ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」33話

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「ちゃんちゃら」33話


 リビングに戻ると大知たちが飲み物を選んでいるところだった。
「僕コーラがいい。」
「かしこまりました。」
 大原がコップにコーラを注ぐ。炭酸の泡が弾け、水面を飛び回っている。それを眺めていた大知だったが、海斗が来るのを見ると、嬉しそうにこちらへ近づいてくるのを大地はよく思わなかった。

 これはただの大地の勘だが、大知は恐らくαだろう。まだ第二性検査をするには数年早いが、この子どもから感じるカリスマ性やどこか惹きつけられる魅力はαのそれだった。
 だからこそ、海斗に近づく大知は自然とΩに引き寄せられるαの動きのように見えた。自分のことは棚に上げ、大地は大知に対して危機感を勝手に覚えていた。
ーその内、海斗と結婚したいなんて言い始めたらどうするんだ!?海斗と一緒に暮らすなんて言い始めたら…
 大地はすぐにこの浅ましい考えを頭から追い出した。そもそも海斗は大地の番ではあるが、恋人ではない。海斗が仮に大知のことを気に入ったら大地は大人しく譲るしかないのだ。

「なにお皿と睨めっこしてるんだ?別のピザが良かったか?」
 大地はハッとして顔を上げた。海斗が心配そうにこちらを眺めている。
 そんなことを悶々と考えている間にピザは配膳し終わり、みんな食事前の挨拶をしているところだった。
「大地お兄ちゃんは基本なんでも食べるよ。」
「なんで大知が答えるんだ。」
 大地は一瞬ムッとしたが、すぐに平常心を装い、ナイフとフォークを持った。
「海斗お兄ちゃん、ピザは食べれるんだね。」
「具合が悪かっただけで、ハンバーガーも好きだよ。」
 大地は、海斗が美味しそうにピザを口に運ぶ姿を見て心の底から安心した。
ーそうだ、なに考えてるんだ、俺は。くだらないことを考えてないで、まずは海斗のことをちゃんと考えるべきだ。
 海斗が食事を楽しんでいる様子は久しぶりだった。恐らく妊娠中も悪阻が酷くてまともな食事も摂っていなかったのだろう。一先ず栄養を摂れるようになったことに大地は安心感を覚えた。
 ふと顔を上げると雫と目が合った。雫はこちらに目を眇める仕草をした。きっとこの人がいなければ海斗が食事をできるようになるまで、もう暫く時間が掛かっただろうと思う。初めて大地は雫に感謝した。大地は海斗たちの気づかないところで雫に会釈した。彼と身内のようなやり取りをしたのは、これが初めてだった。

 大地は、いつもだったら大原が用意した食事を食べるのだが、こんなに大勢で食事を摂るのは、会社の付き合い以外では久しぶりだった。どこか自分が家族の一員になったような、そんな気持ちが胸を温めた。隣を見ると、雫の話を興味深そうに聞いている海斗がいた。ずっと口角が上がっていて機嫌が良いのもこちらにも伝わってくる。
 海斗も同じことを考えてくれているだろうか。
 大地は海斗が少しでも金城家に居心地の良さを感じてくれることを祈っていた。


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