ゼロから千まで

三旨加泉

文字の大きさ
32 / 51

「ゼロから千まで」32話

しおりを挟む
「ゼロから千まで」32話


「れいちゃんは、うちが守るからね!」
 これは永遠千歳の口癖だった。いつも霧崎零一は千歳の後ろをついて回っていた。それは、まるで親鳥についていく小鳥のようであった。それくらい永遠千歳は零一にとって安心感があり、どの身内よりも身内のような存在だった。
 小太りのガキ大将に目をつけられた時も自分の手を引っ張ってくれた。泣き虫だと周りに揶揄われた時も千歳だけは「そんなことはない」と言ってくれた。当時、小学生だった零一にとって、千歳は全てだった。
 しかし、そんな零一に突然の別れが訪れた。両親の他界だった。あの日は千歳と一緒に秘密基地に行って、いつも通り勇者ごっこをして遊んでいた。二人で遊んで夕日を背に帰り道を歩いていると、千歳の祖母が飛んでくるなり、零一の腕を引っ張って家まで連れて行った。千歳も零一も何が何だか分からずポカンと口を開けていると、祖母は「れいちゃん。落ち着いて聞いてな。」とその時に両親の事故の話を聞かされた。
 初めは何を言われてるのか理解できなかったが、両親の葬式で喪服を着た親戚たちが憐れんだ目をして自分を見てきた時に、あぁ、両親はもういないのだな、と悟った。その日、千歳と祖父母も葬式に参列していた。子どもにとって長々しいお経を聴くのは退屈で、葬式が終わって火葬場に行くまでの空き時間で千歳と二人で遊ぶことにした。この時、既に親戚の間で叔父の家に行くことが決まっていた。千歳とはもうお別れになるかもしれないという陰鬱な気分が嫌でも自分に覆い被さってくる。両親がいなくなって、支えでもあった千歳まで自分の元からいなくなったらと思うと気が気でなかった。

「れいちゃん?」
 千歳が零一の顔を覗き込んでくる。突然、千歳の顔が目の前に来たので驚いて仰反ると、自分の瞳から何かが溢れた。溢れたものを指でそっと触れた際にやっと自分自身が泣いていることに零一は気がついた。その瞬間、プツリと糸が切れたかのように零一は泣きじゃくった。急に隣を歩いていた幼馴染が泣き出したので千歳は目を丸くしていた。
 暫く千歳は零一が泣いている様子を眺めていたが、突然両手で零一の頬を挟むように掴んだ。何の前触れもない行動に零一の涙は止まった。その様子を見て千歳の口角が上がった。

「大丈夫!れいちゃんに何かあったら、うちが守るからね!」

 この言葉に零一は救われた。千歳と離れるのがあんなに嫌だと思っていたが、大人しく零一は叔父の家に引っ越した。
 しかし、新しい家族である叔父たちとの関係性は仲が良いとも悪いとも言えず、特に深い絆も育む事もなかった。悪い人たちでは無いが、どこか余所余所しく、ただの義務で零一と過ごしているような、そんな雰囲気があったからだ。子どもながら零一はそんな親戚たちの様子を感じ取り、次第に自分から距離を取るようになった。

 零一にとって、そのつまらない日常は、千歳と共に過ごした、あの宝箱に仕舞うような、そんな日々をどこか遠い過去にするには十分なものであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ホストと女医は診察室で

星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。

本命は君♡

ラティ
恋愛
主人公の琴葉。幼なじみの駿太がサークルに入っていることを知り、自分も入ることにする。そこで出会ったチャラい先輩の雅空先輩と関わるうちに、なんだか執着されて……

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

蛇の噛み痕

ラティ
恋愛
ホストへ行かないかと、誘われた佳代は、しぶしぶながらもついていくことに。そこであった黒金ショウは、美形な男性だった。 会ううちに、どんどん仲良くなっていく。けれど、なんだか、黒金ショウの様子がおかしい……? ホスト×女子大学生の、お話。 他サイトにも掲載中。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

お人形令嬢の私はヤンデレ義兄から逃げられない

白黒
恋愛
お人形のように綺麗だと言われるアリスはある日義兄ができる。 義兄のレイモンドは幼い頃よりのトラウマで次第に少し歪んだ愛情をアリスに向けるようになる。 義兄の溺愛に少し悩むアリス…。 二人の行き着く先は…!?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...