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強襲
しおりを挟むガタッ
ガタガタ
深夜に大きな音がして俺は飛び起きた。
「アルフォンス様、入りますよ。」
エミルが直ぐにやってきて、俺を庇う様にベッド脇に立ってくれる。
ドアの向こうで男たちが争う声が聞こえた。
暫くすると怒声が響き、バンッと勢いよくドアが開いて、ベルンハルトが飛び込んできた。
「ベル!」
ベルンハルトはあちこち怪我を負っている。
その後から護衛たちが入ってきた。
その手に握られている剣には血が付いていた。
「アルフォンス王子、我々と一緒に来てもらおうか。」
俺は護衛たちに裏切られたらしい。
その剣は無情にも俺の方へ向けられたのだった。
「行ってはなりません。」
エミルが短剣を構えて俺を庇う様に前に出る。
さらにベルンハルトが俺たちの前によろよろと立ち上り、庇ってくれた。
廊下ではまだ抵抗している者がいるらしい。
段々と争う音が近づいて来た。
「アルフォンス様、レナトスです。」
レナトスの護衛のニコが目の前の裏切り者を戸惑う事なく屠った。
その瞬間はエミルが隠してくれて見えなかったけれど、目を開けたときにはあの護衛が床に蹲っていた。
その後にレナトスが続いて部屋へ入ってきた。
「アルフォンス様、ヴィルヘルム様がラクーンへ亡命したそうです。」
「どうして?」
「詳しくは解りませんが、ラクーンはキルシュではなく、我がグーテベルクに宣戦布告してきたそうです。
この裏切った護衛もヴィルヘルム様に通じている者かもしれません。」
ヴィルヘルムは父王の兄だ。
その昔、第一王妃の子供の父王と第二王妃の子供で年上のヴィルヘルムの間で王位争いがあり、かなり揉めたと聞いた事がある。
結局、王妃の格の高い父王に後継者が決まったのだが、今でもヴィルヘルムは父王に替わって王位に就くつもりなんだろうか。
王なんてなっても面倒なだけなのに。
「残った味方を回収して戻ろう。」
「王都へ無事に戻れると良いのですが。」
エミルに言われて、窓の外を見るとラクーン国境の方角が時々、明るくなっているのが見える。
もう戦っているのだろうか。
直ぐに目立たない服に着替え、必要最低限の荷物を持つ。
裏切り者は拘束して宿の者に任せ、信用できる者だけを連れて、馬で逃げるように移動する事になった。
俺はベルンハルトと一緒に馬へ乗る。
「ベル、大丈夫か?」
「ああ。俺としたことが、仲間だと思っていたから油断してしまった。」
「怪我は?」
「大したことはない。必ずお前を守る。」
悔しそうに顔を歪めていた姿から一転、強い意思を持って俺を見つめるベルンハルトは、バスケの試合前の海斗を思い出させた。
俺が頷いて「頼む。」と言うと、ベルンハルトは馬を駆け出させた。
荷物も荒らされていて持っては来れなかった為、安全な道を辿って一旦、王都へ戻る事になった。
目指すのはレナトスの領地。
今はエリーゼが滞在しているので、私兵を直ぐに動かせる状態になっているそうだ。
途中、あまり信用できない貴族の領地を抜けなければならないが、そこを抜けられればなんとかなるだろう。
その領地に入る前の森で様子を見て、斥候を出した。
一緒に来た者は全部で15人。
その中で、俺、レナトス、エミルは戦力にはならないだろう。
せめて護衛たちの怪我を治さないと。
俺は治癒魔法が使えた筈だ。
「ベル、怪我を見せて。」
この中で一番、怪我が酷いのはベルンハルトだ。
服の上から見ても、打撲と切り傷がたくさんあるのが判る。
俺はベルンハルトの怪我を治していった。
アルフォンスになって初めて大きな魔法を使ったが大丈夫、ゲームの知識でちゃんと発動している。
「アルフォンス、治癒魔法なんて使えたんだ。」
「え?王族なんだから光魔法くらい使えるでしょ?」
もしかして、アルフォンスは魔法使えなかった?
「そうだけど、アルフォンスはいつも攻撃魔法が好きだって言って、治癒なんてって練習しなかったからさ。」
うわぁ、俺様なアルフォンスらしいな。
「そ、それはほら、こっそり練習してたんだよ。
大体、攻撃魔法って実用的じゃないでしょ。」
こちらの魔法は生活に密着している地味なものが主で、攻撃魔法などは適性のある者しか使えない。
ゲームでもアルフォンスは魔力があるが、攻撃魔法より治癒や癒しの魔法に適性があるという設定だった。
「そうか・・・ありがとう。
優しいアルフォンスも好きだよ。」
そう言うとベルンハルトはいつも通りに俺の頭を撫でて、額にキスまでしてきた。
「あ!」
視線を感じて振り返るとレナトスがこっちを見ている。
そして「仲がよろしいのですね。」と言って、にっこり笑った。
ベルンハルトめ~~~
その後、皆の怪我を治して回った。
中には「聖女さま。」とかいっている奴もいたけれど、聞こえないふりをした。
だって俺は男だし。
聖女になるのはキャロルだし。
携帯食を食べていると、一時間ほどで斥候に行った護衛が戻って来た。
やはり国境付近で戦闘が始まっているそうだ。
でも、そちらに人を取られているのか、ここの町の中に兵士の姿はそんなに見られなかったそう。
夜が明けてから、俺とレナトス、エミルは借りた馬車に乗り、ベルンハルトともう一人が御者、護衛は目立たないくらいに抑えて進む事にした。
その一方で同じように馬車を借りる。
こちらは囮だ。
俺と同じくらいの背格好の護衛が乗り込み、護衛を目立つ様に付けて別のルートを進むそうだ。
ここからレナトスの領地まで休まず行けばに2日程で着くらしいが、途中で馬車を乗り換え、それと判らないように遠回りして進む。
夜は一度だけ野宿をして、3日目、ついに領地の間にある山間地に着いた。
ここを抜ければレナトスが治めるシュミット領だ。
険しい道が続く。
馬車がガタガタ揺れて体が痛い。
そんな事を思っている時だった。
外が騒がしくなり「金目の物を出せ!」とドスの利いた男の声がした。
「山賊のようです。出ないで下さい。」
御者席にいたベルンハルトの声が聞こえた。
そして男たちの怒声が聞こえ、剣を交える音や馬の嘶きが聞こえてきた。
俺がびびってエミルにしがみ付いていると、突然ドアが開いた。
「降りて下さい!只の山賊ではない!」
いつの間にか馬に乗っていたベルンハルトが叫ぶ。
「アルフォンス様!」
エミルが俺に手を翳すと頭がクラリとして、少し背が縮んだような気がした。
「今あなたは僕の姿をしています。
一時間ほどで元に戻るので安心してください。」と言って、自分にも手を翳した。
次の瞬間、そこには俺が立っていた。
「僕が囮になります。」
「エミル?」
俺が口を開きかけた瞬間、強い力で馬車から引っ張り出され、ベルンハルトの乗る馬に乗せられた。
レナトスも自分の護衛のニコの馬に乗せられている。
「エミル!」
「アルフォンスしゃべるな。気付かれるぞ!」
ベルンハルトも馬へ乗り込み、山賊を蹴散らす。
それにニコの馬も続き、4人はシュミット側へ走った。
最後に見えたのは護衛が捕まったのと、馬車からゆっくり降りる俺の姿をしたエミルだった。
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