気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

文字の大きさ
11 / 41

エミル2

しおりを挟む
 
 エミル

 アルフォンス様とレナトス様を逃がした後、僕は王子らしく見えるように、僕はゆっくり堂々と馬車を降りた。
「何が望みですか?」

「決まってんだろ。お前だよ。」
 そう言うと山賊の頭らしき人物が、僕の腕を掴んで馬に乗せた。
「後は良いから早くズラかるぞ。
 仲間を呼びに行った奴がいる。」
 僕は身体を縛られ、頭から袋を被されてそのまま連れ去られた。


 1時間ほど走っただろうか。
 僕は何処かの建物の中へ連れて来られた。
 そこで被されていた袋だけを取られる。
 そこはうす暗くて黴臭い、木こりの小屋の様な所だった。
「お前、誰だ?」
 目の前には先ほどとの男ではなく、貴族らしき身形の男が僕を見て目を丸くして立っていた。
 身なりはこちらの国のものだが、言葉の発音が少し違う。
 多分、ラクーンの人だ。
 混乱に乗じてアルフォンス様を誘拐しようとしたのか?僕は黙って相手を睨んだ。
 ・・・時間を稼いでいる間にどうか皆が逃げられますように。

 いくつか質問をされたが、僕がのらりくらりとかわしたり、全く話さないでいると、そのうち男は「騙された!」と言って僕を放置して部屋から出て行った。
 あの男が荒事に慣れていなかったのか、暴力を振るわれなかったのは幸いだった。

 暫くしても男が戻って来なかったので、体が一回り小さくなった為に弛くなった縄を外し、窓際へ近付く。
 僕が逃げられる訳はないけれど、少しでも状況が知りたかったのだ。

 あそこから馬で一時間、山賊の仲間には明らかに訓練された兵士の動きをする者がいた。
 そんな奴らが、レナトス様がいるのにシュミット側から来るとは考えられない。
 大体、レナトス様があんな奴らが領地内にいたら放置はしないだろう。

 だから時間からしても、街の方へ戻って来たと思う。
 窓から見える木々の間から見た事のある教会が見えた。
 街からはそんなに遠くはなさそうだ。
 ついでに窓やドアが開かないか調べたが、どこも施錠されていた。
 しかも結界が張っているらしく、叩いたり物をぶつけても壊れなかった。



 ・・・どのくらい経っただろう。
 辺りがすっかり暗くなり、もしかして忘れられてしまったのではと心配になるくらい時間が経った頃、部屋にあの貴族の男と山賊の頭が小さなランプを持って戻って来た。

「一緒に来い!」
 山賊の頭が僕を捕まえ、僕に拘束をし直すと、一緒に小屋の外へ連れ出された。
 貴族の男も後から着いてくる。
「ん?馬が無ぇ、皆どこ行った?」
 そこで馬や仲間がいない事に気付き、二人は混乱した。

「仲間は捕まえた。観念しろ。」
 聞き覚えのある声がしてそちらを見ると、目の前に10人程の兵士とベルンハルトが現れた。
 少し離れた所に男たちが何人か拘束されているのも見える。
 その中の2人は貴族の護衛のような身形だった。
「どうしてここが判っった!?」
 貴族の男が叫んだ。
「ベルンハルト!」
 猿轡を嵌められて上手く話せなかったけれど、僕も目の前のベルンハルトを呼んだ。
 助けに来てくれたんだ!

 山賊の男は僕を地面に乱暴に置くと、地を蹴ってベルンハルトに向かって行った。
 ベルンハルトはそれを脇へとかわし、足を掛けて相手のバランスを崩した。
 そして後ろ手に腕を捻り上げる。
 次にそのまま地面に押し倒して拘束して身動きできないようにした。
 直ぐに他の兵士が縛り上げる。
 余りの鮮やかな動きに僕は唖然としてしまう。
 ・・・ベルンハルト、只のエロい人じゃなかったんだ。
 それと同時に貴族の男も他の兵士に捕まっていた。
 こちらは何の抵抗もしなかった。

「んー、んー!」
 僕が呼ぶと、ベルンハルトは山賊を他の兵士に預けてこちらへやってきた。
「大丈夫か?」
「よくここが判ったね?」
 ベルンハルトは手際よく僕の拘束を解いていく。
 結構きつく縛られていたらしく、僕の腕は擦り傷だらけだった。
「ああ、アルフォンスが教えてくれた通りだった。」
「?」
「女神のお告げがあったって。
 本当にいるか判らないけれど、ここへ行って欲しいと頼まれた。」
「女神のお告げ?信じられないけれど、助かったよ。」
 それが本当なら、アルフォンス様は国から守られて然るべき人物になる。
 第三王子なんて、スペアのスペアみたいな立場ではなくなるだろう。
 下手をすると王位継承争いに巻き込まれてしまう。

「ベルンハルト、その事を知っている者は?」
「俺とお前、レナトス様とニコくらいだ。」
「ん。その『女神のお告げ』って言うの、黙ってろよな。
 他の貴族に知られたら面倒な事になるし、俺たちみたいな身分の奴は仕えられなくなる。」
「わかってる。」
 そう言うと、ベルンハルトは兵士に指示を出し、俺を荷物のように抱えて馬に乗せた。
 もうちょっと優しくしろよ・・・



 シュミットのレナトス様の館に着いたのは深夜だった。
 疲れておられるだろうに、アルフォンス様は起きて待っていてくださった。
「エミル!戻ってきてくれて良かった!」
 そう言って笑顔で近付いて来られると、甲斐甲斐しく僕の事を気遣ってくださる。
 しかも僕なんかの為に治癒魔法を使って下さったのだ!
 そこで護衛たちも捕まっていたが、無事に助け出されたと教えてくれ、宿で拘束していた者たちも国の兵士に引き渡した事などを教えてくださった。
 あの貴族はやはりラクーンの者で、金で荒くれ者を雇ってアルフォンス様を拐おうとしたそうだ。

 それから朝まで休んでからアルフォンス様を探すと、アルフォンス様はロビーで助け出された兵士達の怪我を治していらっしゃった。
 しかし昼食後には疲れてしまったらしく、窓際のソファーで転寝されていた。
 僕はそんなアルフォンス様の寝顔を眺めつつ、思わずその綺麗な髪を手で梳いた。


 美しくて、お優しく、女神の加護まで受けられた光の属性を持つアルフォンス様。
 どうかこれ以上遠くへ行かないでください。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。 ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。 平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。 天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。 「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」 平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。

王子様から逃げられない!

一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

処理中です...