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Episode.4
親友②
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それを見かねた受付さんが、なんとか融通を利かせてくれて美冬の病室へ。病室のドアを開けて真っ先に視界に入ってきたのは、ベッドの縁に腰かけてる美冬だった──。
「ちょ、なんで梓がボロボロなわけ~? ウケる~。てか大騒ぎしてるって看護師さん困ってたわ。ヤバすぎでしょアンタ」
「……み、ふゆ……生き……てる」
「はあ? なに言ってんの、勝手に殺すし~」
ゆっくり美冬に歩み寄って、安堵からか全身の力が抜けて骨が無くなっちゃったみたいにフニャッと美冬の足元へ座り込んだ。
「……っ、美冬……」
「ん?」
今まで何回も、何十回も、何百回も言ってきた。なのに、なんでこうなったの……?
うつ向いて、必死に声を絞り出した。
「……っ、いい加減にして。ねえ、いい加減にしてよ……っ。お願いっ、もうやめて……喧嘩なんて、もうしないで……お願いだから……っ、もう、全部……やめて……もう全部やめてよ!!」
「……ごめん、梓」
── 美冬はそれ以降、何回言っても辞めてくれなかった煙草もお酒も辞めて、喧嘩もしなくなった。
私はあの時、『もう二度、こんな怖くて苦しくて悲しい思いはしたくない』……そう思った。それは美冬を思ってというより、“自分が美冬を失って、辛い思いをするのが嫌”……という感情のほうが先行して、私は美冬を縛り付けた。
『全部やめて』と泣き叫んで美冬に縋ったあの時、美冬はどんな気持ちで私を見て、どんな思いで私に謝ったのかな。
・・・あの日、美冬は喧嘩をしていたわけではなかったと風の噂で聞いた。
絡まれていた女の人を助けて、美冬は一切手を出さなかったって……正直、美冬にしては珍しいと思った。自ら手を出すことは無いし、理不尽で理由も意味もない喧嘩は絶対にしないタイプではあったけど、やられたらやり返すタイプだったから。
そして、私はあることを思い出した。この事件が起こる数日前、私が美冬に言った言葉を──。
『煙草もお酒も喧嘩も美冬の自由ではあるし、個性だとも思い始めたよ、私。でも推奨はしないし、ぶっちゃけ辞めてほしい。せっかく同じ高校に合格したのに、ヤンチャがバレて美冬が退学とかになったらさ、私ツラいんだけど。そうなったら私も学校辞めちゃうかも~』
『あぁはいはい、分かった分かった。ったく、面倒くさい女だねえ。マジで~』
きっと美冬は、私の為に──。
私のために手を出さなかった美冬に私は、喧嘩をしたと決めつけて酷いことを言ってしまったんじゃないかって、ずっと後悔してる。あの日、背中に負った大きな傷は癒えずに残ってて、その傷を見るたび罪悪感に押し潰されそうになった。
謝らなきゃいけないのは、私のほうだったのに──。
「バイト代入ったから奢るわ~、タピオカ増し増しのやつ」
謝らなきゃ……今更だけど、遅すぎるけど、それでも……“謝らなきゃよかった”なんて、後悔することは絶対にない。私の歩みは自然と止まって、それに気づいた美冬も止まった。
「もぉ、なにー? タピオカだけじゃなくてたこ焼きも奢れって? がめつい女~。まあ別にいいよ~。結構バイト代入ったんだよねえ」
「……あのさ、美冬。あの時、美冬が怪我をした時のことっ」
「やめてくんない? そういうの」
「え?」
美冬の表情が真剣そのもので、思わず息を呑んだ。
「梓の為じゃない。あたしは自分の為に全てを辞めた。あの日から何となく気になってたけどさ、無駄に責任感じんのとか普通に迷惑だし鬱陶しい」
「……ごめん」
「ああ、ごめん。なんか違うわ」
ばつが悪そうな顔をして、髪をワシャワシャし始めた美冬。
「なんつーか、謝るとかじゃなくて普通褒めるとこじゃね?」
「……え?」
「さっさと褒めてくんない? ヘビスモ舐めんな、マジで」
「……え、あっ、うん! あの煙まみれだった美冬が煙をスパッと辞められたことに驚いたよ! すごいすごい! 本当にやればデキる女だよね、美冬って!」
「『煙まみれ』は余計だけど。あたし梓からのその言葉、何年も待ってたんすけどねー」
「ゴメンナサイ」
「やっぱ今日、梓の奢りねー。異論は認めん」
「よ、喜んで!」
美冬は私の肩を抱いて、これでもかってくらいベチベチ叩いてきた。ぶっちゃけ痛い。
「ねえ! 力加減バグってない!? 痛いってば!」
「あははっ~。ごめんごめ~ん」
「もぉ……」
── もっと早く、美冬に伝えればよかった。私がクヨクヨしてたせいで、美冬には悪いことしちゃったな。
「梓」
「ん?」
「ありがとう、あたしと友達になってくれて」
ニヒッと笑いながら、少し照れくさそうにしてる美冬。美冬と友達になってからもう何年も経っているけど……こんなことドストレートに言われたのは初めてだった。
その言葉、こっちのセリフだよ。
「……っ。美冬ぅぅ……大好きぃぃ!!」
「うわっ、泣くなよ。面倒くせえ女~」
「面倒くさいって言うなら泣かせないでよ! この不良娘が!」
「声でけぇっての」
「あ、ごめん」
クスクス笑い合って、私達の仲はより一層深いものになった……そう感じる。唯一無二の存在、私の“親友”。
「てかさ、最近どうなのー?」
「え? なにが?」
「お隣さーん」
「いや、どうもこうも……隣人を極めてる」
「なんだそれ」
ただただお裾分けをし合って、傘を貸して返されて……の繰り返し。別にどうのこうのっていうのは一切ない。特別な感情みたいなものもお互いに無いし、うん。
「隣人極めるのも結構楽しかったりするよ?」
「はぁぁ。マジでつまんないね~。雫さんには黙っててやるから、別にいいんじゃねーの? ソイツでも~」
「いやいや、何を言ってんの……美冬。あの掟……“禁断”を破ったらどうなるか。無理、絶対に無理! いいの!? 美冬は私がいなくなっても!」
「だぁから、バレなきゃいいじゃんって話~」
「バレた時が怖い! 鉄則の掟は絶対!」
「クソ真面目かよ」
それに、桐生さんとはそういうのじゃない。
「そもそも学生の相手なんてしないでしょ、桐生さん」
「さぁ~? まぁでも、あの風貌じゃあ女に困ることはまずないわな~。腐るほど寄って来んじゃね? 適当に喰い散らかしてんでしょ」
「……まあ、でしょうね」
・・・あまり想像はしたくないけど。
「ちょ、なんで梓がボロボロなわけ~? ウケる~。てか大騒ぎしてるって看護師さん困ってたわ。ヤバすぎでしょアンタ」
「……み、ふゆ……生き……てる」
「はあ? なに言ってんの、勝手に殺すし~」
ゆっくり美冬に歩み寄って、安堵からか全身の力が抜けて骨が無くなっちゃったみたいにフニャッと美冬の足元へ座り込んだ。
「……っ、美冬……」
「ん?」
今まで何回も、何十回も、何百回も言ってきた。なのに、なんでこうなったの……?
うつ向いて、必死に声を絞り出した。
「……っ、いい加減にして。ねえ、いい加減にしてよ……っ。お願いっ、もうやめて……喧嘩なんて、もうしないで……お願いだから……っ、もう、全部……やめて……もう全部やめてよ!!」
「……ごめん、梓」
── 美冬はそれ以降、何回言っても辞めてくれなかった煙草もお酒も辞めて、喧嘩もしなくなった。
私はあの時、『もう二度、こんな怖くて苦しくて悲しい思いはしたくない』……そう思った。それは美冬を思ってというより、“自分が美冬を失って、辛い思いをするのが嫌”……という感情のほうが先行して、私は美冬を縛り付けた。
『全部やめて』と泣き叫んで美冬に縋ったあの時、美冬はどんな気持ちで私を見て、どんな思いで私に謝ったのかな。
・・・あの日、美冬は喧嘩をしていたわけではなかったと風の噂で聞いた。
絡まれていた女の人を助けて、美冬は一切手を出さなかったって……正直、美冬にしては珍しいと思った。自ら手を出すことは無いし、理不尽で理由も意味もない喧嘩は絶対にしないタイプではあったけど、やられたらやり返すタイプだったから。
そして、私はあることを思い出した。この事件が起こる数日前、私が美冬に言った言葉を──。
『煙草もお酒も喧嘩も美冬の自由ではあるし、個性だとも思い始めたよ、私。でも推奨はしないし、ぶっちゃけ辞めてほしい。せっかく同じ高校に合格したのに、ヤンチャがバレて美冬が退学とかになったらさ、私ツラいんだけど。そうなったら私も学校辞めちゃうかも~』
『あぁはいはい、分かった分かった。ったく、面倒くさい女だねえ。マジで~』
きっと美冬は、私の為に──。
私のために手を出さなかった美冬に私は、喧嘩をしたと決めつけて酷いことを言ってしまったんじゃないかって、ずっと後悔してる。あの日、背中に負った大きな傷は癒えずに残ってて、その傷を見るたび罪悪感に押し潰されそうになった。
謝らなきゃいけないのは、私のほうだったのに──。
「バイト代入ったから奢るわ~、タピオカ増し増しのやつ」
謝らなきゃ……今更だけど、遅すぎるけど、それでも……“謝らなきゃよかった”なんて、後悔することは絶対にない。私の歩みは自然と止まって、それに気づいた美冬も止まった。
「もぉ、なにー? タピオカだけじゃなくてたこ焼きも奢れって? がめつい女~。まあ別にいいよ~。結構バイト代入ったんだよねえ」
「……あのさ、美冬。あの時、美冬が怪我をした時のことっ」
「やめてくんない? そういうの」
「え?」
美冬の表情が真剣そのもので、思わず息を呑んだ。
「梓の為じゃない。あたしは自分の為に全てを辞めた。あの日から何となく気になってたけどさ、無駄に責任感じんのとか普通に迷惑だし鬱陶しい」
「……ごめん」
「ああ、ごめん。なんか違うわ」
ばつが悪そうな顔をして、髪をワシャワシャし始めた美冬。
「なんつーか、謝るとかじゃなくて普通褒めるとこじゃね?」
「……え?」
「さっさと褒めてくんない? ヘビスモ舐めんな、マジで」
「……え、あっ、うん! あの煙まみれだった美冬が煙をスパッと辞められたことに驚いたよ! すごいすごい! 本当にやればデキる女だよね、美冬って!」
「『煙まみれ』は余計だけど。あたし梓からのその言葉、何年も待ってたんすけどねー」
「ゴメンナサイ」
「やっぱ今日、梓の奢りねー。異論は認めん」
「よ、喜んで!」
美冬は私の肩を抱いて、これでもかってくらいベチベチ叩いてきた。ぶっちゃけ痛い。
「ねえ! 力加減バグってない!? 痛いってば!」
「あははっ~。ごめんごめ~ん」
「もぉ……」
── もっと早く、美冬に伝えればよかった。私がクヨクヨしてたせいで、美冬には悪いことしちゃったな。
「梓」
「ん?」
「ありがとう、あたしと友達になってくれて」
ニヒッと笑いながら、少し照れくさそうにしてる美冬。美冬と友達になってからもう何年も経っているけど……こんなことドストレートに言われたのは初めてだった。
その言葉、こっちのセリフだよ。
「……っ。美冬ぅぅ……大好きぃぃ!!」
「うわっ、泣くなよ。面倒くせえ女~」
「面倒くさいって言うなら泣かせないでよ! この不良娘が!」
「声でけぇっての」
「あ、ごめん」
クスクス笑い合って、私達の仲はより一層深いものになった……そう感じる。唯一無二の存在、私の“親友”。
「てかさ、最近どうなのー?」
「え? なにが?」
「お隣さーん」
「いや、どうもこうも……隣人を極めてる」
「なんだそれ」
ただただお裾分けをし合って、傘を貸して返されて……の繰り返し。別にどうのこうのっていうのは一切ない。特別な感情みたいなものもお互いに無いし、うん。
「隣人極めるのも結構楽しかったりするよ?」
「はぁぁ。マジでつまんないね~。雫さんには黙っててやるから、別にいいんじゃねーの? ソイツでも~」
「いやいや、何を言ってんの……美冬。あの掟……“禁断”を破ったらどうなるか。無理、絶対に無理! いいの!? 美冬は私がいなくなっても!」
「だぁから、バレなきゃいいじゃんって話~」
「バレた時が怖い! 鉄則の掟は絶対!」
「クソ真面目かよ」
それに、桐生さんとはそういうのじゃない。
「そもそも学生の相手なんてしないでしょ、桐生さん」
「さぁ~? まぁでも、あの風貌じゃあ女に困ることはまずないわな~。腐るほど寄って来んじゃね? 適当に喰い散らかしてんでしょ」
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