、ノートを広げていた。横ではトラが尻尾をゆるりと揺らし、時おり目を細めて三人を見守る。子どもたちの心は、期待と不安でいっぱいだった。
「スコップは三本いるとして……俺、家から持ってくるわ!」
アラタは立ち上がり、汗で額を光らせながら駆け出した。家の庭の物置を開けると、埃をかぶったスコップが二本並んでいる。両手に抱えた瞬間、台所から母の声が飛んできた。
「ちょっとアラタ! なんでスコップ二本も抱えてんの!? また変なこと企んでるやろ!」
「ち、違うって! 自由研究の……えっと……実験用!」
心臓がばくばくする。母の鋭い視線を背中に感じながら、アラタは汗だくで家を飛び出した。後ろから「気をつけやー!」と声が響く。秘密基地に戻ると、ケンタとハルトが口元をゆるませて待っていた。
「絶対、怪しまれとったな」
「ばれたら、探検どころやないで」
三人は顔を見合わせて大笑い。トラもにゃあと鳴き、楽しそうにしっぽを振った。
次はケンタが虫よけスプレーを取りに行く番だった。玄関で靴を履くと、母親が首をかしげる。
「夜に虫よけ? あんたら、何する気なん?」
「え、えっと……ハルトん家の庭で、夜の観察会……」
ケンタの声は情けなく震えたが、なんとかスプレーを握りしめて逃げ切った。戻ると、アラタとハルトは腹を抱えて笑う。
「はぁ……心臓バクバクやわ……」
「準備からスリル満点やな!」
三人は駄菓子や水筒を並べ、ノートにひとつずつチェックを入れる。夕陽が沈み、セミの声がヒグラシの涼やかな鳴き声に変わるころ、必要なものはすべてそろった。
「……よし、いよいよ明日、冒険開始や!」
アラタが誇らしげに言うと、ケンタとハルトも力強くうなずく。胸は高鳴り、顔はにやける。トラがにゃあと鳴き、ブルーシートの下には三人と一匹の小さな笑い声と、夏の大冒険を待つ鼓動が響いていた。
秘密基地での作戦会議と準備を終えた夕暮れ、三人はそれぞれの家に帰っていった。川沿いを渡る風にはまだ昼間の熱気が残り、草の青い匂いと土の匂いが混じる。西の空は赤から紫に溶け、遠くの花火が小さく咲いては消えていた。ヒグラシの声が川面にこだまし、夏の夜の幕がゆっくりと降りていく。
アラタは布団に潜り込んだものの、目はぎらぎらとして眠れない。天井の木目をじっと見つめながら、今日話し合った作戦と明日のルートを何度も頭の中でなぞった。胸の奥では、金色の小判がざらざらとこぼれ落ちる音が鳴り続けている。
「……絶対に見つけるんや、信長の宝」
心臓は期待で早鐘を打ち、頬がじんわり熱くなる。窓を少し開けると、夜風が汗ばんだ顔をなで、遠くの花火の煙の匂いがかすかに届いた。アラタはにやりと笑みをこぼし、布団の中で拳を握った。
一方、ケンタは自分の部屋の布団に横になりながら、暗い天井をじっと見つめていた。窓の外では、ジージーと鳴くアブラゼミの声に、遠くのヒグラシの切ない鳴き声が混じる。時おり、国道を走る車のライトがカーテンの隙間をよぎり、白い光が天井にふわりと映った。部屋の隅では扇風機が回り、カタカタと小さく震える音を立てながら、ぬるい風を送っている。
となりの部屋からは、母の寝息が微かに聞こえてきた。昼間のパート帰り、額の汗をぬぐいながら「ただいま」と笑った母の顔が、ケンタの頭に鮮やかによみがえる。その笑みはいつも明るいけれど、肩は少しやせ、疲れがにじんでいた。
「母ちゃん……いつもがんばってるな……」
小さくつぶやいた声は、静かな部屋に吸い込まれた。胸の奥に、きゅっとした思いが広がる。父はもういない。五年前の事故で、母と二人だけの生活になった。小さな頃から、必死に働く母の背中を見てきた。だからこそ、いつも思う。
「俺……母ちゃんを、もっと楽させてやりたい……」
布団の中でぎゅっと握った拳が、小さく震えた。明日の埋蔵金探しのことが頭に浮かぶ。もし本当に信長の宝を見つけられたら、母に新しい扇風機を買ってあげたい。いや、それだけじゃない。パートを減らして、少しはゆっくり眠れるようにしてあげれる。
小さくつぶやいた言葉は、暗い部屋で自分にだけ響く。胸の奥にふっと温かいものが広がった。窓の外では虫たちが重なるように鳴き、遠くの花火がぽんと弾ける音がした。夏休みの夜らしい甘い静けさが、ケンタの心をそっと包んでいた。
西園寺ハルトは、広い自室で天井を見つめていた。冷房の風が心地よく頬を撫でるが、胸の中は落ち着かず、わくわくが膨らんでいる。
「ふん、あいつら、ほんま子どもみたいや……でも、楽しみやな」
独り言をつぶやきながら、頭の中では自分が金の延べ棒を掲げて新聞の一面を飾る場面が浮かぶ。胸はそわそわと高鳴り、眠気はまったくやって来なかった。
そのころ、トラは秘密基地に残って夜の見張り番をしていた。月明かりに照らされたブルーシートがふわりと揺れ、川沿いの草がさらさらと音を立てる。虫の声が遠くと近くで重なり、夜風が涼しく頬を撫でた。トラは目を細めて尻尾をゆっくり揺らし、まるで明日の冒険を感じ取っているかのように小さくにゃあと鳴いた。
遠くの空で一度だけ雷が光り、雲の端が白く照らされた。夜風と虫の声に包まれた秘密基地には、まだ誰も知らない夏の大冒険の予感が、静かに、確かに漂っていた。
アラタ、ケンタ、西園寺ハルトの三人は、基地の真ん中に車座になり、古びたノートと鉛筆を広げている。横ではトラが尻尾をゆらゆらさせ、気持ちよさそうに寝そべっていた。ときおり片目だけを開けて三人の様子をうかがう。
「よし、今日から俺らは……『埋蔵金探検隊』や!」
アラタが胸を張って高らかに宣言する。声はわくわくが抑えきれず、少し高くはずんでいた。胸の奥が熱くなり、心臓がどくんと跳ねる。
「ええやん、それ! なんか本物の冒険隊みたいや」
ケンタが目をきらきらさせて言う。夏の日差しが汗で光る額に反射した。ハルトは腕を組んでそっけないふりをしていたが、口元はにやりとゆるんでいる。内心は誰よりも心が踊っていた。
「ほんでや、まずは道具集めやな」
アラタはノートに大きく“必要なもの”と書き、鉛筆の先で軽くトントンと叩く。三人は顔を見合わせた。
「スコップは絶対いるな。宝さがしやし」
「懐中電灯もやろ。山ん中は夜ほんま真っ暗やで」
「虫よけスプレーも必須や。蚊にさされたら探検どころやないしな」
三人は思いつくたびに声を重ね、ノートに書きこむ。トラが前足でノートをちょいと押したので、思わず三人は笑い合った。秘密基地の中は子どもらしい笑い声でいっぱいになった。
「あと、水筒とおやつもいるな。腹減ったら力出えへん」
「よし、じゃあそれぞれ家から持ってこよう。スコップは俺んちに二本ある」
アラタが誇らしげに言うと、ハルトが首をかしげた。
「二本か……。俺んちにもガーデニング用があるし、持ってくるわ」
「ほな三本そろったな!」
ケンタは頭の中で虫よけスプレーの場所を思い浮かべながらつぶやいた。
「虫よけは……母ちゃんに言えば貸してくれるはずや」
「オッケー! これで準備は万端やな」
三人は手を重ね合わせ、心の中のわくわくをぶつけるように声をそろえた。
「埋蔵金探検隊、結成ーーっ!!」
秘密基地の中に元気な声が響き渡り、外のセミの声に負けないくらい力強かった。トラがにゃあと一声鳴き、まるで「隊員として認めてくれよ」と言っているようだった。夏の冒険は、いよいよ始まろうとしていた。
夕方になり、川沿いの秘密基地は西日に染まって赤く光っていた。ブルーシートの屋根から差し込む光は揺らめき、地面の草と土の上にまだら模様を作る。湿った夏の空気には、青い草の匂いと土のにおいが混ざっていた。セミの大合唱はまるで応援団のようで、三人の胸をさらに高鳴らせた。
アラタ、ケンタ、西園寺ハルトは、秘密基地の真ん中に座り込んで、ノートを広げていた。横ではトラが尻尾をゆるりと揺らし、時おり目を細めて三人を見守る。子どもたちの心は、期待と不安でいっぱいだった。
「スコップは三本いるとして……俺、家から持ってくるわ!」
アラタは立ち上がり、汗で額を光らせながら駆け出した。家の庭の物置を開けると、埃をかぶったスコップが二本並んでいる。両手に抱えた瞬間、台所から母の声が飛んできた。
「ちょっとアラタ! なんでスコップ二本も抱えてんの!? また変なこと企んでるやろ!」
「ち、違うって! 自由研究の……えっと……実験用!」
心臓がばくばくする。母の鋭い視線を背中に感じながら、アラタは汗だくで家を飛び出した。後ろから「気をつけやー!」と声が響く。秘密基地に戻ると、ケンタとハルトが口元をゆるませて待っていた。
「絶対、怪しまれとったな」
「ばれたら、探検どころやないで」
三人は顔を見合わせて大笑い。トラもにゃあと鳴き、楽しそうにしっぽを振った。
次はケンタが虫よけスプレーを取りに行く番だった。玄関で靴を履くと、母親が首をかしげる。
「夜に虫よけ? あんたら、何する気なん?」
「え、えっと……ハルトん家の庭で、夜の観察会……」
ケンタの声は情けなく震えたが、なんとかスプレーを握りしめて逃げ切った。戻ると、アラタとハルトは腹を抱えて笑う。
「はぁ……心臓バクバクやわ……」
「準備からスリル満点やな!」
三人は駄菓子や水筒を並べ、ノートにひとつずつチェックを入れる。夕陽が沈み、セミの声がヒグラシの涼やかな鳴き声に変わるころ、必要なものはすべてそろった。
「……よし、いよいよ明日、冒険開始や!」
アラタが誇らしげに言うと、ケンタとハルトも力強くうなずく。胸は高鳴り、顔はにやける。トラがにゃあと鳴き、ブルーシートの下には三人と一匹の小さな笑い声と、夏の大冒険を待つ鼓動が響いていた。
秘密基地での作戦会議と準備を終えた夕暮れ、三人はそれぞれの家に帰っていった。川沿いを渡る風にはまだ昼間の熱気が残り、草の青い匂いと土の匂いが混じる。西の空は赤から紫に溶け、遠くの花火が小さく咲いては消えていた。ヒグラシの声が川面にこだまし、夏の夜の幕がゆっくりと降りていく。
アラタは布団に潜り込んだものの、目はぎらぎらとして眠れない。天井の木目をじっと見つめながら、今日話し合った作戦と明日のルートを何度も頭の中でなぞった。胸の奥では、金色の小判がざらざらとこぼれ落ちる音が鳴り続けている。
「……絶対に見つけるんや、信長の宝」
心臓は期待で早鐘を打ち、頬がじんわり熱くなる。窓を少し開けると、夜風が汗ばんだ顔をなで、遠くの花火の煙の匂いがかすかに届いた。アラタはにやりと笑みをこぼし、布団の中で拳を握った。
一方、ケンタは自分の部屋の布団に横になりながら、暗い天井をじっと見つめていた。窓の外では、ジージーと鳴くアブラゼミの声に、遠くのヒグラシの切ない鳴き声が混じる。時おり、国道を走る車のライトがカーテンの隙間をよぎり、白い光が天井にふわりと映った。部屋の隅では扇風機が回り、カタカタと小さく震える音を立てながら、ぬるい風を送っている。
となりの部屋からは、母の寝息が微かに聞こえてきた。昼間のパート帰り、額の汗をぬぐいながら「ただいま」と笑った母の顔が、ケンタの頭に鮮やかによみがえる。その笑みはいつも明るいけれど、肩は少しやせ、疲れがにじんでいた。
「母ちゃん……いつもがんばってるな……」
小さくつぶやいた声は、静かな部屋に吸い込まれた。胸の奥に、きゅっとした思いが広がる。父はもういない。五年前の事故で、母と二人だけの生活になった。小さな頃から、必死に働く母の背中を見てきた。だからこそ、いつも思う。
「俺……母ちゃんを、もっと楽させてやりたい……」
布団の中でぎゅっと握った拳が、小さく震えた。明日の埋蔵金探しのことが頭に浮かぶ。もし本当に信長の宝を見つけられたら、母に新しい扇風機を買ってあげたい。いや、それだけじゃない。パートを減らして、少しはゆっくり眠れるようにしてあげれる。
小さくつぶやいた言葉は、暗い部屋で自分にだけ響く。胸の奥にふっと温かいものが広がった。窓の外では虫たちが重なるように鳴き、遠くの花火がぽんと弾ける音がした。夏休みの夜らしい甘い静けさが、ケンタの心をそっと包んでいた。
西園寺ハルトは、広い自室で天井を見つめていた。冷房の風が心地よく頬を撫でるが、胸の中は落ち着かず、わくわくが膨らんでいる。
「ふん、あいつら、ほんま子どもみたいや……でも、楽しみやな」
独り言をつぶやきながら、頭の中では自分が金の延べ棒を掲げて新聞の一面を飾る場面が浮かぶ。胸はそわそわと高鳴り、眠気はまったくやって来なかった。
そのころ、トラは秘密基地に残って夜の見張り番をしていた。月明かりに照らされたブルーシートがふわりと揺れ、川沿いの草がさらさらと音を立てる。虫の声が遠くと近くで重なり、夜風が涼しく頬を撫でた。トラは目を細めて尻尾をゆっくり揺らし、まるで明日の冒険を感じ取っているかのように小さくにゃあと鳴いた。
遠くの空で一度だけ雷が光り、雲の端が白く照らされた。夜風と虫の声に包まれた秘密基地には、まだ誰も知らない夏の大冒険の予感が、静かに、確かに漂っていた。
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