黒虎の番

月夜の庭

文字の大きさ
24 / 29

番のキス

しおりを挟む
ゆっくり歩いて来る4本の足元から、青黒い炎が上がっていました。


『あれが、地獄の炎?見えなくはないけど、ちょっと大袈裟な気がする』


この外見だから、対面した人達は恐怖心も加わり、必要以上に恐がったのかも知れません。


あたしを見下ろしている紅い目が、段々と大きく見える。


黒虎の顔が近い。


まるで優しく笑っている気がして、この顔を知ってる気がした。


そうです。


あたしは、この虎を知ってる。


そう自覚すると、まるで心臓を掴まれたかのようにドクリと大きな音を立てて脈を打った。


『あ………会いたかった』


なんで忘れていたんだろう。


彼は、あの年老いた虎だ。


無言のまま黒虎は、あたしの額の石を舐めた。


すると全身に電流が流れたのでは?と錯覚を起こしそうな衝撃が走り抜けるのと同時に、何かがパキンと音を立てて割れた気がします。


「番を殺した罪が許された………私とビアンカの間にあった見えない壁が消えた」


聞き覚えのある声がする。


そしてポン!と音を立て、あたしは人の姿に変化した。


相変わらず全裸だけど、アンちゃんにキスされた時よりも成長した手が目に入った。


見下ろした身体は、育ち始めたであろう小ぶりと胸があった。


中学生くらいに成長していました。


それでも黒虎に比べたら短く小さな手を彼に向かって伸ばした。


『会いたかった。ずっと探していたの』


今なら分かる。


彼が私の運命なのだと肌で感じる。


ここで初めてグルルと声を出して唸り、後退し始めたので慌てて首に抱き着いた。


『愛してます………今も昔も』


彼の足から発せられる炎が纏まりついても気にせず体を擦り寄せた。


『『番』』


あたしの虎として解放された本能が彼を番だと感じ取っていた。


心の声が、彼の声と重なった。


それに彼の匂いを あたしは知ってる。


『ラファエル、貴方が黒虎だったのね』


『ビアンカ様』


『前世では気が付かなかったけど、ラファエルが
………あたしの番』


黒虎から、見慣れたラファエルの姿に変わると、着ていた神父服の上着を脱いで、あたしに着せると抱き上げて転移魔法を展開した。


あたしは抵抗なんてするはずも無く、ラファエルの首に腕を回し身を任せる。


魔法の光が消えるとボスンと音を立て、柔らかい所に寝かされ、押し倒された体制になっていた。


白い布からはラファエルの匂いがする。


ここはきっと、ラファエルが使っている拠点の部屋。


『私は前世で貴女を手に掛けて初めて、番だと知りました。そして番を殺した事実が、私を呪い狂わせた。吐きそうな程の後悔と、埋められない虚無感に苦しんでいました』


ベッドの上で覆いかぶさった体制で、額や鼻にキス落としながら、今までの事を話し始めた。


身体がムズムズする。


また少し成長している。



でも今の あたしは、それどころじゃありません。



『記憶の中にいる黒髪の貴女を探し求め、関係ない女性達を攫っては、違うと分かり吐きそうな程に後悔し、落ち込む日々を過ごしていました』


人の姿になったラファエルの金色の目を覗き込むと、微かに紅みを帯びている事に気が付いた。


『苦しむ私を封印してくれた白虎には感謝しています。完全に封印できてはいなかったので、長い眠りには付けませんでしたが、普通の人間として黒虎の力の影響を受けずに生活できましたので』


ラファエルの熱い舌が、あたしの唇を舐める。


『ふふふっ』


『ビアンカ様?』


キョトン顔のラファエルの唇を あたしが舐め返す。


『あたしが人間だった時に大きな舌が唇を舐められて、ラファエルとキスしているみたいで、嬉しくてドキドキしたのを思い出したから、やり返してみた』


『私もキスしたかった。ですが虎の口では、人間の小さな唇を舐めるのが精一杯でした』


『して』


『ビアンカ』


『ラファエルとキスしたい』


吸い寄せられる様に、お互いが顔を寄せ合い、静かに唇を合わせた。


あたしは最愛を手に入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...