黒虎の番

月夜の庭

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番のキス

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ゆっくり歩いて来る4本の足元から、青黒い炎が上がっていました。


『あれが、地獄の炎?見えなくはないけど、ちょっと大袈裟な気がする』


この外見だから、対面した人達は恐怖心も加わり、必要以上に恐がったのかも知れません。


あたしを見下ろしている紅い目が、段々と大きく見える。


黒虎の顔が近い。


まるで優しく笑っている気がして、この顔を知ってる気がした。


そうです。


あたしは、この虎を知ってる。


そう自覚すると、まるで心臓を掴まれたかのようにドクリと大きな音を立てて脈を打った。


『あ………会いたかった』


なんで忘れていたんだろう。


彼は、あの年老いた虎だ。


無言のまま黒虎は、あたしの額の石を舐めた。


すると全身に電流が流れたのでは?と錯覚を起こしそうな衝撃が走り抜けるのと同時に、何かがパキンと音を立てて割れた気がします。


「番を殺した罪が許された………私とビアンカの間にあった見えない壁が消えた」


聞き覚えのある声がする。


そしてポン!と音を立て、あたしは人の姿に変化した。


相変わらず全裸だけど、アンちゃんにキスされた時よりも成長した手が目に入った。


見下ろした身体は、育ち始めたであろう小ぶりと胸があった。


中学生くらいに成長していました。


それでも黒虎に比べたら短く小さな手を彼に向かって伸ばした。


『会いたかった。ずっと探していたの』


今なら分かる。


彼が私の運命なのだと肌で感じる。


ここで初めてグルルと声を出して唸り、後退し始めたので慌てて首に抱き着いた。


『愛してます………今も昔も』


彼の足から発せられる炎が纏まりついても気にせず体を擦り寄せた。


『『番』』


あたしの虎として解放された本能が彼を番だと感じ取っていた。


心の声が、彼の声と重なった。


それに彼の匂いを あたしは知ってる。


『ラファエル、貴方が黒虎だったのね』


『ビアンカ様』


『前世では気が付かなかったけど、ラファエルが
………あたしの番』


黒虎から、見慣れたラファエルの姿に変わると、着ていた神父服の上着を脱いで、あたしに着せると抱き上げて転移魔法を展開した。


あたしは抵抗なんてするはずも無く、ラファエルの首に腕を回し身を任せる。


魔法の光が消えるとボスンと音を立て、柔らかい所に寝かされ、押し倒された体制になっていた。


白い布からはラファエルの匂いがする。


ここはきっと、ラファエルが使っている拠点の部屋。


『私は前世で貴女を手に掛けて初めて、番だと知りました。そして番を殺した事実が、私を呪い狂わせた。吐きそうな程の後悔と、埋められない虚無感に苦しんでいました』


ベッドの上で覆いかぶさった体制で、額や鼻にキス落としながら、今までの事を話し始めた。


身体がムズムズする。


また少し成長している。



でも今の あたしは、それどころじゃありません。



『記憶の中にいる黒髪の貴女を探し求め、関係ない女性達を攫っては、違うと分かり吐きそうな程に後悔し、落ち込む日々を過ごしていました』


人の姿になったラファエルの金色の目を覗き込むと、微かに紅みを帯びている事に気が付いた。


『苦しむ私を封印してくれた白虎には感謝しています。完全に封印できてはいなかったので、長い眠りには付けませんでしたが、普通の人間として黒虎の力の影響を受けずに生活できましたので』


ラファエルの熱い舌が、あたしの唇を舐める。


『ふふふっ』


『ビアンカ様?』


キョトン顔のラファエルの唇を あたしが舐め返す。


『あたしが人間だった時に大きな舌が唇を舐められて、ラファエルとキスしているみたいで、嬉しくてドキドキしたのを思い出したから、やり返してみた』


『私もキスしたかった。ですが虎の口では、人間の小さな唇を舐めるのが精一杯でした』


『して』


『ビアンカ』


『ラファエルとキスしたい』


吸い寄せられる様に、お互いが顔を寄せ合い、静かに唇を合わせた。


あたしは最愛を手に入れた。
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