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「ちゃんちゃら」番外編16話
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「ちゃんちゃら」番外編16話
「君はどうやってここに来たの?一人?」
固まっている空島の横で鳥舟は少し腰を落として聞く。翔は元気に手を挙げて答える。
「んーとね、ママがね、もう一人のパパのこと調べててね。もう一人のパパが野球やってたって聞いたから、僕も一緒にやりたいって思って」
「それで、ここまで?場所もママから聞いたの?」
翔は首を横に振り、鉛筆を持つ動作をした。
「ママが家の場所、メモしてたののぞいたの!」
「やるなぁ。君は探偵に向いてるかもな。」
「呑気なこと言ってる場合っすか。」
空島はようやく乾いた口で声を出したが、いまいち迫力は出なかった。
鳥舟はこちらに身を寄せ、小声で耳打ちをする。
「どうやらこの子、一人で君の家周辺を彷徨いてたみたいだね、君と野球しに。」
空島は目の前で既にボールを投げようと構えている翔が目に入る。
「いや、どうするも何も、子どもが勝手にこっちに来たら周りがなんて言うか。」
「なんで?」
前を見ると翔は首を傾げている。
「もう一人のパパのところに来たんだから、パパたちにはそう言えばいいよ!」
翔の言っていることは正しかった。年齢の割には常識的だった。しかし、彼は知らないのだ。いかに木待家に常識が通じないのかを。
「どうする?空島くんはどうしたい?」
「いや、だって放っておけないでしょ。早くどうにかして木待家に連れて行かないと。いや、俺と一緒にいるところ見られない方がいいか。ええと」
「違うよ。」
鳥舟はすっかり慌てている空島を制止させ、親指で翔を指差す。
「翔くんとキャッチボールしたいか、だよ。」
空島は唖然とした。
「本気で言ってるんすか。木待家に見つかったら何言われるか分かんないっすよ。」
「いいじゃないか。ちゃんちゃらおかしい状況でも、自由に決める権利が君にあるよ。それに」
鳥舟は徐にこちらへ手を差し出してきた。空島はその意味を理解できず、固まっていると、鳥舟は悪戯を仕掛ける子どものような表情をした。
「スマホ、貸して。」
「え。あんた、そんな束縛するタイプだったんすか。やめてくださいよ、こんな時に、子供のいる前で」
「違うよ。」とあっさり鳥舟ははにかんでいる空島の話をぶった斬る。
「僕にいい考えがあるから、空島くんは翔くんと好きなように接しなよ。」
そう言うと、鳥舟はロックが解除された空島のスマホを手に河川敷の端の方へゆっくり歩いて行ってしまった。
自分の子どもを急に一人で対応しなければならなくなり、空島は焦る。しかし、翔はそんなこと知った事ではないと言わんばかりにグローブを手に嵌めて見せびらかす。よく分からない自信満々のポーズに思わず空島は吹き出すように笑った。
「それ、なんのポーズっすか?」
「ちゃんとグローブはめれるようになったよ、のポーズ」
確かに子供用と言えども、グローブをしっかり扱えるようになるまでは自分も大変だったな、と空島は思いを巡らせた。
「パパにもう一人のパパのこと聞いてもね、教えてくれなかったから、パパの部屋に入って、引き出し探したの。そしたら写真があって、もう一人のパパがボール投げてたの。だから、僕もやってみたくなったんだ。」
この破天荒な性格は果たしてどっちに似たのだろう、と思いながらも翔に優しくボールを投げる。翔は嬉しそうに大の字になってボールを掴もうとする。しかし、さっきの鳥舟と同様ボールは地面に弾んでしまった。
「もう一回!!」
かなり意気込んでいる翔を見て、空島は自然と笑みが溢れていた。今の空島には、翔に対しての恐怖心はもうどこにもなかった。二人は夢中になって一緒にキャッチボールをした。昇っていた日は彼らを覗き込むように少しずつ傾いていった。
翔の息が上がってきていたので、何やら誰かと通話している鳥舟を他所に二人でベンチに座って休憩することにした。翔は汗を拭きながらボールを弄んでいる。
「ねぇ、ソラジマパパはポジション何?」
「ピッチャーっす。」
「あー、いいよねー、ピッチャー」
まるで経験者かのような発言に笑いを堪えながら翔の話に耳を傾ける。
「僕ね。将来、野球選手になるからさ。困ってるんだよね。」
どうやら、翔の頭の中では既に野球選手になることが勝手に約束されているようだ。
「じいじとばあばがさ。家のこと継ぐから勉強しなさいって言うんだよね。僕、野球選手になるのに。」
どうやら木待家は事業がうまく行ってすっかり図に乗っているようだ。
空島は夕暮れになった空を見上げる。まだ春の陽気を含んだ風が伸びてきた彼の髪を優しく撫でた。
「いいんじゃないすか?自由にやればいいっすよ。」
「いいの?」
空島は「うん。」と頷く。
「俺も好きなように、自由に生きていくんで、翔も自由に生きれば良いっす。」
翔は初めは呆然とした目をしていたが、やがて爛々と輝き出し、力強く頷いた。
「君はどうやってここに来たの?一人?」
固まっている空島の横で鳥舟は少し腰を落として聞く。翔は元気に手を挙げて答える。
「んーとね、ママがね、もう一人のパパのこと調べててね。もう一人のパパが野球やってたって聞いたから、僕も一緒にやりたいって思って」
「それで、ここまで?場所もママから聞いたの?」
翔は首を横に振り、鉛筆を持つ動作をした。
「ママが家の場所、メモしてたののぞいたの!」
「やるなぁ。君は探偵に向いてるかもな。」
「呑気なこと言ってる場合っすか。」
空島はようやく乾いた口で声を出したが、いまいち迫力は出なかった。
鳥舟はこちらに身を寄せ、小声で耳打ちをする。
「どうやらこの子、一人で君の家周辺を彷徨いてたみたいだね、君と野球しに。」
空島は目の前で既にボールを投げようと構えている翔が目に入る。
「いや、どうするも何も、子どもが勝手にこっちに来たら周りがなんて言うか。」
「なんで?」
前を見ると翔は首を傾げている。
「もう一人のパパのところに来たんだから、パパたちにはそう言えばいいよ!」
翔の言っていることは正しかった。年齢の割には常識的だった。しかし、彼は知らないのだ。いかに木待家に常識が通じないのかを。
「どうする?空島くんはどうしたい?」
「いや、だって放っておけないでしょ。早くどうにかして木待家に連れて行かないと。いや、俺と一緒にいるところ見られない方がいいか。ええと」
「違うよ。」
鳥舟はすっかり慌てている空島を制止させ、親指で翔を指差す。
「翔くんとキャッチボールしたいか、だよ。」
空島は唖然とした。
「本気で言ってるんすか。木待家に見つかったら何言われるか分かんないっすよ。」
「いいじゃないか。ちゃんちゃらおかしい状況でも、自由に決める権利が君にあるよ。それに」
鳥舟は徐にこちらへ手を差し出してきた。空島はその意味を理解できず、固まっていると、鳥舟は悪戯を仕掛ける子どものような表情をした。
「スマホ、貸して。」
「え。あんた、そんな束縛するタイプだったんすか。やめてくださいよ、こんな時に、子供のいる前で」
「違うよ。」とあっさり鳥舟ははにかんでいる空島の話をぶった斬る。
「僕にいい考えがあるから、空島くんは翔くんと好きなように接しなよ。」
そう言うと、鳥舟はロックが解除された空島のスマホを手に河川敷の端の方へゆっくり歩いて行ってしまった。
自分の子どもを急に一人で対応しなければならなくなり、空島は焦る。しかし、翔はそんなこと知った事ではないと言わんばかりにグローブを手に嵌めて見せびらかす。よく分からない自信満々のポーズに思わず空島は吹き出すように笑った。
「それ、なんのポーズっすか?」
「ちゃんとグローブはめれるようになったよ、のポーズ」
確かに子供用と言えども、グローブをしっかり扱えるようになるまでは自分も大変だったな、と空島は思いを巡らせた。
「パパにもう一人のパパのこと聞いてもね、教えてくれなかったから、パパの部屋に入って、引き出し探したの。そしたら写真があって、もう一人のパパがボール投げてたの。だから、僕もやってみたくなったんだ。」
この破天荒な性格は果たしてどっちに似たのだろう、と思いながらも翔に優しくボールを投げる。翔は嬉しそうに大の字になってボールを掴もうとする。しかし、さっきの鳥舟と同様ボールは地面に弾んでしまった。
「もう一回!!」
かなり意気込んでいる翔を見て、空島は自然と笑みが溢れていた。今の空島には、翔に対しての恐怖心はもうどこにもなかった。二人は夢中になって一緒にキャッチボールをした。昇っていた日は彼らを覗き込むように少しずつ傾いていった。
翔の息が上がってきていたので、何やら誰かと通話している鳥舟を他所に二人でベンチに座って休憩することにした。翔は汗を拭きながらボールを弄んでいる。
「ねぇ、ソラジマパパはポジション何?」
「ピッチャーっす。」
「あー、いいよねー、ピッチャー」
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どうやら、翔の頭の中では既に野球選手になることが勝手に約束されているようだ。
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どうやら木待家は事業がうまく行ってすっかり図に乗っているようだ。
空島は夕暮れになった空を見上げる。まだ春の陽気を含んだ風が伸びてきた彼の髪を優しく撫でた。
「いいんじゃないすか?自由にやればいいっすよ。」
「いいの?」
空島は「うん。」と頷く。
「俺も好きなように、自由に生きていくんで、翔も自由に生きれば良いっす。」
翔は初めは呆然とした目をしていたが、やがて爛々と輝き出し、力強く頷いた。
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