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謎が多すぎるボクっ娘

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「おぉ、ふかふか」
「お茶飲むか?」
「あ、飲食物はちょっと…」
「何だよ、毒なんか入れないぞ」
「入れても効かないよぉ。まぁいいか」

やはり状態異常無効があるみたいだ。


    ダンジョンを出口から抜けて、マスター達に捕まった問題の巫女を俺たちのギルドハウスに連れ込んでいます。なう。
というかよく着いてきたな……?
    とりあえずちょっと尋問……いや、お話でもしないかと誘ったらホイホイついてきた。

    ホワホワの白い髪の毛を無造作にまとめてお団子にして……真っ黒だったコートやボディースーツが真っ白になってるから目の翠がやけに目立つ。

    基本無表情だけど、話しかければほんのり微笑むもんだから…マスターたちは『なんか、かわいいな?』という目付きで巫女を眺めてる。
    たしかに可愛い。ゆったりした動きは指の先まで計算されていて、しっかり意識して動かしている。
 誰かが喋る時にゆっくり視線を合わせてゆっくり外す、その動作がすごく綺麗だ。
 日本舞踊でもされてましたか?とでも聞きたくなるような洗練された動きに、思わず目が勝手にそれを追う。


「粗茶ですが」
「恐れ入ります。これなあに?」
「えっ?ただの緑茶だよ。嫌いか?」


 
巫女は湯のみに入った緑茶をしげしげと眺めている。…礼儀正しい返しだったな。

「回復小、中毒回復ついてる。君がいれたからかなぁ?」
「料理スキル持ってればそうなるだろ?」
「…へぇ、そうなんだ…」


    な、なんだろうこの違和感。あの動きからしてかなりのスキル持ちと見たが。食事にこだわりがないだけか?
    でもソロ活動なら鍋を使うから、料理スキルがないと回復薬作るのに苦労するだろうし。
 どういう事だ??



「とりあえず自己紹介からしようぜ。俺は獄炎エン、火属性で火力担当。円環の炎マスターだ」

    ニカッと笑った獄炎さんはがっしりした大きな手を巫女に差し出し、彼女も抵抗もなく握手に応じてる。
    獄炎さんは金髪ツンツンヘアーの…やんちゃ顔って言うのかな……つり上がった赤い瞳が凛々しい。


 
「私は殺氷ヒョウ、氷の韋駄天いだてんマスターです。水属性、鑑定持ちです。あなたもお持ちのようですね。以後お見知り置きを」

    殺氷さんは銀髪のオールバック。
涼し気な双眸は青に輝いている。
キャラメイク運もいいんだよな。この人達は。

 

「ウチは彩の神札マスターすめらぎだよ!金属性!よろしくだお!」

    うちのマスターは相変わらず猫耳メイド服。
髪の毛はピンク、目もピンク。これは染色したカラーだ。チカチカするからやめて欲しいけど……。
    みんな着流しだから浮いてるし。

「マスターはそのままのキャラで行くのかよ…」
「いいじゃん!もうにゃんとかめんどくさい!2人も自己紹介しなお!」


    清白が大きなため息をつく。
清白はキャラメイクじゃなくステータスを取ったからよくある見た目だ。
ショートヘアは茶色、目も茶色。

清白すずしろ、ここのサブマスター」
「清白…もうちょっと情報伝えた方が」
「属性は水。スピード特化」
「うーん、ごめん。この人は人見知りなんだ。
俺は紀京あきちか、皇と清白のギルドでヒーラーしてる。無属性・陽です。よろしくな」


    手を差し出すと、ぱあっと明るい笑顔になる。おおぅ、眩し。
小さな白い手がぎゅう、と握ってくる。
手のひらのマメすごい。こんなふうになってる人めずらしいな。

「ボクと同じだね!ボクは無属性・陰だけど…初めて会ったなぁ。ゲーム上のことあんまり知らないから教えてくれる?」
「あんまり知らないって…?そんな戦い方じゃなかったけど」


 
「巫女さん、どの程度分からないか教えてくださいますか?」 

殺氷さんがアルカイックスマイルだ。
こりゃ一波乱あるかもな。怖い。

「あ、呼び捨てでいいよぉ。うーん?そもそもスキルって何?あと、鑑定って?君たちお洋服コロコロ変えてるけどどうやってるの?」

「スキルを知らない?……いや、双刀使いですからスキルをお持ちなのだと思いますが。私たちが使う法術、攻撃は全てスキル設定をしないと、戦う時はタコ殴りしかできないはずですよ。」

あ、認定呼び捨てになりました。良かった。

 

「…なるほど、そういう事かぁ…」
「鑑定もされてますよね?猛毒、即死のエフェクトも見破られていましたし、緑茶の効果も理解されています」

「見ればわかるでしょ?鑑定?もスキルなのかぁ。もしかしてお茶入れもスキル?」

    巫女が俺に視線をよこす。うーん、嘘ついてるような目じゃない。

 

「そうだよ、料理スキル。ソロ活動してるなら回復薬とか神力薬作ってるだろ?自動で上がるとしても最低ランクのF止まりで、確認ボタン押さないとランク上がらないはずだけど…どうやって作ってるんだ?」

「薬?これの事かなぁ」 

    胸元からガラスの瓶をふたつ取り出す。
なんだこれ?無色透明の液体…???

 
「鑑定不可です。…これはどのようにして作られましたか?」
「材料は内緒だけど、薬草詰んで鍋で煮出して液体にしてるよぉ。みんなそうじゃないの?」

    確かにやり方はそうなんだが、そうなると薬学スキルも持っているはずだ。無色透明ってことは白い薬草を入れなきゃならないが、スキルランクがAを越えないと薬草自体が詰めないはず。



「まだるっこしい事やめて、さっさと聞けばいいだろ。お前RMTでキャラ買ったんだよな?だから知らないんだろ?」
「清白!」

「マスターは黙ってろ。そうじゃなきゃ説明がつかない。
 あの戦闘が出来るやつがどれだけいると思う?鑑定、双刀使い、柏手も法術スキルがなければ無理だし、常態異常無効化はその服の付与かもしれないが。祝詞のりとは知らん。
そもそもあれは全文覚えて正しく唱えなきゃ意味が無いから、使う奴なんか見た事がない」

「RMTってなぁに?買う?プレイヤーって買えるの?」

キョトンとする巫女を殺氷さんが鋭く見つめる。

「鑑定結果は嘘ではありません。いや、しかし…どうやって」
「マジかよ…お前…」
 マスター二人がビックリしてる。いや、みんなびっくりだ。 

 

「オンラインゲームやった事ないのか?スキルなんてどのゲームでもある設定だろ?RMTしてないなら説明つかないんだが」

「だからそのRMTって何さ?ボク野良パーティー入ると必ず言われるんだよ。いい加減鬱陶しいからソロばっかりだし。なんなの?蔑称か何か?ゲームはした事ないよ。はじめて。」

    うそやん。本当に知らんのか?
 
「蔑称じゃないよ。リアルマネートレーディングとかリアルマネートレードって言うんだ。
リアルのお金でゲームのキャラを売買する事。物品もそうだけど、キャラがメインだな。
このゲームならキャラメイクがランダムだから、巫女の見た目はかなり高額で取引されるし、スキルなシステムを知らないということはゲーム内で強くなったキャラを購入したんじゃないかって……話になる」


    言いながら何となく申し訳ないような気分がしてくる。
説明を聞いた巫女がしょんぼり顔になった。


 
「あぁ、そういう事か。なるほどねぇー。うーん、別にそう思われても支障はないけど。
ボクはリアルのお金になんか何の意味もないよぉ。
 お金を使ったことも触ったこともないし、見たこともない。外の景色なんてそうそう見られないし、自分が自由に動けるなんてここに来てからだもん」

「お前、もしかして病人とかか?」

 清白が俺をチラリ、と見てくる。
 うーん、まだ言いたくないけど。聞いたことある話だなぁー。なんてな。


 
「病人とは違うけど。正しく言えば監禁?閉じ込められてる」
「なんだと!?どういうことだ!?今どうしてる?犯罪に巻き込まれてんのか??」

    獄炎さんが気色ばむ。ありゃ、通報案件だったか?

「犯罪っちゃー犯罪かなぁ?ボク生まれが特殊でさぁ。日本でも有名な神社に閉じ込められてガッチガチに縛られてるから。お仕事としては陰陽師だけど、正しくはちょっと違うよぉ」

「リアルの仕事が陰陽師?」

「そぉ。だからみんなが言うスキルは正直知らないし、自分のレベルとか…あとなんだっけ?持ち物とかゲーム内通貨とかそういうのも把握してない。
ボクがやっているのは、全部リアルで出来ることしかしてないよぉ」


 
    ま、待って……頭が追いつかない。
リアル陰陽師?結界やら双刀使いやら祝詞もリアルでできるの?!

「失礼ですが、ステータス画面を公開していただけますか?そのお話を受け止めるためにお願いします」

「殺氷それは…いや、でもわかんねえなら説明も必要か。まさかナチュラルボーンとはな」



    ステータス開示はマナーの禁忌に
触れる。
    どのゲームでもそうだけど……確かに本当に知らないなら教えないと逆に危ないし、アカウント消されちゃったら可哀想だし。
 
    ナチュラルボーンというのはゲーム内でスキルを使わず、リアルの特技を活かして戦う人たちの事だ。
    剣道をやっている人、格闘家、中にはミリオタで拳銃を作っちゃった人もいる。
食堂なんかもそう。いつも行ってるオムライス屋さんはナチュラルボーンだ。

知覚が全てあるが故にできる事だけど、さすがに巫女のような戦闘ができる人は見た事がない。

 

「どうやればいいの?」
「システム呼び出しも知らねぇのか…『システム』、『ステータス』、…あと見せる奴の名前と『公表』って言えばいい」

「ほぉん?システム…ステータス。ここにいる人皆に公表」

    目の前にステータス画面が開かれる。
みんな指名でも開くのか……ちょあ!えっ!??
    レベルカンスト……上限って赤い文字になってる。スキル本当に振ってない。スキルポイントが見たことない数字だ。

    全てのスキルがランクアップ表示でピカピカ光ってる。Fランクしかない。
スキル所持数やばいな。
隠しスキル、隠し称号も山盛りだ。



「こ、れは…レベル…カンストしている方がいるとは……」
「カンスト?」

「カウンターストップ、文字通り上限に達したということです」
「ほほぉ、なるほどぉ。もう上がらないの?」

「アップデートがあれば上限解放されますが、しばらく先のアップデートになると思われますよ。現行私たちがトップの数字でしたが、七十超えたあたりです」
 
    殺氷さんが苦笑いしてる。
獄炎さんは腕を組んで、画面を見て沈黙してしまった。
    レベルは初期登録した二人が七十辺りで俺は六十程度。マックスは確か千だと聞いたことがある。五十辺りから突然上がらなくなるんだ。

 

「ありゃ、そうなの?うーん…ボクには関係ないからいいか。」
「スキルに不穏なものが沢山ある。お前プレイヤーキル相当してるだろ」
ジト目になる清白。今日はツッコミのキレがいいな。

「仕方ないよぉ、装備狙って寝首かかれるんだもの。さすがに身ぐるみ剥がれるのは嫌だしぃ」
「治安が悪い所にいるのか。装備はステータス画面でも非表記だし。その服ドロップアイテムか?」
 
「清白ちゃんは色々聞いてくるねぇ。これはボクが改造したの。ええと、どこだっけ?八幡の藪知らずのボスドロップを解体して…」

「ウソだろ!?確率一万分の一レア装備を?あれが元なら確かに状態異常無効化するな。だがなんで非表記なんだ?お前の画面は表示されてるか?」
「ボクも初めて画面見た。レベル百以上のみ着用可、視認可、作成者本人のみ着用可、状態異常無効化、あとなんかいっぱいプラスがついてるよ」

「複数バフついてるのか!?幾つある?」
「ひぃ、ふぅ、み…十個」
「「「は?!」」」
 マスターたちは仲良しだな。よくハモる。
 確かに驚愕の事実だけど。


「十個なんてつくのかよ。待て、その調子だと刀もか?」
「短刀は普通に売ってるやつだよ。修理してるからボロボロだけど。でかい刀はドロップアイテムだね」
「日月護身乃剣ってドロップすんのか?」

「最初に放り込まれるところあるじゃん?あそこで一億体倒せば出るよ。」
「もしかしてチュートリアルの事か?」
「そうそう、なんか説明してるやつ。ボクあそこから出る方法知らなくてさぁ。永遠に敵倒してたら出てきた。未だに知らないんだけどあれどうやるの?」


「システムで退出するんだよ。時間制限MAXまで使って出てるのか?大陸移動って…わかんねぇよな?」
「お、つんつん頭の人喋った。大陸移動?」

「獄炎だよ。名前覚えろ。北海道とか沖縄、四国に行くやつ。もしかして行ったことねぇのか?」
「リアルでもゲームでもないよぉ。どうやるの?」

「わかった、使い方教えてやる。こっち来い」



獄炎さんの隣に巫女が座り、システム画面の使い方を教えてる。本当に何も知らないままゲームをやっているなんて。
マジかぁ……。
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