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1章
1話 異世界で目が覚めた
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見知らぬ木造の天井、見知らぬ場所、起き上がる。
頭が、痛い。
近くでぱちゃぱちゃと水の音がする……。
「あっ。起きたかい、お兄さん?」
声に振り向けば、翠色の瞳を持つ青年が濱中和葉に笑い掛ける。立てた指を数えるだけの簡単な意識確認をする。
青年が尋ねてくる言葉は、日本語ではない。それでも、何故か和葉には言葉が理解できた。
彼は続けて、
「俺はハウルだ。冒険者ギルドの職員をしているんだけど、お兄さんの名前は?」
「濱中和葉といいます」
ハウルは目を瞬かせると、
「ごめん、聞き取れなかったみたいだから、もう一回言ってもらっても良いかい?」
「濱中、和葉です」
先程よりも大きく声を出した和葉だったが、ハウルは「あれ?」と首を傾げる。日本語が聞き取りにくいのだろうかと、今度は一音一音ゆっくり大きく発音してみたが、反応は同じく芳しくない。
和葉の言葉は通じているらしい。日本語でしゃべっているつもりなのに、口から出てくる言葉が知らない言語というのは、すごい違和感だ。
ハウルはすぐに別の職員を呼んでくるとベッドを囲んでいる白い布を押して出て行った。
会話は成立しているのに、何故か名前だけが認識できないようだ。三回言っても、一文字も発音が認識できないのは、かなり妙だ。
少ししてハウルと共に男性がやってきた。赤い髪を揺らし、吊り上がった双眸に嵌め込まれた暁色の瞳。どこか気品の漂う人物が、和葉を見つめる。
「俺は、ケイ。ケイ・ランドルフだ。冒険者ギルドで職員をしている。君は?」
「濱中和葉です。今は……無職だな」
「どう? 俺は彼が名乗ってる時だけ声も聞こえなくなるし、口元がよく見えないんだけど」
「いや、俺には普通に聞こえる。ハマナカカズハさんだ。確かにこの国に馴染みのない音だが……」
ハウルは目を瞬かせる。
「今、ケイさんも名前言った?」
「……あぁ。ハマナカ、カズハだ……今のもか?」
「うん。口元も見えない」
ケイの口元をじっと見ていたハウルが、また首を傾げた。
それよりも、気になるのは……。
(さっきからハウルさん、私の頭の上を見ているな……)
和葉の方を見る度に、彼の視線は少し上。和葉に意図的に視線を合わせないようにしている、にしては違和感がある。
■□■□■
和葉は現在、ケイに連れられて冒険者ギルドのマスター……ギルドマスターの部屋に案内された。広い部屋で、応接室も兼ねているのかデスクの前にソファーが置かれている。
そこにいたのは、緑色っぽい黒髪を垂らしている中世的な顔立ちの男性だが、吊り上がっている瞳から少々冷徹な印象を受ける……。
(いや、髪の毛に緑色のフィルターが掛かってる……)
よくよく見ると、藍色っぽい髪色だ。
和葉はギルドマスターに名乗った。彼にはきちんと聞こえているようで、和葉の名前をフルネームで返してくれる。
やっぱり、ハウルにはギルドマスターが和葉の名前を呼んでも聞こえないらしい。
何故ハウルにだけ聞こえないのか、謎が深まるばかりだ。
「ともあれ、僕はエルヴァニア帝国支部の帝都・ラナンスキー支店の冒険者ギルドマスターをしている、デイヴィス・メクトリアだ。よろしく頼む」
そう一度頭を下げると、彼は続けて、
「もしよければ、ステータスを見せてくれないか?」
「ステータス……? えっと、無職だ」
「それは『クラス』だ。『ステータス・オープン』と唱えれば開く」
「ステータス、オープン……?」
眼の前にぶおんと無機質な画面が表示された。
頭が、痛い。
近くでぱちゃぱちゃと水の音がする……。
「あっ。起きたかい、お兄さん?」
声に振り向けば、翠色の瞳を持つ青年が濱中和葉に笑い掛ける。立てた指を数えるだけの簡単な意識確認をする。
青年が尋ねてくる言葉は、日本語ではない。それでも、何故か和葉には言葉が理解できた。
彼は続けて、
「俺はハウルだ。冒険者ギルドの職員をしているんだけど、お兄さんの名前は?」
「濱中和葉といいます」
ハウルは目を瞬かせると、
「ごめん、聞き取れなかったみたいだから、もう一回言ってもらっても良いかい?」
「濱中、和葉です」
先程よりも大きく声を出した和葉だったが、ハウルは「あれ?」と首を傾げる。日本語が聞き取りにくいのだろうかと、今度は一音一音ゆっくり大きく発音してみたが、反応は同じく芳しくない。
和葉の言葉は通じているらしい。日本語でしゃべっているつもりなのに、口から出てくる言葉が知らない言語というのは、すごい違和感だ。
ハウルはすぐに別の職員を呼んでくるとベッドを囲んでいる白い布を押して出て行った。
会話は成立しているのに、何故か名前だけが認識できないようだ。三回言っても、一文字も発音が認識できないのは、かなり妙だ。
少ししてハウルと共に男性がやってきた。赤い髪を揺らし、吊り上がった双眸に嵌め込まれた暁色の瞳。どこか気品の漂う人物が、和葉を見つめる。
「俺は、ケイ。ケイ・ランドルフだ。冒険者ギルドで職員をしている。君は?」
「濱中和葉です。今は……無職だな」
「どう? 俺は彼が名乗ってる時だけ声も聞こえなくなるし、口元がよく見えないんだけど」
「いや、俺には普通に聞こえる。ハマナカカズハさんだ。確かにこの国に馴染みのない音だが……」
ハウルは目を瞬かせる。
「今、ケイさんも名前言った?」
「……あぁ。ハマナカ、カズハだ……今のもか?」
「うん。口元も見えない」
ケイの口元をじっと見ていたハウルが、また首を傾げた。
それよりも、気になるのは……。
(さっきからハウルさん、私の頭の上を見ているな……)
和葉の方を見る度に、彼の視線は少し上。和葉に意図的に視線を合わせないようにしている、にしては違和感がある。
■□■□■
和葉は現在、ケイに連れられて冒険者ギルドのマスター……ギルドマスターの部屋に案内された。広い部屋で、応接室も兼ねているのかデスクの前にソファーが置かれている。
そこにいたのは、緑色っぽい黒髪を垂らしている中世的な顔立ちの男性だが、吊り上がっている瞳から少々冷徹な印象を受ける……。
(いや、髪の毛に緑色のフィルターが掛かってる……)
よくよく見ると、藍色っぽい髪色だ。
和葉はギルドマスターに名乗った。彼にはきちんと聞こえているようで、和葉の名前をフルネームで返してくれる。
やっぱり、ハウルにはギルドマスターが和葉の名前を呼んでも聞こえないらしい。
何故ハウルにだけ聞こえないのか、謎が深まるばかりだ。
「ともあれ、僕はエルヴァニア帝国支部の帝都・ラナンスキー支店の冒険者ギルドマスターをしている、デイヴィス・メクトリアだ。よろしく頼む」
そう一度頭を下げると、彼は続けて、
「もしよければ、ステータスを見せてくれないか?」
「ステータス……? えっと、無職だ」
「それは『クラス』だ。『ステータス・オープン』と唱えれば開く」
「ステータス、オープン……?」
眼の前にぶおんと無機質な画面が表示された。
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