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1章

53話 誰かの強さと優しさの中で

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 だけれど、そんなメメルを応援してくれる人がいる。
 タジトラ村の人々、タタ、カズハ、冒険者ギルドの人達。

 その人達のお陰で今ここにいることを忘れなければ、権力者の言い分を棄却することも可能だろうと彼は穏やかに言った。

 何せ、メメルが魔法ポーションを作ろうと思った理由は、村のみんなを守りたいからだ。

 スタンピートが起きた時、見殺しにされてきた村のみんなを。

 それは、帝国からの攻撃に対応する盾である。
 それは、帝国の国政に対する不満である。

 声をきちんと上げて良いことだとカズハは言った。

 メメルの村人達を想う気持ちの結晶である魔法ポーションが、完成しているのだから。

 だって、理不尽がなければ魔法ポーションなんて作らなかっただろう?

 これは、帝国側からすれば、致命的な理由だ。

 国は助けてくれない、助けてくれるのは村のみんなだけだった。だから、メメルは作り始めたのだ。

 いくらでも、命を懸けて。
 きっと、村のみんなを助けられると信じて。

 そして、ベナードという国を守護する立場の貴族に裏切られた。

 それは立派に、

(タジトラ村のみんなのことは、カズハさんが何とかしてくれるって言ってた……)

 メメルは眼下の惨状に向き直る。
 多勢に無勢、本来なら劣勢な場面。
 それでも、たくさんの人の思いで、敵は数を減らしている。

「ちょっと、私も行ってくるね」
「分かりました。サポートはいたしますので、お気を付け下さい」
「ありがとう!」

 メメルは飛び降りながら、腰にある小さなマジックポーチから双剣を取り出す。
 右手は攻撃、左手は防御用。

 タジトラ村は、小さな頃からスキルと魔法を教えられた。戦えなければ死ぬしかなかったから。
 弱かった自分を守って、父と母は亡くなった。

 これは私達タジトラ村の皆の、人間としての尊厳を守るための戦い。

 メメルが生き残らなければ、それも叶わない。

 少女は、その小さな体躯で応戦する。

 ■□■□■

「それにな。アドルフさんが大層お怒りでブレーメンの所に乗り込んで行った」
「はあ?! アドルフさんって、『聖剣』のアドルフ・ルーズベルトのこと?!」
「そうよぉ?」とカズハの処置を終えたキーラが戻ってきた。その手にはスキル封じの枷を持っている。備品として追加する気だ。

「でも、アドルフさんは、あと二、三週間ぐらいじゃ……」
「あぁ。だから、りゅうせんできたらしい」
「はっ?! 何で??! 応援にしちゃあ、気合入り過ぎじゃない?! あの人、帝国嫌いだよね??!」
「旅路の途中でカズハ君の料理を食べた冒険者が、帝国は好きじゃなくても行くべきだって大層オススメされたんだって。それはもう、美味しそうに語るものだから気になって気になって。だから、龍飛船使ったって」
「あれ金貨クラスの乗り物だけどぉ??」

 キーラが招集をかけていた丁度その時にやって来たアドルフ達は、お目当ての料理を作ってくれるはずだったカズハが連れ去られて大激怒。
 参戦に名乗りを上げ、他の冒険者達の士気まで爆発的に上がった。

 デイヴィスと連携して、それはもう酷いことになっているだろう。ブレーメンは誰彼構わず、気になる人間にちょっかいをかける癖がある。
 面白いかどうかという何とも子供らしい理由で対象が中心になるような事件を作り上げる。デイヴィスも一時期苦渋を舐めさせられた。恨み辛みなら山とある。何せ、ブレーメンが引き起こした事件が冒険者ギルドの不評に繋がってきたからだった。

 そんなこともあって、デイヴィスはとくにブレーメン相手になるとキレがちだ。フェアリーテイルも毛嫌いしている。カズハの伝言がなければハウルなんて放っておけと言っていただろう。

「あそこに残らなくて良かったな、ハウル。間違いなく血祭りに挙げられてたぞ」
「うん……」

 思わずという風に、ハウルがぷるぷる震えている。アドルフがどれだけ大暴れしているか、ケイとしては見てみたかったが。

「それぐらいブレーメンもピンチだ。他のメンバーも応戦するしかないだろう。ハウル、チャンスは今しかない」

 ハウルは顔を上げる。
 その手に、ケイの所持品であるマジックバッグを差し出す。
 
「お前はきっと、フェアリーテイルにいる間に、多くの罪を重ねてきただろう。罪を償うことは犯罪から足を洗うというなら重要なことだ……でも今は、逃げろ。逃げた先で、今まで犯した罪を清算するつもりで善行を重ねるんだ」

 命を奪ってきたのなら、手に掛けた人々の分まで助ける。その分まで助けられたら、今度は倍の人々を。また、その倍以上の人をどんどん助けていくのだ。
 それはきっと、途方もない贖罪行為だ。それでも、これまで犯した罪は決して洗い流せない。

「だからこそ、たくさんの人を助けに行け。どんな小さな事でも良い。些細なことでも、困っている人がいたら、迷わず手を差し伸べるんだ……――カズハのように。それはもちろん、お前のできる範囲で良い。彼もきっと、そう願っている」
「……」

 ケイは手を差し出す。

「そろそろ行こう」
「…………ず」

 小刻みに震えて、途切れて聞こえていたハウルの声が、


「必ず、この恩は返しに来るから!」


 ボロリと、瞳から涙が一粒溢れ落ちる。

 何があっても笑っていた青年が、いつも近くで、友人のように過ごしていたこの青年が、こんな表情を浮かべる事を知らなかった。

 もし、カズハが気付かなかったら……彼が冒険者ギルドフェアリーテイルの狭間で苦しんでいることを、知らないまま犯罪者と見てしまっていただろう。

「ああ、分かった。気長に待とう」
「えぇ。だから、行ってきなさい」

 カズハが書き記した紙を持たせ、ケイは再びハウルを抱きかかえて帝都の空を舞い上がる。
 未だに派手な魔法戦が繰り広げられている一角があったが、目もくれずに帝都の外へ。

 月すら浮かんでいない闇夜は、逃走をアシストしてくれるだろう。
 かつての職場の遥か上空を抜けて、ケイは飛行した。
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