Reve d'Etoiles

ゆもふ

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盗賊と怪盗

2.王子と蜘蛛

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「大漁大漁。こどもの寝かしつけする羽目になるとは思わなかったけど、入口探す手間は省けたからお得だったのかもしれないね」

 立派な屋敷の屋根の上、少年の身につけた宝石が再度しゃらしゃら鳴る。顔にかかっていたヴェールはもう外していた。満足そうに手を叩いて、目線の奥には大きな風呂敷包み。

「よくない。今夜は下見で、盗奪は1ヶ月後だって話だったろ」
「だけど、あんな時間に人が起きてるなんて思ったかい? 時間を決めたのは王子でしょう」

 王子、と称されたのはまた美しい黒髪の少年。と言えどもまだ子供だ。さきほどの少年と並ぶと頭一つぶんほどの差がある。
 黒いスーツを緩く着て、くせのある髪はピンで留めてある。

「確かにそうだけど、僕はいきなり計画を変更されるなんて思ってない」
「ろくに相談もせずに変更したのは謝るよ。……でも予想より警備が厳重だったからね、顔も見られたから2回目の潜入は無理だったと思う。その上で地下の宝物庫なんて聞いたら動くしかなかった。許して」
「……わかった」

 それを横目に聞きながら、青髪の少年が微笑んだ。その微笑みは膝の上の金銀財宝の詰まった風呂敷包みに向けられたものだ。

「というか、王子」
「なんだよ、蜘蛛」

 蜘蛛、と黒髪の少年が呼ぶ。それに答えた青髪の少年が返した呼び方も、仕事のときだけ彼らが使うものだ。

「よくあの電子錠を開けられたね?私が連絡して5分くらいで解読したでしょう」
「そりゃあ、誰かさんが大急ぎで調べろって連絡してきたからだろう……パスワードになりそうなものを調べたんだよ。愛人の生年月日とか、親の旧姓とか」
「なるほど。さすが王子」
「褒めたって僕からは何も出ないぞ」

 屋根の上から向かいの林を見渡すと、黒塗りの自動車が止まっていた。一見ただの高級車だがナンバーはこの世界のどこにも存在しない番号になっていて、タイヤはどんな悪路でも走れるようになっている。

 それを一瞥して、黒髪の、王子と呼ばれた少年が屋根からひらりと飛び降りた。
そのまま降下して地面に叩きつけられるところを、勢いをつけて飛び降りた、蜘蛛と呼ばれていた少年がすくい上げる。人ひとりを腕に抱えたまま地面を蹴り、まるで振り子のように上昇する。

 黒髪の少年を抱えていないほうの手には、きらきら光る糸が握られていた。端は屋根の飾りに結びつけてあるらしい。

 そのまま高い塀まで移り、そこからまた跳躍して林の中にふわりと降りた。林の枯葉を鳴らして降り立った目の前には先ほどの車がある。
 どちらかが、詰めていた息をふうと吐いた。冷たい夜の闇に白い息が溶ける。雲一つない夜空では、月明かりだけでも十分明るい。

「レグル、いつまでたってもこれだけは慣れないんだね」
「高い場所はともかく、揺れるのが駄目なんだよ……改良できないのか」
「それは難しいかな」
「シャウラはこういうの大丈夫なのかもしれないけど、もうちょっと相棒にも気を使ってくれよ」
「はいはい」

 レグル、シャウラ。これが彼らのほんとうの名前だった。
 盗みをしているときに本名を名乗るのは美しくないとこの界隈では一応されていて、彼らもそれに従っているわけだ。本名を名乗ればリスクも高いし、なにより風情がない。

「じゃあ、撤収しようか」
「ああ。……そうだ」
「何?」

 運転席に収まったシャウラに、後部座席のレグルが声をかける。ちなみに助手席には戦利品がシートベルトで固定されている。
 何千万円の価値がありそうな財宝だ、追っ手が来ないという可能性もないのに。せめて膝の上にでも乗せればいいのだろうが、こんな運び方をするのは絶対に捕まらないという確信があるからだ。
 すこし、からかうようにレグルが続けた。

「音声だけしか聞こえなかったけどさ、案外手馴れてるんだな」
「こどもの相手?」
「そうそれ。意外だった」

 法定速度からすこし速い、かといって違反にはならない絶妙なスピードで車を走らせる。たとえスピード違反でも、警察に目を付けられたら面倒くさい。

「きみという王子様の相手をしてるじゃないか、いつも」
「僕はあそこまで子供じゃないぞ」
「へえ?」

 けたけた笑って目を細める。後ろで財宝たちが悲しげにかしゃかしゃと音を立てた。

「ちゃんと包んだか?傷がつくぞ」
「大丈夫ちゃんと梱包材使ったから。レグルは心配症だな」
「……そういう問題じゃ……まあいいけどさあ、食べていければ」

 頬杖をついたレグルが、ミントのガムを噛みながらそうぼやく。猫のようなつり目の瞳は大きく丸い。深海のブルーだ。

「現実主義者だねー、王子様のくせに」
「夢追いだな、蜘蛛のくせに」

 そこまで言って二人笑った。狭い車内に笑い声がこだまする。それだけ見ると犯罪者に見えないくらい、明るく人当たりのいい少年たちだ。

「いいじゃない、蜘蛛は蜘蛛でも女郎蜘蛛だよ私は。強そうでしょう?」
「逞しそうだけどなんか気持ち悪いぞ、というか女郎って……シャウラは一応雄だし」
「ひどい、一応ってなにさ一応って、……あ、もうすぐ着くよ」
「んー、了解」

 生返事をして、レグルは窓から空を見上げる。硝子越しでもわかるくらいに星はちらちら瞬いて、月は猫の爪みたいな三日月をしていた。

 夜のしずかなしずかな帳、冬の空気は冷たく澄んでいる。
 朝になるまでだれも、財宝が奪われたことには気付かないだろう。自分たちの正体にもきっと気付くことはない。
 その秘密に満ちた感覚に、わずかに口元が綻んだ。
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