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「ちゃんちゃら」26話
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「ちゃんちゃら」26話
大地は早朝、リビングのテーブルの上に置いた紙と睨めっこしていた。紙に書かれたたくさんの「大地」と「海斗」の文字が分裂したり、解体してくっつけたりとごちゃごちゃしていた。
ー「もし、君も何かしたいと思ったら、海斗くんが落ち着いた頃に話し合ってみたら?子どもの名前を決めて塔婆を建立するのもありだしね。」
ずっと南雲先生の言葉が頭を反芻する。
ー子どもの名前か。
大地はまたジッと紙と睨めっこする。ここで大原に海斗の妊娠を伝えてから、ずっと考え続けていることがある。
それは、大地にとって、海斗と子どもになにをしてあげられるのか、だ。
本来なら海斗と一緒に考えて決めることを自分は出来ていない。子どものことも焦りと後悔ばかり先立って全く悼むということを考えていなかった。
名前という概念も今更になって考え始める。本来なら、今から約一年程でここで海斗と二人で悪戦苦闘しながら育児をしていたかもしれない。そして、ひょっとしたら、二人で決めた名前で子どもを呼んでいたかもしれない、という想像が拭いきれなかった。
大地はようやく自分のした事と向き合い始めていた。
考えれば考える程、大地の目は虚になっていく。
「あれ。髪、暗くしたんだな。」
「ああ。」
「なに書いてるんだ?」
自分の首にサラサラしたものが当たる。
「あー、これは子どもの」
そのくすぐったさにようやく意識がハッキリした。
「え。子どもって」と海斗が言い終わる前に大地は紙を裏返した。振り向くと寝起きの海斗が目を丸くしてこちらを見ていた。
海斗の方も徐々に目が醒めたのか、顔色が悪くなってきていたので、慌てて話題を逸らした。
「あー!俺、今日出掛けるけど、大原がいるから、安心しろよ!」
「出掛ける?」
海斗の意識が大地の外出の方にいったのを大地は心底安心した。
「大学に行くのか?」
大地は少し言うのを憚ったが、いま子どもの名前の話をするよりマシだと思い、説明した。
「実は、おれ大学辞めて親父の会社で働くことにしたんだよ。」
「え。」
海斗は口を半開きにして固まっている。すると、掃除を終えた大原がリビングのドアを開け、その場で固まっている。どうやら、ドアを開けるなり番の二人が対峙しているのを見て、挨拶するのをやめたようである。
「辞めるって。じゃあ、自分の会社立ち上げるのは?」と海斗は不安そうに大地に訊ねる。
「それは、親父の会社で経験積んでからにするよ。」とカラッと大地は笑う。
だが、大地の笑顔を見ても海斗は浮かない顔をしていた。何か言いたげだが、グッと堪えているようだった。
本当は海斗に何を考えているのか言って欲しいし聞きたいが、もう会社に向かわなければならない時間だった。大地はいかに自分の父親が厳格で時間にうるさいかを知っていた。
全く気は進まなかったが、大原に海斗を頼むよう目配せをして大地は玄関のドアを開けることしか出来なかった。
大地は早朝、リビングのテーブルの上に置いた紙と睨めっこしていた。紙に書かれたたくさんの「大地」と「海斗」の文字が分裂したり、解体してくっつけたりとごちゃごちゃしていた。
ー「もし、君も何かしたいと思ったら、海斗くんが落ち着いた頃に話し合ってみたら?子どもの名前を決めて塔婆を建立するのもありだしね。」
ずっと南雲先生の言葉が頭を反芻する。
ー子どもの名前か。
大地はまたジッと紙と睨めっこする。ここで大原に海斗の妊娠を伝えてから、ずっと考え続けていることがある。
それは、大地にとって、海斗と子どもになにをしてあげられるのか、だ。
本来なら海斗と一緒に考えて決めることを自分は出来ていない。子どものことも焦りと後悔ばかり先立って全く悼むということを考えていなかった。
名前という概念も今更になって考え始める。本来なら、今から約一年程でここで海斗と二人で悪戦苦闘しながら育児をしていたかもしれない。そして、ひょっとしたら、二人で決めた名前で子どもを呼んでいたかもしれない、という想像が拭いきれなかった。
大地はようやく自分のした事と向き合い始めていた。
考えれば考える程、大地の目は虚になっていく。
「あれ。髪、暗くしたんだな。」
「ああ。」
「なに書いてるんだ?」
自分の首にサラサラしたものが当たる。
「あー、これは子どもの」
そのくすぐったさにようやく意識がハッキリした。
「え。子どもって」と海斗が言い終わる前に大地は紙を裏返した。振り向くと寝起きの海斗が目を丸くしてこちらを見ていた。
海斗の方も徐々に目が醒めたのか、顔色が悪くなってきていたので、慌てて話題を逸らした。
「あー!俺、今日出掛けるけど、大原がいるから、安心しろよ!」
「出掛ける?」
海斗の意識が大地の外出の方にいったのを大地は心底安心した。
「大学に行くのか?」
大地は少し言うのを憚ったが、いま子どもの名前の話をするよりマシだと思い、説明した。
「実は、おれ大学辞めて親父の会社で働くことにしたんだよ。」
「え。」
海斗は口を半開きにして固まっている。すると、掃除を終えた大原がリビングのドアを開け、その場で固まっている。どうやら、ドアを開けるなり番の二人が対峙しているのを見て、挨拶するのをやめたようである。
「辞めるって。じゃあ、自分の会社立ち上げるのは?」と海斗は不安そうに大地に訊ねる。
「それは、親父の会社で経験積んでからにするよ。」とカラッと大地は笑う。
だが、大地の笑顔を見ても海斗は浮かない顔をしていた。何か言いたげだが、グッと堪えているようだった。
本当は海斗に何を考えているのか言って欲しいし聞きたいが、もう会社に向かわなければならない時間だった。大地はいかに自分の父親が厳格で時間にうるさいかを知っていた。
全く気は進まなかったが、大原に海斗を頼むよう目配せをして大地は玄関のドアを開けることしか出来なかった。
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