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第110話:丹波の青鬼・荒木鬼
赤井直正が丹波国人塩見家に壊滅的なダメージを与えていた頃、八木城から出陣する軍勢があった。
明智光秀率いる二千の軍勢である。
八上城の波多野秀治への牽制が目的であった。
「赤井と波多野をできるだけ引き離しておくことこそが、丹波統一に必要でございます。」
内藤家重臣内藤如安の言葉は重かった。
赤井と波多野の武力の前に衰退の一途を辿っていた内藤家。
現在の当主である内藤貞勝は正統なる丹波守護代の名家の血を受け継いでいる。
しかし、如安は松永弾正の弟である松永長頼の息子であった。
山田に対して負の感情がないといえば嘘になるがな・・・。
だが、内藤家存続の為にもここで奴らを滅ぼしてもらわねばならぬのだ。
八上城から出陣する山田軍を見下ろす如安であった。
地形的にどこからでも奇襲されやすい・・・気をつけねばなるまい。
光秀は細目に周囲に探りを入れながら進軍していた。
「殿は心配性ですな。誰が来ようが私が仕留めてみせましょう。」
光秀の隣に従軍している少年が槍を振り回しながら言う。
光秀の美濃時代の家臣であった可児氏の生き残りである可児才蔵、齢は十四歳。
諸国放浪の末に光秀を訪ねてきた。
宝蔵院で槍を学んでいるが、天才的な素質で既に免許皆伝の域に達している。
「才蔵。実際の戦場は甘くないぞ。」
才蔵を諭すのは美濃以来の光秀の家臣である奥田景綱。
「まずは生き残るという力量を身につけることじゃて。」
同じく光秀譜代の家臣である池田輝家も同調した。
その様子を微笑みながら見つめる光秀。
おかしな気分だな。殿のおかげで散り散りだった明智の家臣が集っている。
本来はもっと張り詰めた感覚であるべきなのだろうが・・・
いずれは美濃に帰って明智の郷でのんびりと暮らしたいものだ。
「明智殿。とても戦場に向かう顔つきではございませぬな。」
そんな光秀に声をかけてきたのは本多正信。
軍師として光秀に同行している。
「すまぬ。本多殿。」
「けなしているわけではございませぬ。明智殿が肩の力を抜いている姿を見て安心している次第。」
正信はそう言うと右手を大きく上げた。
「全軍、方円の陣!!」
「くるのか?」
「来ますぞ・・・。」
陣形を変えた山田軍に前方と左右の山々から敵軍が声を上げて襲ってきた。
丹波国人波多野家の軍勢である。その数はおよそ二千程。
「大和の田舎侍がァァァ!! 丹波へようこそじゃ!!」
前方からの軍を指揮するのは波多野家家臣籾井教業。
丹波の赤鬼赤井直正と並んで称される『丹波の青鬼』である。
「私が行きます。」
可児才蔵が槍を構えて単騎で籾井教業めがけて突撃していく。
「伝五郎頼む。」
光秀の声にうなずいた一人の家臣が才蔵の後を追いかけていった。
明智家家臣藤田伝五郎行政は更に目配せをすると二人の男が後に続いた。
「おおう・・・堅いのう。噂に違わぬな!!」
籾井教業は槍で山田軍の兵を突き倒していくが、なかなか崩せない。
光秀の軍は統制が取れており、隙が無かった。
あの男か・・・
教業の視線が兵たちのを鼓舞しながら細目に指示を出す正信に注がれた。
「あれが山田の軍師かァァァ!!」
群がる兵たちをふっ飛ばしながら教業は正信へと襲い掛かる。
「くう・・・」
鋭い槍の一撃だが、正信も槍を構えて防ぐ。
「ワシは波多野家家臣籾井教業じゃ。」
「拙者は山田家家臣本多正信。」
そう名乗りながらも正信は少しずつ間合いを取っていた。
並の腕の者なら私でも十分だが、ああいうバケモノは無理ですぞ。
そこに籾井教業に襲い掛かる一人の少年。
「本多様、私にお任せを!!」
その槍は閃光の如きで次々と多彩な技を放っていく。
「小童・・・なんという腕じゃ!?」
「私は可児才蔵だァァァ!!」
辛うじて受けている感じの教業であったが、
「軽すぎるぞォォォ!! 身の程知らずがァァ!!」
なんと肘で才蔵の槍をへし折ってしまった。
「ありえん・・・う・・・うわッ・・・!?」
「戦ではありえんことなど数知れずじゃァァァ!!」
そのまま拳を才蔵の顔面に叩きこむ。
落馬すると白目を剥いて昏倒する才蔵。
そこに割って入ったのは藤田伝五郎。
槍を振りかざし、鋭い一撃を教業に浴びせる。
「おッ・・・やるではないか!!」
打ち払う教業。
更にそこにもう一人の男が飛び込んでくると鉄砲を馬上から撃ってきた。
「うぬッ・・・」
なんとめざとく槍で防いだが、槍の先端が砕け散った。
「鉄砲をあのようにして防ぐ者は初めて見たぞ・・・。」
鉄砲を片手に驚きの表情を見せるのは明智家家臣三宅弥平次。
「才蔵・・・ったく何やってんの。」
昏倒している才蔵を介抱するのは明智家家臣藤田行久。伝五郎の弟である。
「ぐぬぬぬ・・・窮地じゃが、もう少しだけ遊びたいものじゃ。」
籾井教業は槍を投げ棄てると背負っていた大刀を手にした。
「我ら一人一人では勝てぬが、鬼退治と思えば良い。」
伝五郎は笑みを浮かべると槍の穂先を教業に向けて威嚇する。
弥平次も鉄砲をしまうと刀を抜いた。
その頃、光秀は危機的状況に陥っていた。
「ぬう・・・この馬鹿力は一体・・・!?」
「天下に名高い山田家の明智とやらはこの程度かァァァ!!」
波多野家家臣荒木氏綱の猛攻の前に防戦一方であった。
こやつ・・・柴田勝家に勝るとも劣らんぞ・・・
光秀は馬から飛び降りると乱戦の中に紛れていく。
「貴様ァァァッ!!」
荒木氏綱は『荒木鬼』と恐れられる剛の者であった。
赤井直正や籾井教業と並んで称される程である。
山田家と戦ったら者達はこのような気持ちになるのだろうな・・・無茶苦茶な武の前には抗う気も失せる。
光秀はそんなことを考えながらも、乱戦に紛れながら荒木氏綱に近づいて槍を突く。
「小癪な真似をォ!!」
その一撃をかわすと憤怒の形相を浮かべる氏綱。
そこに奥田景綱、池田輝家が同時に攻撃を仕掛けてくる。
「一人一人でかかってこんかい!!」
巧みにその攻撃をかわしきると距離を取る氏綱。
「この戦は将軍義栄公直々のもの。絶対に勝たねばならぬのだ!!」
光秀が槍を構えながら叫んだ。
「撃て!!」
本多正信の号令と共に山田軍の鉄砲隊が次々と波多野軍の兵たちを撃ち倒していく。
更に弓隊も乱戦の中で隊列を立て直すと波多野軍に一斉に矢を放つ。
そう、この鉄砲隊百人、弓隊二百人は大和国田原城で鍛えられた正信自慢の兵であった。
これからの戦は効率的なことが求められるであろう。
圧倒的物量を上回る圧倒的な質の兵たちと戦術。優れた飛び道具、火器だ。
数刻にもわたる激戦の末に、波多野軍は撤退していった。
かなりの兵を失ったことにより、籾井・荒木の両鬼も意気消沈していた。
しかし、山田軍も三百程の兵を失ったことにより八木城に退却する羽目になってしまった。
「明智殿。この兵力で波多野を倒したとしても、次に繋がりませぬ。」
「そうですな・・・無念ですな・・・。」
山田家による丹波攻め、明智光秀の軍は丹波の青鬼籾井教業、荒木鬼こと荒木氏綱と結果的には痛み分けということになった。
丹波勢強し・・・連戦連勝だった山田軍にとって大きな壁として立ちはだかるのである。
明智光秀率いる二千の軍勢である。
八上城の波多野秀治への牽制が目的であった。
「赤井と波多野をできるだけ引き離しておくことこそが、丹波統一に必要でございます。」
内藤家重臣内藤如安の言葉は重かった。
赤井と波多野の武力の前に衰退の一途を辿っていた内藤家。
現在の当主である内藤貞勝は正統なる丹波守護代の名家の血を受け継いでいる。
しかし、如安は松永弾正の弟である松永長頼の息子であった。
山田に対して負の感情がないといえば嘘になるがな・・・。
だが、内藤家存続の為にもここで奴らを滅ぼしてもらわねばならぬのだ。
八上城から出陣する山田軍を見下ろす如安であった。
地形的にどこからでも奇襲されやすい・・・気をつけねばなるまい。
光秀は細目に周囲に探りを入れながら進軍していた。
「殿は心配性ですな。誰が来ようが私が仕留めてみせましょう。」
光秀の隣に従軍している少年が槍を振り回しながら言う。
光秀の美濃時代の家臣であった可児氏の生き残りである可児才蔵、齢は十四歳。
諸国放浪の末に光秀を訪ねてきた。
宝蔵院で槍を学んでいるが、天才的な素質で既に免許皆伝の域に達している。
「才蔵。実際の戦場は甘くないぞ。」
才蔵を諭すのは美濃以来の光秀の家臣である奥田景綱。
「まずは生き残るという力量を身につけることじゃて。」
同じく光秀譜代の家臣である池田輝家も同調した。
その様子を微笑みながら見つめる光秀。
おかしな気分だな。殿のおかげで散り散りだった明智の家臣が集っている。
本来はもっと張り詰めた感覚であるべきなのだろうが・・・
いずれは美濃に帰って明智の郷でのんびりと暮らしたいものだ。
「明智殿。とても戦場に向かう顔つきではございませぬな。」
そんな光秀に声をかけてきたのは本多正信。
軍師として光秀に同行している。
「すまぬ。本多殿。」
「けなしているわけではございませぬ。明智殿が肩の力を抜いている姿を見て安心している次第。」
正信はそう言うと右手を大きく上げた。
「全軍、方円の陣!!」
「くるのか?」
「来ますぞ・・・。」
陣形を変えた山田軍に前方と左右の山々から敵軍が声を上げて襲ってきた。
丹波国人波多野家の軍勢である。その数はおよそ二千程。
「大和の田舎侍がァァァ!! 丹波へようこそじゃ!!」
前方からの軍を指揮するのは波多野家家臣籾井教業。
丹波の赤鬼赤井直正と並んで称される『丹波の青鬼』である。
「私が行きます。」
可児才蔵が槍を構えて単騎で籾井教業めがけて突撃していく。
「伝五郎頼む。」
光秀の声にうなずいた一人の家臣が才蔵の後を追いかけていった。
明智家家臣藤田伝五郎行政は更に目配せをすると二人の男が後に続いた。
「おおう・・・堅いのう。噂に違わぬな!!」
籾井教業は槍で山田軍の兵を突き倒していくが、なかなか崩せない。
光秀の軍は統制が取れており、隙が無かった。
あの男か・・・
教業の視線が兵たちのを鼓舞しながら細目に指示を出す正信に注がれた。
「あれが山田の軍師かァァァ!!」
群がる兵たちをふっ飛ばしながら教業は正信へと襲い掛かる。
「くう・・・」
鋭い槍の一撃だが、正信も槍を構えて防ぐ。
「ワシは波多野家家臣籾井教業じゃ。」
「拙者は山田家家臣本多正信。」
そう名乗りながらも正信は少しずつ間合いを取っていた。
並の腕の者なら私でも十分だが、ああいうバケモノは無理ですぞ。
そこに籾井教業に襲い掛かる一人の少年。
「本多様、私にお任せを!!」
その槍は閃光の如きで次々と多彩な技を放っていく。
「小童・・・なんという腕じゃ!?」
「私は可児才蔵だァァァ!!」
辛うじて受けている感じの教業であったが、
「軽すぎるぞォォォ!! 身の程知らずがァァ!!」
なんと肘で才蔵の槍をへし折ってしまった。
「ありえん・・・う・・・うわッ・・・!?」
「戦ではありえんことなど数知れずじゃァァァ!!」
そのまま拳を才蔵の顔面に叩きこむ。
落馬すると白目を剥いて昏倒する才蔵。
そこに割って入ったのは藤田伝五郎。
槍を振りかざし、鋭い一撃を教業に浴びせる。
「おッ・・・やるではないか!!」
打ち払う教業。
更にそこにもう一人の男が飛び込んでくると鉄砲を馬上から撃ってきた。
「うぬッ・・・」
なんとめざとく槍で防いだが、槍の先端が砕け散った。
「鉄砲をあのようにして防ぐ者は初めて見たぞ・・・。」
鉄砲を片手に驚きの表情を見せるのは明智家家臣三宅弥平次。
「才蔵・・・ったく何やってんの。」
昏倒している才蔵を介抱するのは明智家家臣藤田行久。伝五郎の弟である。
「ぐぬぬぬ・・・窮地じゃが、もう少しだけ遊びたいものじゃ。」
籾井教業は槍を投げ棄てると背負っていた大刀を手にした。
「我ら一人一人では勝てぬが、鬼退治と思えば良い。」
伝五郎は笑みを浮かべると槍の穂先を教業に向けて威嚇する。
弥平次も鉄砲をしまうと刀を抜いた。
その頃、光秀は危機的状況に陥っていた。
「ぬう・・・この馬鹿力は一体・・・!?」
「天下に名高い山田家の明智とやらはこの程度かァァァ!!」
波多野家家臣荒木氏綱の猛攻の前に防戦一方であった。
こやつ・・・柴田勝家に勝るとも劣らんぞ・・・
光秀は馬から飛び降りると乱戦の中に紛れていく。
「貴様ァァァッ!!」
荒木氏綱は『荒木鬼』と恐れられる剛の者であった。
赤井直正や籾井教業と並んで称される程である。
山田家と戦ったら者達はこのような気持ちになるのだろうな・・・無茶苦茶な武の前には抗う気も失せる。
光秀はそんなことを考えながらも、乱戦に紛れながら荒木氏綱に近づいて槍を突く。
「小癪な真似をォ!!」
その一撃をかわすと憤怒の形相を浮かべる氏綱。
そこに奥田景綱、池田輝家が同時に攻撃を仕掛けてくる。
「一人一人でかかってこんかい!!」
巧みにその攻撃をかわしきると距離を取る氏綱。
「この戦は将軍義栄公直々のもの。絶対に勝たねばならぬのだ!!」
光秀が槍を構えながら叫んだ。
「撃て!!」
本多正信の号令と共に山田軍の鉄砲隊が次々と波多野軍の兵たちを撃ち倒していく。
更に弓隊も乱戦の中で隊列を立て直すと波多野軍に一斉に矢を放つ。
そう、この鉄砲隊百人、弓隊二百人は大和国田原城で鍛えられた正信自慢の兵であった。
これからの戦は効率的なことが求められるであろう。
圧倒的物量を上回る圧倒的な質の兵たちと戦術。優れた飛び道具、火器だ。
数刻にもわたる激戦の末に、波多野軍は撤退していった。
かなりの兵を失ったことにより、籾井・荒木の両鬼も意気消沈していた。
しかし、山田軍も三百程の兵を失ったことにより八木城に退却する羽目になってしまった。
「明智殿。この兵力で波多野を倒したとしても、次に繋がりませぬ。」
「そうですな・・・無念ですな・・・。」
山田家による丹波攻め、明智光秀の軍は丹波の青鬼籾井教業、荒木鬼こと荒木氏綱と結果的には痛み分けということになった。
丹波勢強し・・・連戦連勝だった山田軍にとって大きな壁として立ちはだかるのである。
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