黒虎の番

月夜の庭

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黒虎が姿を現す時

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四本の足元から青黒い炎が上がり、真っ黒い毛並みに銀色の虎柄。


確かに初めて見た人には、地獄の炎に見える気がする。


あたしを見下ろす目は紅く輝いている。


間違いなく彼が、パパンが封印したという黒虎だ。


なぜ、あたしが黒虎と対面してるかと言うと、今から数時間前の事でした。


食堂で食事を終えて、お会計の時に あたしが少しだけ、みんなから距離を置いて1人で外に出た時のことでした。


不意に視界が暗くなり、身動きが取れなくなる。


ビックリして声も出せずに固まっていると、自分が何かの袋に入れられて連れ去られた事に気が付いた。


必死に叫んでも口は動くのに声が出せない。


何か特殊加工がされている袋に入れられたのかも知れません。


袋から無理矢理に押し出された あたしは、テーブルらしき台上の小さなゲージに閉じ込められていました。


数本のロウソクの明かりで照らし出されたのは、窓もなく薄暗い石壁の部屋で、床には鎖で繋がれた動物や妖精の姿がありました。


みんな、声も出せずに震えている。


状況がよく分からないけど、相手は屑決定です。


慌てて転移魔法を展開しようとしても、何故か上手く魔法が使えない。


魔法が何かに邪魔されている感じがする。



「ははははっコイツ!やっぱり魔法が使えんだな。無駄無駄!!魔法封じの施された籠からは出られないさ!」



馬鹿にしたように笑うガラの悪い男に反論しようとて、あたしが声を出せないのも、魔法を封じられた為だと気が付く。



このままでは、逃げられないし助けも呼べない。



「お前は金持ちの貴族のペットとして売られるんだ。まさか元王妃のペットと誘拐して売り払ったら報酬を払う国王が居るとは驚きだよな!HAHAHAHAHA!」


詳しい説明………お疲れ。


コイツは口が軽いから出世できないタイプだな。


屑で雑魚認定してやる。


「逆恨みで売られる お前も可哀想にな」


イヤらしい顔でニヤニヤしながら、あたしを見下ろしている。


さて………どうしたものか?


このまま大人しくしていたら、パパンが迎えに来てくれそうな気もするけど、アンちゃんから離れて欲しくないから複雑な気持ちです。


隙をついてアンちゃんが襲われでもしたら、離れたパパンは地獄の説教TIME突入決定です。


だからといって勇者達が、あたしを見つけられる可能性が、どのくらいなのか予想できない。


ここは良い飼い主に買ってもらえる様に祈った方が無難かな?


むしろ聖獣の あたしを買い取っても、自己満足を満たすだけな気がする。


だって見せびらかしても、場合によっては聖獣を不当に捕縛する犯罪者決定だし。



あぁ………もう…魔法が解放されたら、即反撃するのに!


あたしを買う金持ちの貴族って言っていたけど、既に買い手が決まってる?


あまりに具体的なんだけど。


………………っていうか、この位の魔法封じなら、力技で突破できそうな気がしてきた。


やるだけやってみるか。


あたしは震えている妖精達に”少し離れろ”と身振り手振りで伝える。



そして静かに伏せをするように、お腹を付けて座り、額の石に魔力を集中させる。


魔力を少しづつ増やしながら、全身にめぐらせて徐々に外に放出していく。


全身の毛が逆立ち、毛穴が開き、額が熱く意識が飛びそうになる感じがするけど気にせずに魔力を増やし続ける。


血が滾り、沸騰する感覚がする。


もう少し。


まだ足りない。



あと、もう少しで打ち破れる!


『……ググッ………あ……』



ビキビキとゲージが音を立てて軋み始めると、少しだけ声を発せる様になる。


『ォマエ………』


後ちょっと!


『お前ら如きに、あたしは抑え込めない!』


バキッと大きな音を立ててゲージが弾け飛ぶ。


『パパンの………聖獣白虎の娘を舐めんな!!!』


増え過ぎた魔力が部屋の壁を傷付け、ニヤニヤしていた男を石の壁に弾き飛ばす。


『はぁ~っ……もうちょいで血管が切れるかと思った』


息が上がり気ダルさが襲い足元がふらついてしまうけど、我慢して立ち上がり囚われている妖精や動物達の鎖を風の魔法で、ぶった斬る。


吐き気がするほど疲れて座り込んでいると、天井からドーン!と大きな音が響き渡った。


『ん?爆音??あたしは、まだ何もしてないのに?』


物凄い揺れと共に、ドカン!と天井から扉に掛けて、大きな穴があいた。


砂煙が立ち上る、その先に大きな虎のシルエットが見えた。


『パパン♡』


駆け寄ろうとして、妙な違和感を覚える。


微かに見える口元から煙の様な白い息を吐き、影が消えず黒い身体に銀色の虎柄、その目は紅くに光っていました。


『…………あ……黒虎』


少しづつ黒虎が近付いて来る度に、背中がゾクゾクと毛穴が締まり、毛が逆立つ感じがして、逃げたいのに、身体が動かなかった。


妖精達が背中の羽根を動かし、黒虎が開けた穴から、動物達も連れて逃げ始めた。


黒虎は脇目も振らずに、あたしに向かって歩いて来る。


この紅い目が魔王と勘違いされたのだと実感していました。


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