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第九話『予想外の発見と、ちいさな試練』
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土を掘る音だけが、静かな朝の川辺に響いていた。
カン、カン、とスコップが小石を打つ乾いた音。空気はまだ涼しいが、すでに三人の額には汗が滲み、濡れた草に足元を取られながらも、彼らは夢中で土を掘り返していた。
「……なあ、これってさ、本当に何かあるんかな?」
アラタが額の汗を拭いながら、空を仰ぐ。空にはいくつかの白い雲が浮かび、朝日を反射する川面がきらきらと光っている。
「わからん。でも、信じてやらな何も始まらへん」
ケンタは真っ直ぐに地面を見つめたまま、小さなスコップを振るう。その顔には土がつき、眉の間には小さな皺が寄っていた。
「信長の埋蔵金や。あの郷土誌に書いてあったやつ──本気で信じてるで、うちは」
ハルトも静かに言い、無言で作業に戻った。冷静を装うその表情の裏で、胸の内は高鳴っていた。幼いころから好奇心は強かったが、こうして誰かと一緒に“未知”を追いかけるのは初めてだった。
やがて、ケンタのスコップが何か固いものに当たった。
「ん? 今、変な音したで!」
三人は顔を見合わせ、すぐにその場所を掘り広げる。やがて土の中から現れたのは、赤茶けた鉄の破片だった。錆びついていて、元の形が分からない。
「これ……なに?」
アラタが拾い上げ、光にかざす。
「古い農具か……いや、武器の一部とかかも?」
「まさか、宝箱のカギとかやったりしてな!」
ケンタが興奮したように笑い、三人の目が一気に輝く。
そこからの掘削は、どこか儀式のようだった。声を潜め、目を凝らし、土の感触ひとつひとつに神経を研ぎ澄ませる。だが、それ以上のお宝らしいものは見つからなかった。
「うーん……やっぱり、そう簡単にはいかへんか」
ハルトが腰を下ろし、水筒からごくごくと水を飲む。
そのとき、低く唸る声が草むらから聞こえた。
「……トラ?」
草の中で、トラがじっと川の向こうを見据えている。その視線の先には、何か黒い影が動いていた。
「……イノシシか? いや、鹿……?」
緊張が走る。三人の表情が一気に引き締まった。もし相手が本当に野生動物なら、無防備な今の状態では危険だった。
「今日はここまでにしよ」
ケンタが言うと、二人も黙って頷いた。
「明日は、網とか鈴つけてこよう。トラにも守ってもらわなあかん」
アラタが笑いながらも、声には慎重さが混じる。
「でも……これ、持って帰ろう」
ハルトが鉄の破片をそっと拾い、持参した小袋にしまった。
帰り道、三人の背中には疲れと達成感が混ざった重みがあった。
それは宝を見つけたからではない。ただ、何かを探しに行ったという“勇気”と“絆”が、彼らの胸に確かに残っていたからだった。
空はすでに夏の青。セミの声が木々に響き、川のせせらぎと混ざり合って、子どもたちの歩く足音を優しく包み込んでいた。
翌朝、空はまるで洗いたてのシャツのように真っ青で、ほんの少し白い雲がゆっくりと流れていた。夏の朝らしい爽やかな風が、秘密基地の木の隙間からそよいでくる。
アラタは基地の床に座り込み、昨日掘り当てた錆びた鉄片をじっと見つめていた。彼の顔には真剣な表情が浮かび、指先で何度も鉄片の凹凸をなぞっている。
「これ、やっぱなんかの一部ちゃうん?」
その声に、近くでノートを広げていたケンタが顔を上げた。ノートには、三人で集めた情報やメモ、手描きの地図、謎のヒントなどが丁寧に書き込まれている。
「なあ、こないだ見つけた郷土誌に、地図のページ、もう一枚あった気がするんや」
「え? マジで? それって……どんなページ?」
ハルトが身を乗り出すように聞いた。彼の瞳はキラキラと輝いているが、表情は冷静さを装っている。
ケンタはうなずきながら、ページをめくる手を止めた。
「たしか……『第七川筋から北東、石の祠の先』って書いてあったような気がする。はっきり覚えとらんけど」
「それ、めっちゃ手がかりやん!」
アラタが目を見開き、興奮した声で叫んだ。
そのときだった。入口から小さな鳴き声が響いた。
「ニャア……」
トラがひょっこり顔をのぞかせ、ゆっくりと中に入ってきた。そして、昨日見つけた鉄片のそばに近づき、前足でちょんちょんと突いた。
「トラも気になるんか?」
ハルトが笑いながらトラの頭を軽く撫でた。
ケンタはノートを閉じて立ち上がる。
「とにかく、図書館に行こう。もう一回、ちゃんと確かめたい」
「よっしゃ、出発や!」
アラタはすぐにリュックを背負い、水筒を手に取った。ハルトもすぐに続く。
トラを連れて三人は秘密基地を飛び出し、坂道を駆け下りる。夏の朝の風が顔を打ち、木の葉がカサカサと揺れていた。
図書館の郷土資料室はひんやりと静かで、外の蝉の声がうそのように遠のいていた。
ケンタが目当ての棚から一冊の郷土誌を取り出し、慎重にページをめくる。
「ここや……あった!」
指差した先には、簡略な地図と「第七川筋」の文字。そしてその先には、くすんだインクで描かれた祠のマークがあった。
「これ……この川沿いの奥の森にある、あの石の祠やんな?」
「たぶんそうや。前にみんなで虫捕り行ったとき、奥にあったやつ」
三人は顔を見合わせたあと、声を揃えたようにニヤリと笑った。
「次の目的地、決まりやな」
夏の日差しが差し込む図書館の窓の外では、蝉が一斉に鳴いていた。新たな冒険の舞台が、子どもたちの胸に、ゆっくりと浮かび上がっていた。
午後の日差しは、木々のすき間から地面にまだら模様をつくっていた。
アラタ、ケンタ、ハルト、そしてトラは、川沿いの小道を遡っていた。目指すは、郷土誌に載っていた「石の祠」。
「ほんまに、この奥にあるんかな……」
ケンタが汗をぬぐいながらつぶやく。
「間違いない。ほら、あの地図の通り、川がここでカーブしてるやろ」
アラタが手描きの地図を掲げてみせた。
ハルトは少し遅れて歩きながら、さりげなく辺りを観察している。耳をすませば、蝉の声と、川のせせらぎ。けれど、その奥に、なにか──ぴりっとした空気の揺らぎを感じた。
「ちょっと待て。あれ……見てみ」
ハルトが指さした先に、苔むした石段があった。雑草に覆われて見えづらくなっていたが、確かに上へと続いている。
「これ、上った先にあるんちゃうか?」
三人は無言でうなずき、石段をのぼり始めた。トラもあとをついてくる。
足場はぬかるみ、枝葉が顔をかすめる。けれど、その先にあるものが、彼らの足を止めさせなかった。
そこに、それはあった。
風化した石の柱が四本、屋根を支えていた。中央には小さな祠。屋根は苔と落ち葉に覆われ、時の重みを背負っているようだった。
「……うわ、本物やん」
アラタが感嘆の声をもらす。
ケンタはそっと祠に近づき、祠の奥に手を伸ばす。中には、小さな石の箱が置かれていた。
「これ……開けてええんかな」
「いや、まて」
ハルトが遮った。「これは神さんにお参りしてからや。京都ではそう教わってる」
半信半疑ながら、三人は祠に手を合わせ、軽く頭を下げた。
そしてそっと、石の箱のふたを持ち上げる。
中には、和紙に包まれた何かがあった。
ケンタが息をのむ。「これって……」
アラタが手を伸ばすその瞬間──
「カサ……」
木々の奥で、なにかが動いた。
全員が一斉に振り向く。
風か、それとも。
彼らの夏の冒険は、まだ序章にすぎなかった。
森へと続く山道は、まるで子どもたちのために用意された秘密の迷路のようだった。
昨日見つけた地図を手がかりに、ケンタ、アラタ、ハルト、そして茶トラのトラは、まだ朝露の残る時間に冒険へと踏み出した。
「なあ、『第七川筋』って、たしかこのへんの川のことやろ?」
アラタがしわくちゃになった地図を掲げて言う。先頭を歩く彼の声に、ハルトが応じた。
「たぶんそうやな。前に釣りしたあの川、ほら、あの橋の奥やで」
ハルトの指差す先には、小さな木橋がかかり、その向こうに、木々が生い茂る森が広がっていた。葉が朝陽に透けて光を反射し、風に揺れるたびにサワサワと優しい音を立てていた。
「なんか……探検って感じしてきたな」
ケンタがリュックのベルトをぎゅっと締めながら、目を輝かせる。トラはその足元で、ひょいと草むらに鼻先を突っ込み、くんくんと匂いを嗅いでいた。
「ほら、行くでー!埋蔵金探検隊、前進や!」
アラタがそう叫ぶと、三人と一匹は草むらに踏み込んだ。
茂みをかきわけながら進むと、葉の裏で跳ねるバッタ、足元を逃げるカエル、葉擦れの音に混じるセミの鳴き声――まるで森全体が彼らの訪問を歓迎しているようだった。
やがて、木々の間からぽっかりと空が開けた先に、苔むした石造りの祠が現れた。
「この辺、祠ばかりあるやん。昨日と少し違うだけやん……」
「いや……あれや!間違いない!」
ケンタが興奮気味に声を上げた。
祠は思っていたよりも古びていて、小さな石段の上に建っていた。屋根には分厚い苔が広がり、石の表面には風化しかけた文字が彫られている。
「なんか……神さま、住んでそうやな」
ハルトが静かに呟き、アラタも思わず神妙な顔になる。
トラは祠の正面で立ち止まり、じっと見つめたあと、「ニャア」と一声鳴いた。
ケンタが祠に近づき、地図と照らし合わせて言った。
「ここや。『石の祠』って、たぶんこれやで」
「でも、この文字……ぜんぜん読まれへん」
ハルトがしゃがみこみ、指で文字をなぞった。
その瞬間、森の奥から一陣の風が吹き抜け、三人の髪とシャツをふわりと揺らした。
「いま、風……吹いたよな?」
アラタが顔をしかめる。トラは何かを感じ取ったかのように祠の裏へと回り込み、また一声鳴いた。
「トラ、なんか見つけたんか?」
ケンタが慌てて後を追うと、祠の裏手に、崩れかけた石の隙間がぽっかりと開いていた。中は真っ暗だが、どこか吸い込まれそうな雰囲気を放っていた。
三人は顔を見合わせる。
「……入ってみる?」
「ほんまにええんか……でも、ここまで来たら……」
「行こう。なんか、今度こそ当たりやと思う」
ケンタの言葉に、二人がうなずいた。
胸の奥で、小さなドラムのように鼓動が高鳴る。
真夏の森の奥深くで、三人と一匹の“冒険”は、まだ始まったばかりだった。
カン、カン、とスコップが小石を打つ乾いた音。空気はまだ涼しいが、すでに三人の額には汗が滲み、濡れた草に足元を取られながらも、彼らは夢中で土を掘り返していた。
「……なあ、これってさ、本当に何かあるんかな?」
アラタが額の汗を拭いながら、空を仰ぐ。空にはいくつかの白い雲が浮かび、朝日を反射する川面がきらきらと光っている。
「わからん。でも、信じてやらな何も始まらへん」
ケンタは真っ直ぐに地面を見つめたまま、小さなスコップを振るう。その顔には土がつき、眉の間には小さな皺が寄っていた。
「信長の埋蔵金や。あの郷土誌に書いてあったやつ──本気で信じてるで、うちは」
ハルトも静かに言い、無言で作業に戻った。冷静を装うその表情の裏で、胸の内は高鳴っていた。幼いころから好奇心は強かったが、こうして誰かと一緒に“未知”を追いかけるのは初めてだった。
やがて、ケンタのスコップが何か固いものに当たった。
「ん? 今、変な音したで!」
三人は顔を見合わせ、すぐにその場所を掘り広げる。やがて土の中から現れたのは、赤茶けた鉄の破片だった。錆びついていて、元の形が分からない。
「これ……なに?」
アラタが拾い上げ、光にかざす。
「古い農具か……いや、武器の一部とかかも?」
「まさか、宝箱のカギとかやったりしてな!」
ケンタが興奮したように笑い、三人の目が一気に輝く。
そこからの掘削は、どこか儀式のようだった。声を潜め、目を凝らし、土の感触ひとつひとつに神経を研ぎ澄ませる。だが、それ以上のお宝らしいものは見つからなかった。
「うーん……やっぱり、そう簡単にはいかへんか」
ハルトが腰を下ろし、水筒からごくごくと水を飲む。
そのとき、低く唸る声が草むらから聞こえた。
「……トラ?」
草の中で、トラがじっと川の向こうを見据えている。その視線の先には、何か黒い影が動いていた。
「……イノシシか? いや、鹿……?」
緊張が走る。三人の表情が一気に引き締まった。もし相手が本当に野生動物なら、無防備な今の状態では危険だった。
「今日はここまでにしよ」
ケンタが言うと、二人も黙って頷いた。
「明日は、網とか鈴つけてこよう。トラにも守ってもらわなあかん」
アラタが笑いながらも、声には慎重さが混じる。
「でも……これ、持って帰ろう」
ハルトが鉄の破片をそっと拾い、持参した小袋にしまった。
帰り道、三人の背中には疲れと達成感が混ざった重みがあった。
それは宝を見つけたからではない。ただ、何かを探しに行ったという“勇気”と“絆”が、彼らの胸に確かに残っていたからだった。
空はすでに夏の青。セミの声が木々に響き、川のせせらぎと混ざり合って、子どもたちの歩く足音を優しく包み込んでいた。
翌朝、空はまるで洗いたてのシャツのように真っ青で、ほんの少し白い雲がゆっくりと流れていた。夏の朝らしい爽やかな風が、秘密基地の木の隙間からそよいでくる。
アラタは基地の床に座り込み、昨日掘り当てた錆びた鉄片をじっと見つめていた。彼の顔には真剣な表情が浮かび、指先で何度も鉄片の凹凸をなぞっている。
「これ、やっぱなんかの一部ちゃうん?」
その声に、近くでノートを広げていたケンタが顔を上げた。ノートには、三人で集めた情報やメモ、手描きの地図、謎のヒントなどが丁寧に書き込まれている。
「なあ、こないだ見つけた郷土誌に、地図のページ、もう一枚あった気がするんや」
「え? マジで? それって……どんなページ?」
ハルトが身を乗り出すように聞いた。彼の瞳はキラキラと輝いているが、表情は冷静さを装っている。
ケンタはうなずきながら、ページをめくる手を止めた。
「たしか……『第七川筋から北東、石の祠の先』って書いてあったような気がする。はっきり覚えとらんけど」
「それ、めっちゃ手がかりやん!」
アラタが目を見開き、興奮した声で叫んだ。
そのときだった。入口から小さな鳴き声が響いた。
「ニャア……」
トラがひょっこり顔をのぞかせ、ゆっくりと中に入ってきた。そして、昨日見つけた鉄片のそばに近づき、前足でちょんちょんと突いた。
「トラも気になるんか?」
ハルトが笑いながらトラの頭を軽く撫でた。
ケンタはノートを閉じて立ち上がる。
「とにかく、図書館に行こう。もう一回、ちゃんと確かめたい」
「よっしゃ、出発や!」
アラタはすぐにリュックを背負い、水筒を手に取った。ハルトもすぐに続く。
トラを連れて三人は秘密基地を飛び出し、坂道を駆け下りる。夏の朝の風が顔を打ち、木の葉がカサカサと揺れていた。
図書館の郷土資料室はひんやりと静かで、外の蝉の声がうそのように遠のいていた。
ケンタが目当ての棚から一冊の郷土誌を取り出し、慎重にページをめくる。
「ここや……あった!」
指差した先には、簡略な地図と「第七川筋」の文字。そしてその先には、くすんだインクで描かれた祠のマークがあった。
「これ……この川沿いの奥の森にある、あの石の祠やんな?」
「たぶんそうや。前にみんなで虫捕り行ったとき、奥にあったやつ」
三人は顔を見合わせたあと、声を揃えたようにニヤリと笑った。
「次の目的地、決まりやな」
夏の日差しが差し込む図書館の窓の外では、蝉が一斉に鳴いていた。新たな冒険の舞台が、子どもたちの胸に、ゆっくりと浮かび上がっていた。
午後の日差しは、木々のすき間から地面にまだら模様をつくっていた。
アラタ、ケンタ、ハルト、そしてトラは、川沿いの小道を遡っていた。目指すは、郷土誌に載っていた「石の祠」。
「ほんまに、この奥にあるんかな……」
ケンタが汗をぬぐいながらつぶやく。
「間違いない。ほら、あの地図の通り、川がここでカーブしてるやろ」
アラタが手描きの地図を掲げてみせた。
ハルトは少し遅れて歩きながら、さりげなく辺りを観察している。耳をすませば、蝉の声と、川のせせらぎ。けれど、その奥に、なにか──ぴりっとした空気の揺らぎを感じた。
「ちょっと待て。あれ……見てみ」
ハルトが指さした先に、苔むした石段があった。雑草に覆われて見えづらくなっていたが、確かに上へと続いている。
「これ、上った先にあるんちゃうか?」
三人は無言でうなずき、石段をのぼり始めた。トラもあとをついてくる。
足場はぬかるみ、枝葉が顔をかすめる。けれど、その先にあるものが、彼らの足を止めさせなかった。
そこに、それはあった。
風化した石の柱が四本、屋根を支えていた。中央には小さな祠。屋根は苔と落ち葉に覆われ、時の重みを背負っているようだった。
「……うわ、本物やん」
アラタが感嘆の声をもらす。
ケンタはそっと祠に近づき、祠の奥に手を伸ばす。中には、小さな石の箱が置かれていた。
「これ……開けてええんかな」
「いや、まて」
ハルトが遮った。「これは神さんにお参りしてからや。京都ではそう教わってる」
半信半疑ながら、三人は祠に手を合わせ、軽く頭を下げた。
そしてそっと、石の箱のふたを持ち上げる。
中には、和紙に包まれた何かがあった。
ケンタが息をのむ。「これって……」
アラタが手を伸ばすその瞬間──
「カサ……」
木々の奥で、なにかが動いた。
全員が一斉に振り向く。
風か、それとも。
彼らの夏の冒険は、まだ序章にすぎなかった。
森へと続く山道は、まるで子どもたちのために用意された秘密の迷路のようだった。
昨日見つけた地図を手がかりに、ケンタ、アラタ、ハルト、そして茶トラのトラは、まだ朝露の残る時間に冒険へと踏み出した。
「なあ、『第七川筋』って、たしかこのへんの川のことやろ?」
アラタがしわくちゃになった地図を掲げて言う。先頭を歩く彼の声に、ハルトが応じた。
「たぶんそうやな。前に釣りしたあの川、ほら、あの橋の奥やで」
ハルトの指差す先には、小さな木橋がかかり、その向こうに、木々が生い茂る森が広がっていた。葉が朝陽に透けて光を反射し、風に揺れるたびにサワサワと優しい音を立てていた。
「なんか……探検って感じしてきたな」
ケンタがリュックのベルトをぎゅっと締めながら、目を輝かせる。トラはその足元で、ひょいと草むらに鼻先を突っ込み、くんくんと匂いを嗅いでいた。
「ほら、行くでー!埋蔵金探検隊、前進や!」
アラタがそう叫ぶと、三人と一匹は草むらに踏み込んだ。
茂みをかきわけながら進むと、葉の裏で跳ねるバッタ、足元を逃げるカエル、葉擦れの音に混じるセミの鳴き声――まるで森全体が彼らの訪問を歓迎しているようだった。
やがて、木々の間からぽっかりと空が開けた先に、苔むした石造りの祠が現れた。
「この辺、祠ばかりあるやん。昨日と少し違うだけやん……」
「いや……あれや!間違いない!」
ケンタが興奮気味に声を上げた。
祠は思っていたよりも古びていて、小さな石段の上に建っていた。屋根には分厚い苔が広がり、石の表面には風化しかけた文字が彫られている。
「なんか……神さま、住んでそうやな」
ハルトが静かに呟き、アラタも思わず神妙な顔になる。
トラは祠の正面で立ち止まり、じっと見つめたあと、「ニャア」と一声鳴いた。
ケンタが祠に近づき、地図と照らし合わせて言った。
「ここや。『石の祠』って、たぶんこれやで」
「でも、この文字……ぜんぜん読まれへん」
ハルトがしゃがみこみ、指で文字をなぞった。
その瞬間、森の奥から一陣の風が吹き抜け、三人の髪とシャツをふわりと揺らした。
「いま、風……吹いたよな?」
アラタが顔をしかめる。トラは何かを感じ取ったかのように祠の裏へと回り込み、また一声鳴いた。
「トラ、なんか見つけたんか?」
ケンタが慌てて後を追うと、祠の裏手に、崩れかけた石の隙間がぽっかりと開いていた。中は真っ暗だが、どこか吸い込まれそうな雰囲気を放っていた。
三人は顔を見合わせる。
「……入ってみる?」
「ほんまにええんか……でも、ここまで来たら……」
「行こう。なんか、今度こそ当たりやと思う」
ケンタの言葉に、二人がうなずいた。
胸の奥で、小さなドラムのように鼓動が高鳴る。
真夏の森の奥深くで、三人と一匹の“冒険”は、まだ始まったばかりだった。
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