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部長と副部長
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切り替わってから初のクラブ活動の日が来た。
顧問は美術の先生で特に龍一には害のない佐野、この教師とはイラストクラブでずっと一緒なのでそこそこ気が知れている。クラブ活動と言っても学校祭に作品を展示する程度のことしかしないので、佐野も自分の書類製作をしたり、居眠りする時間となっているのだ、まぁクラブ活動自体遊び時間の延長のようなものだからお互い様だろう、このイラストクラブ、当時は四天王と呼ばれる絵が上手いと認められた者が在籍していたが、今期はその四天王は龍一のみとなっていた。
毎度の事だが、自分は絵が上手いと思い込んだもの、周りにちやほやされたものが、夢と希望を持ってやってくる。しかし四天王の段違いのレベルの違いに己を知り、次期は来なくなってしまうのだ、それもそのはず、四天王は市内で行われるコンテストで金賞銀賞を毎回総なめにし、学校自体の格を上げる事に貢献しているのだ、取り巻きに『上手い上手い~』と言われているレベルでは全く通用しない。そういう意味ではイラストクラブの格を4人で守っていたと言っても良い。
いつもの席に座る龍一、それは教室の掃除用具の前、要するに教室の窓側の角、後ろの隅っこである。絵なんか描く気はない龍一には退屈な時間の始まりだ、左手で頬杖をついて左側の窓の外を見つめる。天気が良いが上空の風が強いらしく、雲の流れが速かった、その下の層の雲はゆっくりなので、疑似3Dのように見えて、あたかも自分が移動しているように感じ、ふわふわと浮遊感を感じた、そうなると瞼が重くなり、ポカポカとした心地よい暖かさが眠りへと誘うのだった。
『桜坂くん!はっはっはっはっは』
『うるさっ…』そう感じたものの、寝そうなところだったので助かったのも正直な感想だった龍一。
『吉田(きった)くん…だっけ…』
『きったでいいよ、だから桜坂君も桜坂でいい?』
『あ、ああ』
『あっはっはっはっは』
『その、わはは笑い何とかならんの?』
『ならないっ!あっはっはっはっは』
龍一もつられて笑っていたが、自分では笑っている事に気づかない龍一だった。
『よぉしみんな、イラストクラブへようこそぉ~と言うわけで、今期の部長と副部長を決めてくれぇ~、今日はそれで終わりだなぁ~』
『決めてくれって…』
20人の生徒が一気にザワつく…そりゃそうだ、佐野はもう椅子に座って足組んで腕組んで目を閉じている、芸術家活動もしている先生なので、クラブ活動なんてものに注ぎ込むチカラはこんなものなのかもしれない。
『桜坂君を推薦します!あっはっはっはっは』
突然ぶっ放してきた吉田の発言に龍一はゾッとした。ビックリしたのではなく恐怖を感じたのだ、それもそのはず、委員長とか部長とか、人の上に立ったり人をまとめるなんて役職はやったことが無いし、言ってしまえばそういう面倒はごめんだった、もっとぶっちゃけると面倒くさかった。一人でいるのが性に合っている…それが本音と言ったところだ。しかし止めなくてはこの空気は異議なしの空気だと感じ龍一はとっさに立ち上がって声をあげた。
『きった君が良いと思います!』
焦った龍一は断るのではなく、対抗馬を指名してしまった。
『じゃ、多数決だね、あっはっはっは、負けた方がふくぶっちょわっはっはっはっはっは、ふくぶっちょっちょってわっはっはっは』
とにかくよく笑う吉田を見ていると、龍一の荒んだ気持ちが少しだけ軽くなる気がした、そして吉田を見ている自分が笑っている事に気が付き、自分はまだ笑えるんだと再認識するのだった。
『じゃぁ推薦された順番で、部長が桜坂で副部長が吉田でぇ決まりっハイ拍手ぅ』
18人の拍手が鳴り響いた。
不思議と悪い気はしなかった龍一だが、一応照れ隠しで『なんでだよ!』とちょっぴり怒って見せると、吉田が龍一を抱き寄せるように引き寄せ、肩を組んで右手でピースを前後に出しまくり、あはははと笑った。
『それじゃぁ2人に挨拶をしてもらぉうかなぁ、まずは桜坂』
めんどくさそうに前に出ると、自ずと言葉がすらすらと出て来た。
『絵を描く理由は人それぞれあると思います、人気者になりたいから流行のアニメの絵を描くのも良いですし、好きな漫画のキャラクターを描くのも良いと思います、ただ、褒められてちやほやされて、勉強する事、学ぶことを忘れないで欲しい、これでいいんだ自分の絵は、そう思った時点で終わりです、自分に自分で限界を作らないで下さい、満足しないで下さい、この意味は何百枚、何千枚と描けばわかると思います。そして楽しむことを忘れないで下さい、来るのが楽しみになるクラブになるよう願っています。』
自分でも驚くほどまともな話をした龍一、それは首を傾げている自分が一番感じているだろう、なんだかむず痒かった、恐らく部長になった瞬間に背筋が伸びたのだ、暗示にかかりやすい龍一らしい言動だ。
『えっとー…』
吉田の挨拶が始まった。
『私は、部長の桜坂君の描く絵が大好きで、いつか話をしたい、いつか同じクラブに入りたいと常に思い続け、随分と時間が経ってしまいました。でもやっと同じクラブになったので残り少ない時間ではありますが、部長と共に楽しく絵を描けたらなと思っています、わははははは、よろしくお願い致しますっうわっははははは』
共に楽しく絵を…それを聞いて目が覚めた龍一。
『描く事をやめたのに、イラストクラブ?部長?何をしてるんだ俺は』
『え?やめたって?だめだめ何言ってるのわっはははは、ささ、時間あるからこの紙に何か描こうよははははは』
龍一の独り言が聞こえた吉田の猛攻撃に圧倒される龍一。
『じゃぁ動物クイズ!左手で描くので何の動物か当てようよ、はっはっは、いい?』
龍一の返事を待たずに吉田が左手でグネグネと描き出す。
いつしかそれを見守る龍一も真剣になっていた。
『いぬ!』『ブブー』『ぞう!』『ブブー』『ネコ?』『ブブー』
『わかんねぇよなんだよそれ』
『セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシでした!わっはっはっは』
『虫じゃねーかよ!!!!動物っつたろーが!』
『ハイ桜坂の番!』
『ちっ…くっそ…見てろよ』
『うま!左手なのになんでそんなに上手いの?』
『忘れてた、もともと俺左利きだったんだわ、どうだ?わからねーだろ』
『ニューギニアヒメテングフルーツコウモリ!うわっはっは』
『なんでわかるんだよ!!!!!!』
『じゃぁこれは?』
『アブラムシを同じじゃねーかよ、なんだよそれ』
『プエルトリコヒメエメラルドハチドリでした!うはっはっは』
『かせ!これわかるか?』
『ゴールディーリバーレインボーフィッシュでしょ?うわっはっは』
『当たり!』
『なんで全部長い名前なんだよ!あははははは』
『しかもなんで2人とも知ってるんだよ!うわっははははははは』
『はぁ~吉田、お前めっちゃ面白いな』
『桜坂のつっこみもさすがだわ、安心感あるよははっ、あそうだ、今度うちに来ない?見せたいものいっぱいあるんだよね、わっはははは』
『わかった、断っても毎日言ってきそうだからね』
『わっはははははは!正解!』
すっかり吉田のペースにはまってしまった龍一だった。
独りぼっちで過ごす日々が変わろうとしている…そんな気もした。
顧問は美術の先生で特に龍一には害のない佐野、この教師とはイラストクラブでずっと一緒なのでそこそこ気が知れている。クラブ活動と言っても学校祭に作品を展示する程度のことしかしないので、佐野も自分の書類製作をしたり、居眠りする時間となっているのだ、まぁクラブ活動自体遊び時間の延長のようなものだからお互い様だろう、このイラストクラブ、当時は四天王と呼ばれる絵が上手いと認められた者が在籍していたが、今期はその四天王は龍一のみとなっていた。
毎度の事だが、自分は絵が上手いと思い込んだもの、周りにちやほやされたものが、夢と希望を持ってやってくる。しかし四天王の段違いのレベルの違いに己を知り、次期は来なくなってしまうのだ、それもそのはず、四天王は市内で行われるコンテストで金賞銀賞を毎回総なめにし、学校自体の格を上げる事に貢献しているのだ、取り巻きに『上手い上手い~』と言われているレベルでは全く通用しない。そういう意味ではイラストクラブの格を4人で守っていたと言っても良い。
いつもの席に座る龍一、それは教室の掃除用具の前、要するに教室の窓側の角、後ろの隅っこである。絵なんか描く気はない龍一には退屈な時間の始まりだ、左手で頬杖をついて左側の窓の外を見つめる。天気が良いが上空の風が強いらしく、雲の流れが速かった、その下の層の雲はゆっくりなので、疑似3Dのように見えて、あたかも自分が移動しているように感じ、ふわふわと浮遊感を感じた、そうなると瞼が重くなり、ポカポカとした心地よい暖かさが眠りへと誘うのだった。
『桜坂くん!はっはっはっはっは』
『うるさっ…』そう感じたものの、寝そうなところだったので助かったのも正直な感想だった龍一。
『吉田(きった)くん…だっけ…』
『きったでいいよ、だから桜坂君も桜坂でいい?』
『あ、ああ』
『あっはっはっはっは』
『その、わはは笑い何とかならんの?』
『ならないっ!あっはっはっはっは』
龍一もつられて笑っていたが、自分では笑っている事に気づかない龍一だった。
『よぉしみんな、イラストクラブへようこそぉ~と言うわけで、今期の部長と副部長を決めてくれぇ~、今日はそれで終わりだなぁ~』
『決めてくれって…』
20人の生徒が一気にザワつく…そりゃそうだ、佐野はもう椅子に座って足組んで腕組んで目を閉じている、芸術家活動もしている先生なので、クラブ活動なんてものに注ぎ込むチカラはこんなものなのかもしれない。
『桜坂君を推薦します!あっはっはっはっは』
突然ぶっ放してきた吉田の発言に龍一はゾッとした。ビックリしたのではなく恐怖を感じたのだ、それもそのはず、委員長とか部長とか、人の上に立ったり人をまとめるなんて役職はやったことが無いし、言ってしまえばそういう面倒はごめんだった、もっとぶっちゃけると面倒くさかった。一人でいるのが性に合っている…それが本音と言ったところだ。しかし止めなくてはこの空気は異議なしの空気だと感じ龍一はとっさに立ち上がって声をあげた。
『きった君が良いと思います!』
焦った龍一は断るのではなく、対抗馬を指名してしまった。
『じゃ、多数決だね、あっはっはっは、負けた方がふくぶっちょわっはっはっはっはっは、ふくぶっちょっちょってわっはっはっは』
とにかくよく笑う吉田を見ていると、龍一の荒んだ気持ちが少しだけ軽くなる気がした、そして吉田を見ている自分が笑っている事に気が付き、自分はまだ笑えるんだと再認識するのだった。
『じゃぁ推薦された順番で、部長が桜坂で副部長が吉田でぇ決まりっハイ拍手ぅ』
18人の拍手が鳴り響いた。
不思議と悪い気はしなかった龍一だが、一応照れ隠しで『なんでだよ!』とちょっぴり怒って見せると、吉田が龍一を抱き寄せるように引き寄せ、肩を組んで右手でピースを前後に出しまくり、あはははと笑った。
『それじゃぁ2人に挨拶をしてもらぉうかなぁ、まずは桜坂』
めんどくさそうに前に出ると、自ずと言葉がすらすらと出て来た。
『絵を描く理由は人それぞれあると思います、人気者になりたいから流行のアニメの絵を描くのも良いですし、好きな漫画のキャラクターを描くのも良いと思います、ただ、褒められてちやほやされて、勉強する事、学ぶことを忘れないで欲しい、これでいいんだ自分の絵は、そう思った時点で終わりです、自分に自分で限界を作らないで下さい、満足しないで下さい、この意味は何百枚、何千枚と描けばわかると思います。そして楽しむことを忘れないで下さい、来るのが楽しみになるクラブになるよう願っています。』
自分でも驚くほどまともな話をした龍一、それは首を傾げている自分が一番感じているだろう、なんだかむず痒かった、恐らく部長になった瞬間に背筋が伸びたのだ、暗示にかかりやすい龍一らしい言動だ。
『えっとー…』
吉田の挨拶が始まった。
『私は、部長の桜坂君の描く絵が大好きで、いつか話をしたい、いつか同じクラブに入りたいと常に思い続け、随分と時間が経ってしまいました。でもやっと同じクラブになったので残り少ない時間ではありますが、部長と共に楽しく絵を描けたらなと思っています、わははははは、よろしくお願い致しますっうわっははははは』
共に楽しく絵を…それを聞いて目が覚めた龍一。
『描く事をやめたのに、イラストクラブ?部長?何をしてるんだ俺は』
『え?やめたって?だめだめ何言ってるのわっはははは、ささ、時間あるからこの紙に何か描こうよははははは』
龍一の独り言が聞こえた吉田の猛攻撃に圧倒される龍一。
『じゃぁ動物クイズ!左手で描くので何の動物か当てようよ、はっはっは、いい?』
龍一の返事を待たずに吉田が左手でグネグネと描き出す。
いつしかそれを見守る龍一も真剣になっていた。
『いぬ!』『ブブー』『ぞう!』『ブブー』『ネコ?』『ブブー』
『わかんねぇよなんだよそれ』
『セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシでした!わっはっはっは』
『虫じゃねーかよ!!!!動物っつたろーが!』
『ハイ桜坂の番!』
『ちっ…くっそ…見てろよ』
『うま!左手なのになんでそんなに上手いの?』
『忘れてた、もともと俺左利きだったんだわ、どうだ?わからねーだろ』
『ニューギニアヒメテングフルーツコウモリ!うわっはっは』
『なんでわかるんだよ!!!!!!』
『じゃぁこれは?』
『アブラムシを同じじゃねーかよ、なんだよそれ』
『プエルトリコヒメエメラルドハチドリでした!うはっはっは』
『かせ!これわかるか?』
『ゴールディーリバーレインボーフィッシュでしょ?うわっはっは』
『当たり!』
『なんで全部長い名前なんだよ!あははははは』
『しかもなんで2人とも知ってるんだよ!うわっははははははは』
『はぁ~吉田、お前めっちゃ面白いな』
『桜坂のつっこみもさすがだわ、安心感あるよははっ、あそうだ、今度うちに来ない?見せたいものいっぱいあるんだよね、わっはははは』
『わかった、断っても毎日言ってきそうだからね』
『わっはははははは!正解!』
すっかり吉田のペースにはまってしまった龍一だった。
独りぼっちで過ごす日々が変わろうとしている…そんな気もした。
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