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第二十一話『再び宝探しの冒険へ』
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台風が過ぎ去った翌日、近江八幡の空は嘘のように澄み渡っていた。濃い青のキャンバスに雲はほとんどなく、雨に洗われた大気はどこまでも透明で、吸い込む空気さえ清らかに感じられた。けれど道端にはまだ水たまりが残り、川の流れも濁って早く、昨日までの嵐の名残りが確かに残っていた。
三人と一匹は秘密基地に集まった。湿った木の香りが漂う中、アラタは早くも帽子をかぶり直して拳を握った。
「やっと……行けるな!」
声には待ち望んだ高揚感が滲み、頬にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
ケンタは机に両肘をつき、少し不安げに眉をひそめていた。雨上がりの空を見上げては、胸の奥でざわめく気持ちを抑えられない。それでも小さく笑みを漏らした。
「……うん。まだちょっと怖いけど……でも、なんかワクワクしてる」
その正直な言葉に、アラタは「だろ?」と嬉しそうに肩を叩いた。
「俺ら、ここまで準備してきたんや。今度こそやり遂げるで!」
ハルトは落ち着いた様子で地図とノートを広げ、冷静な眼差しを二人に向ける。
「今度こそ証を使うときや。もう逃げ場はない」
短く、けれど強い響きのある声だった。
「逃げる気なんか……もうないで」
アラタが力強く返す。
ケンタも頬を赤らめながら、小さく拳を握った。
「俺も……怖いけど、ちゃんと最後までやる」
その言葉にハルトは静かにうなずき、視線を祠がある森の方向へ向けた。窓の隙間から射し込む陽光が彼の横顔を照らし、決意の硬さを際立たせる。
机の上に乗っていたトラが「ニャー」と鳴いた。
黄金色の瞳を細めるその姿はまるで「俺も行くぞ」と言っているようだった。
三人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべた。嵐を乗り越えた後の澄んだ空と同じように、確かな決意の光が彼らの胸に宿っていた。
秘密基地の中は、雨上がりの湿った匂いがまだ残っていた。木の壁はしっとりと濡れ、差し込む光に水滴がきらりと光っている。三人と一匹は古びた机を囲み、冒険に向けて準備を整えていた。
「懐中電灯、チェック!」
アラタが机の上に置かれた懐中電灯を手に取り、スイッチを入れると白い光が暗がりを切り裂いた。
「縄もあるし、ノートも地図も持ってきた」
ハルトは冷静に一つずつ確認し、手際よく並べていく。その横顔は真剣そのもので、頼もしささえ感じられた。
「えっと……俺は、これ」
ケンタが少し照れたようにリュックを開け、中からスナック菓子と水筒を取り出した。
「これも必要やろ。腹減ったら力出えへんし……」
その言葉にアラタは吹き出し、思わず手を叩いて笑った。
「ははっ、さすがやな! お前、こういうとこだけは気が利くわ!」
ケンタは顔を真っ赤にしながら「別に……」とつぶやいたが、どこか嬉しそうだった。胸の奥では「役に立てるかもしれない」という誇らしさが小さく芽生えていた。
そのとき、机の端に置かれた縄にトラがじゃれつき、前足で器用に押さえ込んだ。尻尾を大きく揺らしながら遊ぶ様子に、三人は同時に笑い声を上げる。
「ほら、トラもやる気満々やで!」
アラタが声を張る。
「ほんまや……この子まで仲間やもんな」ケンタも頷く。その目は真剣で、ただの野良猫ではなく大切な隊員だと認めている表情だった。
ハルトは口元をわずかに緩めて言った。
「備えあれば憂いなしや。これで準備は整った。次は実行あるのみやな」
その言葉に、アラタは深くうなずきながら胸を叩いた。「よっしゃ、俺らの探検隊、最強やな!」
ケンタも笑顔を浮かべ、「うん……なんか、ほんまに行ける気がしてきた」と言葉を添える。
三人は顔を見合わせ、うなずき合った。秘密基地の中に漂う空気は、昨日までの不安を払うように熱を帯びていた。嵐を越えて芽生えた絆が、次の一歩を力強く後押ししていた。
夕暮れが近づき、空が橙色に染まり始めたころ、三人はそれぞれの家で「泊まり作戦」を決行していた。胸の奥はドキドキと高鳴り、まるで心臓が跳ねるたびに嘘がばれてしまうのではないかと不安になる。けれど冒険のためには避けて通れない。小学生なりの覚悟を決め、ひとりひとりが家族に向き合った。
アラタは台所で夕飯の支度をしている母に声をかけた。
「なぁ、今日ハルトん家に泊まってくるわ」
振り返った母の目が鋭く細まる。
「……また悪さするんやないやろな」
アラタは慌てて手を振った。
「せぇへん、せぇへん! ちゃんと宿題も持って行くし!」
母は疑わしげにしばらく睨んでいたが、やがてため息をついた。
「ほんまに……? ハルトくんのお父さんに迷惑かけんようにしなさいよ」
「わかってるって!」
安堵と緊張が入り混じる中、アラタは部屋に戻りリュックを開けた。懐中電灯やノートを忍ばせる手が小刻みに震えていたが、その震えは恐怖よりも高揚のせいだった。
同じ頃、ケンタも玄関で靴を脱ぎながら母に声をかけていた。
「今日な、アラタん家泊まるで」
母は袋を置いた手を止め、怪訝そうに眉をひそめる。
「ふぅん……ほんまに勉強するんやろね?」
ケンタはにやりと笑ってごまかした。
「やるやる! 宿題もちゃんと持って行くし!」
母はまだ半信半疑の顔だったが、「まぁええわ。迷惑かけんときや」と送り出してくれた。玄関の戸を閉めた瞬間、ケンタは胸を押さえ、思わず「ふぅー……」と息を吐いた。心臓が破裂しそうなほど高鳴っていたのだ。
一方、ハルトは居間で新聞を読んでいる父に向かって淡々と告げた。
「今夜はアラタん家に泊まる」
父は新聞を静かに折り畳み、しばらく無言でハルトを見つめた。その眼差しは厳しくも真剣で、心を見透かされるような気がして、ハルトの背筋が少し伸びた。
「……迷惑かけるな。相手の家では礼儀を忘れるなよ」
低い声で言われ、ハルトは静かに頷いた。
「わかってる」
父はそれ以上追及せず、再び新聞に目を落とした。だがハルトの胸には、わずかな罪悪感と、それを上回る決意がしっかりと宿っていた。
こうして三人の小さな嘘は、かろうじて成立した。胸の奥にはそれぞれに不安や緊張が渦巻いていたが、その奥で燃えていたのは「今夜こそ冒険に挑むんだ」という強い想いだった。
夕暮れの空は茜色に染まり、町全体が柔らかな赤い光に包まれていた。三人は秘密基地に集まり、そこでトラも合流した。小さな体をしなやかに伸ばし、尻尾をぴんと立てたトラは、まるで「遅れるなよ」と言わんばかりに先を急いでいるように見えた。
四人の探検隊は再び森へと歩みを進める。道はまだ台風の爪痕を残していて、ぬかるんだ土が靴の裏にまとわりつく。水たまりがあちこちに点在し、踏み込むたびに小さな波紋が広がった。湿った土と草の匂いが鼻をくすぐり、夕陽の光がその一つ一つを黄金色に照らし出している。
「靴、ぐっちょぐちょや……」
ケンタが情けない声を出し、泥で汚れた足元を見て眉をひそめた。
「ははっ、泥んこ遊びやと思えばええやん!」
アラタは振り返りざまに笑い飛ばす。頬は汗と赤い光に照らされ、まるで火照っているようだった。
「遊びちゃう。慎重に歩け。転んだら御朱印まで汚れるぞ」
ハルトの冷静な声が後ろから響く。その言葉に二人は同時に頷き、気を引き締めた。
森の木々の間から差し込む夕陽は赤く、光と影が入り混じって幻想的な景色を生み出していた。水滴を残す葉が揺れ、その度に光がきらめく。静寂の中に、彼らの靴音と小さな呼吸、そしてトラの軽快な足音だけが響いていた。
「次こそ……」
アラタが小さく呟いた。声は森に吸い込まれたが、確かに二人の耳に届いた。
「……絶対、最後まで行こな」
ケンタが声を震わせながらも力強く言う。その瞳には恐怖と期待が混ざっていた。
ハルトは目を細め、静かに頷いた。「ああ。今度こそ、やり遂げる」
三人の言葉にトラが「ニャー」と鳴いた。その鳴き声は不思議と心強く響き、三人の胸を温かくした。
夕闇が迫る森を抜け、ついに祠の前にたどり着いた。石の表面は雨でしっとりと濡れ、夕陽に赤く染まっている。そこに立ち止まった瞬間、彼らの胸には一つの思いが同時に芽生えた――今度こそ、すべてを確かめる時だと。
三人と一匹は秘密基地に集まった。湿った木の香りが漂う中、アラタは早くも帽子をかぶり直して拳を握った。
「やっと……行けるな!」
声には待ち望んだ高揚感が滲み、頬にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
ケンタは机に両肘をつき、少し不安げに眉をひそめていた。雨上がりの空を見上げては、胸の奥でざわめく気持ちを抑えられない。それでも小さく笑みを漏らした。
「……うん。まだちょっと怖いけど……でも、なんかワクワクしてる」
その正直な言葉に、アラタは「だろ?」と嬉しそうに肩を叩いた。
「俺ら、ここまで準備してきたんや。今度こそやり遂げるで!」
ハルトは落ち着いた様子で地図とノートを広げ、冷静な眼差しを二人に向ける。
「今度こそ証を使うときや。もう逃げ場はない」
短く、けれど強い響きのある声だった。
「逃げる気なんか……もうないで」
アラタが力強く返す。
ケンタも頬を赤らめながら、小さく拳を握った。
「俺も……怖いけど、ちゃんと最後までやる」
その言葉にハルトは静かにうなずき、視線を祠がある森の方向へ向けた。窓の隙間から射し込む陽光が彼の横顔を照らし、決意の硬さを際立たせる。
机の上に乗っていたトラが「ニャー」と鳴いた。
黄金色の瞳を細めるその姿はまるで「俺も行くぞ」と言っているようだった。
三人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべた。嵐を乗り越えた後の澄んだ空と同じように、確かな決意の光が彼らの胸に宿っていた。
秘密基地の中は、雨上がりの湿った匂いがまだ残っていた。木の壁はしっとりと濡れ、差し込む光に水滴がきらりと光っている。三人と一匹は古びた机を囲み、冒険に向けて準備を整えていた。
「懐中電灯、チェック!」
アラタが机の上に置かれた懐中電灯を手に取り、スイッチを入れると白い光が暗がりを切り裂いた。
「縄もあるし、ノートも地図も持ってきた」
ハルトは冷静に一つずつ確認し、手際よく並べていく。その横顔は真剣そのもので、頼もしささえ感じられた。
「えっと……俺は、これ」
ケンタが少し照れたようにリュックを開け、中からスナック菓子と水筒を取り出した。
「これも必要やろ。腹減ったら力出えへんし……」
その言葉にアラタは吹き出し、思わず手を叩いて笑った。
「ははっ、さすがやな! お前、こういうとこだけは気が利くわ!」
ケンタは顔を真っ赤にしながら「別に……」とつぶやいたが、どこか嬉しそうだった。胸の奥では「役に立てるかもしれない」という誇らしさが小さく芽生えていた。
そのとき、机の端に置かれた縄にトラがじゃれつき、前足で器用に押さえ込んだ。尻尾を大きく揺らしながら遊ぶ様子に、三人は同時に笑い声を上げる。
「ほら、トラもやる気満々やで!」
アラタが声を張る。
「ほんまや……この子まで仲間やもんな」ケンタも頷く。その目は真剣で、ただの野良猫ではなく大切な隊員だと認めている表情だった。
ハルトは口元をわずかに緩めて言った。
「備えあれば憂いなしや。これで準備は整った。次は実行あるのみやな」
その言葉に、アラタは深くうなずきながら胸を叩いた。「よっしゃ、俺らの探検隊、最強やな!」
ケンタも笑顔を浮かべ、「うん……なんか、ほんまに行ける気がしてきた」と言葉を添える。
三人は顔を見合わせ、うなずき合った。秘密基地の中に漂う空気は、昨日までの不安を払うように熱を帯びていた。嵐を越えて芽生えた絆が、次の一歩を力強く後押ししていた。
夕暮れが近づき、空が橙色に染まり始めたころ、三人はそれぞれの家で「泊まり作戦」を決行していた。胸の奥はドキドキと高鳴り、まるで心臓が跳ねるたびに嘘がばれてしまうのではないかと不安になる。けれど冒険のためには避けて通れない。小学生なりの覚悟を決め、ひとりひとりが家族に向き合った。
アラタは台所で夕飯の支度をしている母に声をかけた。
「なぁ、今日ハルトん家に泊まってくるわ」
振り返った母の目が鋭く細まる。
「……また悪さするんやないやろな」
アラタは慌てて手を振った。
「せぇへん、せぇへん! ちゃんと宿題も持って行くし!」
母は疑わしげにしばらく睨んでいたが、やがてため息をついた。
「ほんまに……? ハルトくんのお父さんに迷惑かけんようにしなさいよ」
「わかってるって!」
安堵と緊張が入り混じる中、アラタは部屋に戻りリュックを開けた。懐中電灯やノートを忍ばせる手が小刻みに震えていたが、その震えは恐怖よりも高揚のせいだった。
同じ頃、ケンタも玄関で靴を脱ぎながら母に声をかけていた。
「今日な、アラタん家泊まるで」
母は袋を置いた手を止め、怪訝そうに眉をひそめる。
「ふぅん……ほんまに勉強するんやろね?」
ケンタはにやりと笑ってごまかした。
「やるやる! 宿題もちゃんと持って行くし!」
母はまだ半信半疑の顔だったが、「まぁええわ。迷惑かけんときや」と送り出してくれた。玄関の戸を閉めた瞬間、ケンタは胸を押さえ、思わず「ふぅー……」と息を吐いた。心臓が破裂しそうなほど高鳴っていたのだ。
一方、ハルトは居間で新聞を読んでいる父に向かって淡々と告げた。
「今夜はアラタん家に泊まる」
父は新聞を静かに折り畳み、しばらく無言でハルトを見つめた。その眼差しは厳しくも真剣で、心を見透かされるような気がして、ハルトの背筋が少し伸びた。
「……迷惑かけるな。相手の家では礼儀を忘れるなよ」
低い声で言われ、ハルトは静かに頷いた。
「わかってる」
父はそれ以上追及せず、再び新聞に目を落とした。だがハルトの胸には、わずかな罪悪感と、それを上回る決意がしっかりと宿っていた。
こうして三人の小さな嘘は、かろうじて成立した。胸の奥にはそれぞれに不安や緊張が渦巻いていたが、その奥で燃えていたのは「今夜こそ冒険に挑むんだ」という強い想いだった。
夕暮れの空は茜色に染まり、町全体が柔らかな赤い光に包まれていた。三人は秘密基地に集まり、そこでトラも合流した。小さな体をしなやかに伸ばし、尻尾をぴんと立てたトラは、まるで「遅れるなよ」と言わんばかりに先を急いでいるように見えた。
四人の探検隊は再び森へと歩みを進める。道はまだ台風の爪痕を残していて、ぬかるんだ土が靴の裏にまとわりつく。水たまりがあちこちに点在し、踏み込むたびに小さな波紋が広がった。湿った土と草の匂いが鼻をくすぐり、夕陽の光がその一つ一つを黄金色に照らし出している。
「靴、ぐっちょぐちょや……」
ケンタが情けない声を出し、泥で汚れた足元を見て眉をひそめた。
「ははっ、泥んこ遊びやと思えばええやん!」
アラタは振り返りざまに笑い飛ばす。頬は汗と赤い光に照らされ、まるで火照っているようだった。
「遊びちゃう。慎重に歩け。転んだら御朱印まで汚れるぞ」
ハルトの冷静な声が後ろから響く。その言葉に二人は同時に頷き、気を引き締めた。
森の木々の間から差し込む夕陽は赤く、光と影が入り混じって幻想的な景色を生み出していた。水滴を残す葉が揺れ、その度に光がきらめく。静寂の中に、彼らの靴音と小さな呼吸、そしてトラの軽快な足音だけが響いていた。
「次こそ……」
アラタが小さく呟いた。声は森に吸い込まれたが、確かに二人の耳に届いた。
「……絶対、最後まで行こな」
ケンタが声を震わせながらも力強く言う。その瞳には恐怖と期待が混ざっていた。
ハルトは目を細め、静かに頷いた。「ああ。今度こそ、やり遂げる」
三人の言葉にトラが「ニャー」と鳴いた。その鳴き声は不思議と心強く響き、三人の胸を温かくした。
夕闇が迫る森を抜け、ついに祠の前にたどり着いた。石の表面は雨でしっとりと濡れ、夕陽に赤く染まっている。そこに立ち止まった瞬間、彼らの胸には一つの思いが同時に芽生えた――今度こそ、すべてを確かめる時だと。
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