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心配性な父の愛
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後は寝るだけという時間にお父様はある物を持って私の部屋にやって来た。
「あの後色々考えたんだが、おまえにこれを渡しておこう」
「何ですか、お父様?」
お父様は私の手の平の上にそれを乗せた。
何の装飾も無い親指の先程の小さい石ころである。
一見して道に転がっている石と大して変わらない様に見える。
何かの冗談かと思って私は茶化すようにお父様に口を開いた。
「もしかしてプレゼントですか? 誕生日にはまだ早いのですけど」
「そうだな。だが今、渡したいのだ。
それは一見ただの石だが少し特殊な性質を持っている」
「特殊?」
「ああ。磁力魔石と名付けた物だ」
お父様はそう云ってもう一つ石を取り出した。
それを握りしめて魔力を込めると私の手のひらにある石が磁石の様に動いてお父様の元に飛んだ。
ところが魔力の供給をやめた途端、石は空しく床に転がる。
「これは……」
「珍しいだろう? 天然磁石と違って魔力を籠めた時だけ強く反応する。
ランベルト領内の鉱山で発掘されたものだ。
辺境の手つかずの山ならではだな。
元々一つの巨大な鉱石だったが割って魔力を流すと引き合う特性がある」
「……」
「ウチだけの珍しい工業素材として売れないか色々研究中の代物でな。
今回王都に来るならお前の件が片付いてから魔法技研の知り合いに相談しようとサンプルを持って来ていたのだ」
「何故これを私に?」
「ケヴィンの件だ」
「?」
「ぬけぬけと嘘をついてまでお前との婚約を維持しようとする者達だ。
美しい宝石とも磨かれた魔石とも違うがこれはこれで使い道がある」
そう云うとお父様はアルマとマルタの方を振り返った。
「此方の石はお前達に渡しておく」
「はい、旦那様」
「お預かり致します」
その意味を悟って私は一瞬だけ背筋が寒くなった。
「お父様……」
「お前を怯えさせるつもりはない。
まさかお前に手荒な真似をするとは思えんが、一応な。
せいぜい100メイルも反応すればいい方だが無いよりましだろう。
お守り代わりに持っていてくれ」
「……分かりました」
さっきは一瞬ぞっとしたが考えれば本当に万が一の話だ。
ケヴィン大きな商会の子息だし、仮にも婚約までしていた間柄だ。
まさか犯罪者のまねをするような事など無いだろう。
私は心配性な父の愛に感謝して石を受け取った。
♦
人の価値は見た目ではない。
しかし読心能力者でもなければ初対面でその人の内面や良さは分からない。
だとすると十割とは云わないが八割以上、人は視覚的情報でまず人物を判断する。
そのことを改めて痛感した。
最近、今までになかった反応が私の周りには溢れている。
普段私と口を利いた事が無かった男子生徒が私に話しかけて来る事が多くなった気がする。
うぬぼれでなければ。
だとしたら見かけが変わっただけでこんなに反応が違うのかと思って少し醒める。
どちらかと云うと男性は女性よりも見た目重視というのは間違いなさそうだ。
今日は学園の帰りにコリンナ様とエミリア様と共に出かける事になっていた。
放課後、生徒会とは別の委員会に所属している二人を待っていると一人の男性が近づいて来た。
今回はよく知っている者だ。
このまま会わずに済むとは思っていなかったけれど。
「……ケヴィン」
「やあ、エリゼ。久しぶりだね」
「何の用かしら」
「つれないな。僕達は婚約者だ。こうして会うのはおかしくないだろう?」
「もう終わったはずよ。貴方自身の手で」
「終わってなんかないさ。前に言った通り誤解があったんだ。
僕は君へのプレゼントを用意していたんだよ? 誕生日も近いだろう?」
「お父様達にもそう云ったらしいわね」
「それが事実だからね」
何も知らない頃の前の私だったらケヴィンの云う事を信じるかもしれない。
でも今の私は違う。
前は婚約者に向けるやさしい笑顔に感じていた物が今は薄っぺらに見える。
「……では、私が喫茶店で聞いたリリー様とあなたの会話は何だったの?
貴方は私に酷い事をすると云ったたわね」
「やはり誤解がある様だ。あれは冗談だよ。
事実、リリーへ相談した僕はあの後君へのプレゼントを用意したんだ。
受け取って欲しい」
「ケヴィン、はっきり言っておくけど今更貴方が何を言っても変わらないわ。
私達の仲は終わりよ。もう近づかないで」
ここは学園の中だからアルマやマルタはいない。
ましてやこんな時に都合よく助けにきてくれる男子生徒など私には居ない。
無視して歩いてもこのまましつこくついてくる気が満々だ。
どうすればいいか迷っていると丁度コリンナ様とエミリア様がやって来た。
助けてくれる男子生徒はいないが友人は居た。
二人は私とケヴィンの間に割り込んでから口を開いた。
「しつこい男は誰からも嫌われますわよ」
「そうですわ。引き際を大事になさったら? エリゼ様、行きましょう」
二人にそう云われたケヴィンの顔からは完全に笑顔が消えていた。
無表情でガラス玉の様な目がこちらを見つめている。
私は二人に庇われるようにケヴィンから立ち去った。
昨日のお父様の言葉が不意に蘇って私は少し身震いをした。
「あの後色々考えたんだが、おまえにこれを渡しておこう」
「何ですか、お父様?」
お父様は私の手の平の上にそれを乗せた。
何の装飾も無い親指の先程の小さい石ころである。
一見して道に転がっている石と大して変わらない様に見える。
何かの冗談かと思って私は茶化すようにお父様に口を開いた。
「もしかしてプレゼントですか? 誕生日にはまだ早いのですけど」
「そうだな。だが今、渡したいのだ。
それは一見ただの石だが少し特殊な性質を持っている」
「特殊?」
「ああ。磁力魔石と名付けた物だ」
お父様はそう云ってもう一つ石を取り出した。
それを握りしめて魔力を込めると私の手のひらにある石が磁石の様に動いてお父様の元に飛んだ。
ところが魔力の供給をやめた途端、石は空しく床に転がる。
「これは……」
「珍しいだろう? 天然磁石と違って魔力を籠めた時だけ強く反応する。
ランベルト領内の鉱山で発掘されたものだ。
辺境の手つかずの山ならではだな。
元々一つの巨大な鉱石だったが割って魔力を流すと引き合う特性がある」
「……」
「ウチだけの珍しい工業素材として売れないか色々研究中の代物でな。
今回王都に来るならお前の件が片付いてから魔法技研の知り合いに相談しようとサンプルを持って来ていたのだ」
「何故これを私に?」
「ケヴィンの件だ」
「?」
「ぬけぬけと嘘をついてまでお前との婚約を維持しようとする者達だ。
美しい宝石とも磨かれた魔石とも違うがこれはこれで使い道がある」
そう云うとお父様はアルマとマルタの方を振り返った。
「此方の石はお前達に渡しておく」
「はい、旦那様」
「お預かり致します」
その意味を悟って私は一瞬だけ背筋が寒くなった。
「お父様……」
「お前を怯えさせるつもりはない。
まさかお前に手荒な真似をするとは思えんが、一応な。
せいぜい100メイルも反応すればいい方だが無いよりましだろう。
お守り代わりに持っていてくれ」
「……分かりました」
さっきは一瞬ぞっとしたが考えれば本当に万が一の話だ。
ケヴィン大きな商会の子息だし、仮にも婚約までしていた間柄だ。
まさか犯罪者のまねをするような事など無いだろう。
私は心配性な父の愛に感謝して石を受け取った。
♦
人の価値は見た目ではない。
しかし読心能力者でもなければ初対面でその人の内面や良さは分からない。
だとすると十割とは云わないが八割以上、人は視覚的情報でまず人物を判断する。
そのことを改めて痛感した。
最近、今までになかった反応が私の周りには溢れている。
普段私と口を利いた事が無かった男子生徒が私に話しかけて来る事が多くなった気がする。
うぬぼれでなければ。
だとしたら見かけが変わっただけでこんなに反応が違うのかと思って少し醒める。
どちらかと云うと男性は女性よりも見た目重視というのは間違いなさそうだ。
今日は学園の帰りにコリンナ様とエミリア様と共に出かける事になっていた。
放課後、生徒会とは別の委員会に所属している二人を待っていると一人の男性が近づいて来た。
今回はよく知っている者だ。
このまま会わずに済むとは思っていなかったけれど。
「……ケヴィン」
「やあ、エリゼ。久しぶりだね」
「何の用かしら」
「つれないな。僕達は婚約者だ。こうして会うのはおかしくないだろう?」
「もう終わったはずよ。貴方自身の手で」
「終わってなんかないさ。前に言った通り誤解があったんだ。
僕は君へのプレゼントを用意していたんだよ? 誕生日も近いだろう?」
「お父様達にもそう云ったらしいわね」
「それが事実だからね」
何も知らない頃の前の私だったらケヴィンの云う事を信じるかもしれない。
でも今の私は違う。
前は婚約者に向けるやさしい笑顔に感じていた物が今は薄っぺらに見える。
「……では、私が喫茶店で聞いたリリー様とあなたの会話は何だったの?
貴方は私に酷い事をすると云ったたわね」
「やはり誤解がある様だ。あれは冗談だよ。
事実、リリーへ相談した僕はあの後君へのプレゼントを用意したんだ。
受け取って欲しい」
「ケヴィン、はっきり言っておくけど今更貴方が何を言っても変わらないわ。
私達の仲は終わりよ。もう近づかないで」
ここは学園の中だからアルマやマルタはいない。
ましてやこんな時に都合よく助けにきてくれる男子生徒など私には居ない。
無視して歩いてもこのまましつこくついてくる気が満々だ。
どうすればいいか迷っていると丁度コリンナ様とエミリア様がやって来た。
助けてくれる男子生徒はいないが友人は居た。
二人は私とケヴィンの間に割り込んでから口を開いた。
「しつこい男は誰からも嫌われますわよ」
「そうですわ。引き際を大事になさったら? エリゼ様、行きましょう」
二人にそう云われたケヴィンの顔からは完全に笑顔が消えていた。
無表情でガラス玉の様な目がこちらを見つめている。
私は二人に庇われるようにケヴィンから立ち去った。
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