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ありがとう、二人とも
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学園の帰りの外出先は王都で話題のケーキ屋だ。
この国では余程の上級貴族でない限り貴族令嬢がこういう行動をとるのは珍しくない。
王都は国王のお膝元であるから治安が比較的良いが人の多さも桁外れである。
善人を装った悪人ももちろんいる。
だから裕福な階級である貴族がお供を付けずに外出するのは基本ありえない。
事情を知っていて気を使ってくれる友人が居るのはありがたい。
学園外ではコリンナ様とエミリア様にはそれぞれ護衛という名の付き人が居る。
お二人と行動している時はお二人のご厚意に甘えて便乗させてもらっているのだ。
時々屋敷に招待してランベルト領の郷土料理を御馳走することくらいしかお返し出来ないけど。
屋敷に来ている二人だからこそ、うちの事情も知っている訳である。
私もアルマかマルタを呼びたいところだけどあのお屋敷は実質二人で回している。
自分の遊び事に二人を呼び出すのは気が引ける。
それでも二人はお供すると渋ったけど私の方から心配しない様に云ったのだ。
ちなみに私達は明日の休日も予定を合わせていた。
以前、学園で雑談していた時に外国の人気劇団が来ている話題になった事がある。
その観劇に誘われたのである。
もちろんお父様の許可は取っている。
誘われた時、行きたいとは思ったが一度返事を保留した。
婚約破棄は自分の事なのに父に押し付けて遊ぶ事に後ろめたさがあったからだった。
だが帰ってからお父様に確認すると気晴らしに行ってこいと逆に勧められた訳だった。
「いいさ。あの件は私に任せて友人と楽しんできなさい」
「……ありがとうございます、お父様」
「気を付けてな」
「はい」
人通りの多い王都で護衛付きの貴族の馬車を襲う不届き物がいるとは流石に思わない。
お父様に行き帰りの事を伝えて安心させておいた。
♦
「じゃあ、今日は劇場から帰るから少し遅くなるわね」
「お帰りはどれくらいになるでしょうか?」
「そうね……。遅いと言っても夕方には戻れると思うわ。
公演自体は2時間くらいだから」
「分かりました。ではお気をつけて」
デニスを劇場に縛り付けてしまって申し訳ないが私は久々の観劇にわくわくしていた。
「お嬢様、楽しんできて下さいね」
「ご主人様が領地から色々持って来てくれたランベルト領の特産品はまだあります。
夕食はお嬢様の好物ばかりですよ。帰ったらこちらもお楽しみになって下さい」
「ええ、楽しみにしてるわ」
婚約解消の件はずっと頭の隅に引っかかっている。
しかし、お父様が来てくれた以上、任せて待っているしか無い。
頭から不安を追い出して楽しむ事にした。
王都には劇場が二つあった。
両方とも王城から大体等間隔の距離に建築されている。
王立学園は王城の近くなのでやはりどちらに行っても距離的に大した違いは無い。
今回向かっていたのは私の住む貴族街から遠い方側の劇場だ。
どちらかというと外国や若手の劇団が公演することが多い。
それぞれ劇場に到着した私達は専用の入り口から二階の貴賓室に向かった。
一階と違って全て個室である。
「素敵な席ね」
「舞台がとても見やすそう。いい場所ですね」
「まあ、スポンサーの役得というのもあるのだけれどね」
感嘆している私とエミリア様にコリンナ様が答えた。
コリンナ様の実家である伯爵家は芸術分野の援助に力を入れている。
この劇場にもいろいろと便宜を図っている様だ。
ロイヤルボックス程ではないだろうが充分豪華な個室席だ。
席について劇が始まる前に私は二人に感謝の言葉を述べた。
婚約破棄が決まって以来誘われる事が多くなった事に対する感謝だ。
「いつも色々気をつかってくれて……ありがとう、二人とも」
「気にしないで。私はただあなた達とこれを見に来たかっただけだから」
「これが終わったら少しゆっくりして帰りましょう」
二人の気づかいに感謝して観劇した。
演劇の題材はこの国や異国に伝わる伝説や昔の出来事を基にしたものが多い。
今日の題材はよりにもよって「聖女物」だった。
二人は私の『聖女の瞳』の事は知らないからただの偶然である。
人に化身した赤竜が邪神として人々を魔力で従えて暴虐の限りを尽くす。
そこに聖女と勇者が現れて人々を解放してついには赤竜を倒して平和を取り戻す。
二人は結婚して王国を作る、という伝説だ。
この国の建国神話の一つとして子供でも知っている話である。
大筋の流れは同じでも劇団が違えば脚本・演出・役者も違うので飽きる事は無い。
今回は視覚的にも派手な効果や演出で見ていて楽しい。
役者達の情感あふれる演技にも見とれて夢中になって見ていた。
あっという間に前半が終わって休憩時間に入る。
私は席を外して化粧室に向かった。
ここは2階の貴族専用席に続く廊下なので、基本一般の人が入れる場所ではない。
ひと気はあまりないが特にトラブルに巻き込まれる危険はない。
そういう思い込みがあったのは確かだった。
廊下の角を曲がった瞬間、私は物陰に陰に潜んでいた何者かに拘束された。
慌てて抗う私の口が塞がれる。
何かの薬品の様な匂いに気づいたが私の意識は急激に遠ざかっていった。
この国では余程の上級貴族でない限り貴族令嬢がこういう行動をとるのは珍しくない。
王都は国王のお膝元であるから治安が比較的良いが人の多さも桁外れである。
善人を装った悪人ももちろんいる。
だから裕福な階級である貴族がお供を付けずに外出するのは基本ありえない。
事情を知っていて気を使ってくれる友人が居るのはありがたい。
学園外ではコリンナ様とエミリア様にはそれぞれ護衛という名の付き人が居る。
お二人と行動している時はお二人のご厚意に甘えて便乗させてもらっているのだ。
時々屋敷に招待してランベルト領の郷土料理を御馳走することくらいしかお返し出来ないけど。
屋敷に来ている二人だからこそ、うちの事情も知っている訳である。
私もアルマかマルタを呼びたいところだけどあのお屋敷は実質二人で回している。
自分の遊び事に二人を呼び出すのは気が引ける。
それでも二人はお供すると渋ったけど私の方から心配しない様に云ったのだ。
ちなみに私達は明日の休日も予定を合わせていた。
以前、学園で雑談していた時に外国の人気劇団が来ている話題になった事がある。
その観劇に誘われたのである。
もちろんお父様の許可は取っている。
誘われた時、行きたいとは思ったが一度返事を保留した。
婚約破棄は自分の事なのに父に押し付けて遊ぶ事に後ろめたさがあったからだった。
だが帰ってからお父様に確認すると気晴らしに行ってこいと逆に勧められた訳だった。
「いいさ。あの件は私に任せて友人と楽しんできなさい」
「……ありがとうございます、お父様」
「気を付けてな」
「はい」
人通りの多い王都で護衛付きの貴族の馬車を襲う不届き物がいるとは流石に思わない。
お父様に行き帰りの事を伝えて安心させておいた。
♦
「じゃあ、今日は劇場から帰るから少し遅くなるわね」
「お帰りはどれくらいになるでしょうか?」
「そうね……。遅いと言っても夕方には戻れると思うわ。
公演自体は2時間くらいだから」
「分かりました。ではお気をつけて」
デニスを劇場に縛り付けてしまって申し訳ないが私は久々の観劇にわくわくしていた。
「お嬢様、楽しんできて下さいね」
「ご主人様が領地から色々持って来てくれたランベルト領の特産品はまだあります。
夕食はお嬢様の好物ばかりですよ。帰ったらこちらもお楽しみになって下さい」
「ええ、楽しみにしてるわ」
婚約解消の件はずっと頭の隅に引っかかっている。
しかし、お父様が来てくれた以上、任せて待っているしか無い。
頭から不安を追い出して楽しむ事にした。
王都には劇場が二つあった。
両方とも王城から大体等間隔の距離に建築されている。
王立学園は王城の近くなのでやはりどちらに行っても距離的に大した違いは無い。
今回向かっていたのは私の住む貴族街から遠い方側の劇場だ。
どちらかというと外国や若手の劇団が公演することが多い。
それぞれ劇場に到着した私達は専用の入り口から二階の貴賓室に向かった。
一階と違って全て個室である。
「素敵な席ね」
「舞台がとても見やすそう。いい場所ですね」
「まあ、スポンサーの役得というのもあるのだけれどね」
感嘆している私とエミリア様にコリンナ様が答えた。
コリンナ様の実家である伯爵家は芸術分野の援助に力を入れている。
この劇場にもいろいろと便宜を図っている様だ。
ロイヤルボックス程ではないだろうが充分豪華な個室席だ。
席について劇が始まる前に私は二人に感謝の言葉を述べた。
婚約破棄が決まって以来誘われる事が多くなった事に対する感謝だ。
「いつも色々気をつかってくれて……ありがとう、二人とも」
「気にしないで。私はただあなた達とこれを見に来たかっただけだから」
「これが終わったら少しゆっくりして帰りましょう」
二人の気づかいに感謝して観劇した。
演劇の題材はこの国や異国に伝わる伝説や昔の出来事を基にしたものが多い。
今日の題材はよりにもよって「聖女物」だった。
二人は私の『聖女の瞳』の事は知らないからただの偶然である。
人に化身した赤竜が邪神として人々を魔力で従えて暴虐の限りを尽くす。
そこに聖女と勇者が現れて人々を解放してついには赤竜を倒して平和を取り戻す。
二人は結婚して王国を作る、という伝説だ。
この国の建国神話の一つとして子供でも知っている話である。
大筋の流れは同じでも劇団が違えば脚本・演出・役者も違うので飽きる事は無い。
今回は視覚的にも派手な効果や演出で見ていて楽しい。
役者達の情感あふれる演技にも見とれて夢中になって見ていた。
あっという間に前半が終わって休憩時間に入る。
私は席を外して化粧室に向かった。
ここは2階の貴族専用席に続く廊下なので、基本一般の人が入れる場所ではない。
ひと気はあまりないが特にトラブルに巻き込まれる危険はない。
そういう思い込みがあったのは確かだった。
廊下の角を曲がった瞬間、私は物陰に陰に潜んでいた何者かに拘束された。
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