サイキック・ケースワーカーズ 柳谷清司の怪奇録

風月

文字の大きさ
1 / 2
サイキック・ケースワーカーズ【結成譚】

序章「終わりの季節」

しおりを挟む
 中学卒業を間近に控えた放課後。清司せいじの頬に当たる空気は、まだ冬の気配を残している。
 昼まで降っていた雨で濡れたアスファルトは、午後の日差しを受けても冷たいままだ。

 彼ら四人は駅前通りを歩いていた。

 帰宅するにはまだ時間が早いため、ゲームセンターにでも行こうという話になり、目的地を目指している。

 清司が友人二人の後ろを歩きつつ、くだらない話で盛り上がっているのを見ていると、ふいに何かが彼の視界の端を縦に切り、雑踏の向こうから、どさっという音が耳に届く。

 思わず足を止め、音がした方に視線を向けたが、通りを歩いている人は、誰も立ち止まらないでいた。

 清司がそこで見たのは、道路を挟んだ反対側にある、高いビルの玄関前で横たわる人だった。

 ここからでは断定できないが、髪の長さから女性だろう。
 手足があらぬ方向に曲がっているのが見えた。

 彼女はその曲がった手足のまま、ほんの数秒で立ち上がると、ビルの横に付いている外階段に向かい、上り始める。

 まるでコマ送りでもしているかのような速さで、彼女の姿はビルの屋上へ到着していた。

 歩道に面したビルの端に立ち、そのままふらりと落下する彼女の姿。

 再び衝突する音と共に、彼女は地面に叩きつけられた。
 そしてまた階段を上り始める。

(……繰り返してるのか)

 そう清司は胸中で独りごちる。

 普段から、人には見えないものを見続けている彼でも、このパターンは初めての経験だった。

 ある種の不快感と、人の死の瞬間を見てしまったという嫌な恐怖が、清司の中でこみ上げる。

 これがもし、誰もいない夜、一人きりなら逃げ出していたかもしれない。

 そんな思考が頭をよぎり、眉間にしわを寄せたところで、ぽんと肩を叩く者がいた。

「清司」

 はっと我に返りそちらを見ると、幼馴染の少年が少し困った笑顔でこちらを見ていた。

 ビルの前を、何事もなかったかのように人々が通り過ぎていく。

「……お前、あれ初めて?」
「……ああ、この辺じゃ珍しいだろ。太壱たいちは?」
「おれは昨日も落ちてんの見た」

 そう言って、太壱もビルの方に顔を向ける。

 清司と同じものを見ているのだろう。

 彼の眉間にもしわが刻まれている。

「そっか……見たくなかったな」

 清司は言いながら、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「ほんと。マジ勘弁」

 太壱はそう、ため息まじりに言う。

 そう言っている間に、また女性が屋上から空中に身を躍らせ、地面と衝突した。

 それによって、何かが飛び散るなどということもなく、彼女は変わらないテンポで曲がった手足を動かし、起き上がる。

「あれ、ずっとやってるのか?」

 そんな彼女を見ながら言うと、太壱は肩をすくめた。

「昨日もやってたからそうなんじゃねえの?」

 その言葉に、今度は清司がため息をつく。

「……気分のいいもんじゃねぇな」
「まったくだぜ。あんなもん見たくないし、関わらないに越したことねえよ」
「それな」

 そう言って清司は、また階段を上り、屋上に到着した彼女から視線を外した。

 そんな彼を見て、
「清司、さすがにビビったろ」

 太壱はにやりと笑みを浮かべて言う。
 
 清司はそんな彼の言葉に呆れ、腕組みをして言い返した。

「あんなもんビビらねぇほうがおかしいって。お前こそ、ホントは昨日見たときチビったんじゃねぇのか?」
「残念。そこのコンビニでションベンした直後でしたー」

 そんなやり取りをしている間にも、しつこく聞こえる衝突音。

 すると、先に進んでいた友人二人が、立ち止まった彼らに気づいた。

「なんかあったかー?」
「もしかして清司、またなんか見た?」

 駆け足で、そう言いながら戻ってくる二人に、清司は小さく舌打ちをした。

 太壱も少し困ったような、微妙な表情を浮かべ、二人を見ている。

「え、マジで?オレも見たい!」 
「僕も見てみたいね」

 そう言うと友人二人は、清司が見ていた方へと視線を向けた。

 しかし、もとよりそういったものが見えない体質である二人に、あの女性の姿が見えるはずもなく、二人はどこだどこだとキョロキョロしている。

 清司は再びため息をつくと、幼馴染の太壱と、友人二人の首根っこをそれぞれ掴み、

「くだらねぇ。行くぞ」
「さあ、おとなしくゲーセン行こうなー」

 と、歩き始めた。

 関わらずに済むなら、それが最善に決まっている。

 彼女は誰にも気づかれることなく、永遠に繰り返し続けるのだろう。

 衝突音は、いつしか雑踏と街頭スピーカーに紛れて聞こえなくなる。

 しかしあの生々しい音は、しばらく彼の耳から離れることはなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...