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1章
9話 朝の冒険者ギルド
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表を開ける作業のためリーセルに付いていく。和葉が出入り口に立て掛けてあるオープンの看板を持ち、リーセルが扉を開けたところを建物の外へ持って行く……。
「おはよう、パトリック君!」
「お、おはようございます」
開くのを待っていたように、かの少年が立っていた。
少々、鼻を突く変な匂いがする。喉に悪い。
「パトリック君、今日も早いねぇ。ご飯、ちゃんと食べた?」
「は、はい。パンを少しですが……」
「……おはよう、パトリックさん。昨夜はよく眠れたか?」
「はい……」
薬草採取の依頼があるか確認しに来た彼を、ケイが中で待つよう背中を押した。
「今日はジェペットが来るはずだ。彼女の依頼を融通しよう」
和葉のスキル実験に付き合いに来たというよりは、朝から依頼を受けに来たようだ。どこに座ろうか迷っているその後ろ姿には、土で汚れた跡がある。
和葉はついっと辺りを見回す。朝露をうっすら纏った雑草を引き抜き、和葉は椅子に座ったパトリックに草が付いていると背中を撫でて、手に持っていた草を見せる。
「どこで寝てたんだ?」
「え?」
「どう見ても、リルスの森に自生している植物だ。確か、ジギタリス」
図星だったらしく、びくっと震えたパトリック。碌な寝床ではないのは判明した。ハウルに頼んで、まだ余っている朝食を取らせたら、ついでに和葉のベッドに押し込んでもらう。
せっかくの依頼を失敗させたくないのなら自分の体調管理は必須項目だと、らしいことを言ってパトリックが断る道筋を断ち、持っていた部屋の鍵をハウルへ投げて渡す。
彼はかっくいー! と言いながら、ハウルはパトリックと共にスタッフルームの奥へ消えて行った。何がかっくいー! なのかは不明だが。
「そこら辺の雑草だろ、それ」
「あぁ」
リーセルはぎょっとするが、ジギタリスは和葉の世界では毒のある植物だ。さすがにそんなものの近くで寝てたら、もう少し攻め立てて言質を取っている。何より、和葉はこの世界に来たばかり。植物のことなどさっぱりだ。
鼻を突く、喉がヒリつくような不快な匂いの正体はモンスター除けのマグルス。ケイも嗅ぎ取っていたらしい。
それなら森の中で寝泊まりしていても問題がないのだろうか。
冒険者達の遠征には必須商品だという。市販の薬草類で作れるもので作られるから、自作する冒険者も一部いるとか。パトリックの場合……というより、『銀の狼』のメンバーならやらせそうだ。その名残なのかもしれない。
森の中の方が街中で寝るより安全なんだろう。町の中は狡猾で身勝手な人間の方が敵だ。モンスター除けの臭気と炎があれば、彼の身は安全なのだろう。
それはもちろん、彼の居場所が人間にバレなければ、の話だが。
「おっはようございまーーっす!」
元気溌剌とした女子の声に顔を上げる。
「あれー? 新人さん?」と茶色い髪をボブまで伸ばしている女子がやって来た。身長はリーセル(一五〇センチ)より小さいぐらいだ。
ケイが、ジェペットと彼女を呼んだ。先程言っていた、薬草採取の依頼だろうと手続きに早速入った。
一通り依頼の受注方法を見る。
依頼主が依頼用紙に書き込み、必要な依頼金と手数料を受け取る。身元確認を取るため、彼女からギルドカードを預かった。
ギルドカードは冒険者には必須の身分証明書に値する。
名前は『メメル・ジェペット』。ニルヴァーナ学園の錬金科四学年。
書類に不備がないかなどを確認する。怪しい依頼を受けないようにするため、冒険者ギルド側の対策だ。時折、違法物の荷運びを依頼してくる貴族もいる。
料金がきちんと揃っているか。最後に取り引き完了サインだ。依頼の取り下げは、できれば早めに。期間を定めているのなら一週間前に、など細々した制約だ。極力ギルドの利益を損なわないようにするためだろう。
これはさすがに一度では覚えられそうにない。いつでも見返せるように後でメモを取ろう。いらない紙と使っていいペンでメモを簡潔に取る。
「学生が、わざわざ薬草を集めているのか? 授業にでも使うのか?」
「いや、これは私の研究に使ってるの!」
「へぇ、どんな研究なんだ?」
「ポーションで魔法を使えるようになる魔道具を作ってるの!」
(何それ、めちゃくちゃ面白そう)そう思った。
「何それ、めちゃくちゃ面白そうだ」口からも出た。
メメルのきらっと輝く瞳と、目が合った。
「おはよう、パトリック君!」
「お、おはようございます」
開くのを待っていたように、かの少年が立っていた。
少々、鼻を突く変な匂いがする。喉に悪い。
「パトリック君、今日も早いねぇ。ご飯、ちゃんと食べた?」
「は、はい。パンを少しですが……」
「……おはよう、パトリックさん。昨夜はよく眠れたか?」
「はい……」
薬草採取の依頼があるか確認しに来た彼を、ケイが中で待つよう背中を押した。
「今日はジェペットが来るはずだ。彼女の依頼を融通しよう」
和葉のスキル実験に付き合いに来たというよりは、朝から依頼を受けに来たようだ。どこに座ろうか迷っているその後ろ姿には、土で汚れた跡がある。
和葉はついっと辺りを見回す。朝露をうっすら纏った雑草を引き抜き、和葉は椅子に座ったパトリックに草が付いていると背中を撫でて、手に持っていた草を見せる。
「どこで寝てたんだ?」
「え?」
「どう見ても、リルスの森に自生している植物だ。確か、ジギタリス」
図星だったらしく、びくっと震えたパトリック。碌な寝床ではないのは判明した。ハウルに頼んで、まだ余っている朝食を取らせたら、ついでに和葉のベッドに押し込んでもらう。
せっかくの依頼を失敗させたくないのなら自分の体調管理は必須項目だと、らしいことを言ってパトリックが断る道筋を断ち、持っていた部屋の鍵をハウルへ投げて渡す。
彼はかっくいー! と言いながら、ハウルはパトリックと共にスタッフルームの奥へ消えて行った。何がかっくいー! なのかは不明だが。
「そこら辺の雑草だろ、それ」
「あぁ」
リーセルはぎょっとするが、ジギタリスは和葉の世界では毒のある植物だ。さすがにそんなものの近くで寝てたら、もう少し攻め立てて言質を取っている。何より、和葉はこの世界に来たばかり。植物のことなどさっぱりだ。
鼻を突く、喉がヒリつくような不快な匂いの正体はモンスター除けのマグルス。ケイも嗅ぎ取っていたらしい。
それなら森の中で寝泊まりしていても問題がないのだろうか。
冒険者達の遠征には必須商品だという。市販の薬草類で作れるもので作られるから、自作する冒険者も一部いるとか。パトリックの場合……というより、『銀の狼』のメンバーならやらせそうだ。その名残なのかもしれない。
森の中の方が街中で寝るより安全なんだろう。町の中は狡猾で身勝手な人間の方が敵だ。モンスター除けの臭気と炎があれば、彼の身は安全なのだろう。
それはもちろん、彼の居場所が人間にバレなければ、の話だが。
「おっはようございまーーっす!」
元気溌剌とした女子の声に顔を上げる。
「あれー? 新人さん?」と茶色い髪をボブまで伸ばしている女子がやって来た。身長はリーセル(一五〇センチ)より小さいぐらいだ。
ケイが、ジェペットと彼女を呼んだ。先程言っていた、薬草採取の依頼だろうと手続きに早速入った。
一通り依頼の受注方法を見る。
依頼主が依頼用紙に書き込み、必要な依頼金と手数料を受け取る。身元確認を取るため、彼女からギルドカードを預かった。
ギルドカードは冒険者には必須の身分証明書に値する。
名前は『メメル・ジェペット』。ニルヴァーナ学園の錬金科四学年。
書類に不備がないかなどを確認する。怪しい依頼を受けないようにするため、冒険者ギルド側の対策だ。時折、違法物の荷運びを依頼してくる貴族もいる。
料金がきちんと揃っているか。最後に取り引き完了サインだ。依頼の取り下げは、できれば早めに。期間を定めているのなら一週間前に、など細々した制約だ。極力ギルドの利益を損なわないようにするためだろう。
これはさすがに一度では覚えられそうにない。いつでも見返せるように後でメモを取ろう。いらない紙と使っていいペンでメモを簡潔に取る。
「学生が、わざわざ薬草を集めているのか? 授業にでも使うのか?」
「いや、これは私の研究に使ってるの!」
「へぇ、どんな研究なんだ?」
「ポーションで魔法を使えるようになる魔道具を作ってるの!」
(何それ、めちゃくちゃ面白そう)そう思った。
「何それ、めちゃくちゃ面白そうだ」口からも出た。
メメルのきらっと輝く瞳と、目が合った。
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