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エミル2
しおりを挟むエミル
アルフォンス様とレナトス様を逃がした後、僕は王子らしく見えるように、僕はゆっくり堂々と馬車を降りた。
「何が望みですか?」
「決まってんだろ。お前だよ。」
そう言うと山賊の頭らしき人物が、僕の腕を掴んで馬に乗せた。
「後は良いから早くズラかるぞ。
仲間を呼びに行った奴がいる。」
僕は身体を縛られ、頭から袋を被されてそのまま連れ去られた。
1時間ほど走っただろうか。
僕は何処かの建物の中へ連れて来られた。
そこで被されていた袋だけを取られる。
そこはうす暗くて黴臭い、木こりの小屋の様な所だった。
「お前、誰だ?」
目の前には先ほどとの男ではなく、貴族らしき身形の男が僕を見て目を丸くして立っていた。
身なりはこちらの国のものだが、言葉の発音が少し違う。
多分、ラクーンの人だ。
混乱に乗じてアルフォンス様を誘拐しようとしたのか?僕は黙って相手を睨んだ。
・・・時間を稼いでいる間にどうか皆が逃げられますように。
いくつか質問をされたが、僕がのらりくらりとかわしたり、全く話さないでいると、そのうち男は「騙された!」と言って僕を放置して部屋から出て行った。
あの男が荒事に慣れていなかったのか、暴力を振るわれなかったのは幸いだった。
暫くしても男が戻って来なかったので、体が一回り小さくなった為に弛くなった縄を外し、窓際へ近付く。
僕が逃げられる訳はないけれど、少しでも状況が知りたかったのだ。
あそこから馬で一時間、山賊の仲間には明らかに訓練された兵士の動きをする者がいた。
そんな奴らが、レナトス様がいるのにシュミット側から来るとは考えられない。
大体、レナトス様があんな奴らが領地内にいたら放置はしないだろう。
だから時間からしても、街の方へ戻って来たと思う。
窓から見える木々の間から見た事のある教会が見えた。
街からはそんなに遠くはなさそうだ。
ついでに窓やドアが開かないか調べたが、どこも施錠されていた。
しかも結界が張っているらしく、叩いたり物をぶつけても壊れなかった。
・・・どのくらい経っただろう。
辺りがすっかり暗くなり、もしかして忘れられてしまったのではと心配になるくらい時間が経った頃、部屋にあの貴族の男と山賊の頭が小さなランプを持って戻って来た。
「一緒に来い!」
山賊の頭が僕を捕まえ、僕に拘束をし直すと、一緒に小屋の外へ連れ出された。
貴族の男も後から着いてくる。
「ん?馬が無ぇ、皆どこ行った?」
そこで馬や仲間がいない事に気付き、二人は混乱した。
「仲間は捕まえた。観念しろ。」
聞き覚えのある声がしてそちらを見ると、目の前に10人程の兵士とベルンハルトが現れた。
少し離れた所に男たちが何人か拘束されているのも見える。
その中の2人は貴族の護衛のような身形だった。
「どうしてここが判っった!?」
貴族の男が叫んだ。
「ベルンハルト!」
猿轡を嵌められて上手く話せなかったけれど、僕も目の前のベルンハルトを呼んだ。
助けに来てくれたんだ!
山賊の男は僕を地面に乱暴に置くと、地を蹴ってベルンハルトに向かって行った。
ベルンハルトはそれを脇へとかわし、足を掛けて相手のバランスを崩した。
そして後ろ手に腕を捻り上げる。
次にそのまま地面に押し倒して拘束して身動きできないようにした。
直ぐに他の兵士が縛り上げる。
余りの鮮やかな動きに僕は唖然としてしまう。
・・・ベルンハルト、只のエロい人じゃなかったんだ。
それと同時に貴族の男も他の兵士に捕まっていた。
こちらは何の抵抗もしなかった。
「んー、んー!」
僕が呼ぶと、ベルンハルトは山賊を他の兵士に預けてこちらへやってきた。
「大丈夫か?」
「よくここが判ったね?」
ベルンハルトは手際よく僕の拘束を解いていく。
結構きつく縛られていたらしく、僕の腕は擦り傷だらけだった。
「ああ、アルフォンスが教えてくれた通りだった。」
「?」
「女神のお告げがあったって。
本当にいるか判らないけれど、ここへ行って欲しいと頼まれた。」
「女神のお告げ?信じられないけれど、助かったよ。」
それが本当なら、アルフォンス様は国から守られて然るべき人物になる。
第三王子なんて、スペアのスペアみたいな立場ではなくなるだろう。
下手をすると王位継承争いに巻き込まれてしまう。
「ベルンハルト、その事を知っている者は?」
「俺とお前、レナトス様とニコくらいだ。」
「ん。その『女神のお告げ』って言うの、黙ってろよな。
他の貴族に知られたら面倒な事になるし、俺たちみたいな身分の奴は仕えられなくなる。」
「わかってる。」
そう言うと、ベルンハルトは兵士に指示を出し、俺を荷物のように抱えて馬に乗せた。
もうちょっと優しくしろよ・・・
シュミットのレナトス様の館に着いたのは深夜だった。
疲れておられるだろうに、アルフォンス様は起きて待っていてくださった。
「エミル!戻ってきてくれて良かった!」
そう言って笑顔で近付いて来られると、甲斐甲斐しく僕の事を気遣ってくださる。
しかも僕なんかの為に治癒魔法を使って下さったのだ!
そこで護衛たちも捕まっていたが、無事に助け出されたと教えてくれ、宿で拘束していた者たちも国の兵士に引き渡した事などを教えてくださった。
あの貴族はやはりラクーンの者で、金で荒くれ者を雇ってアルフォンス様を拐おうとしたそうだ。
それから朝まで休んでからアルフォンス様を探すと、アルフォンス様はロビーで助け出された兵士達の怪我を治していらっしゃった。
しかし昼食後には疲れてしまったらしく、窓際のソファーで転寝されていた。
僕はそんなアルフォンス様の寝顔を眺めつつ、思わずその綺麗な髪を手で梳いた。
美しくて、お優しく、女神の加護まで受けられた光の属性を持つアルフォンス様。
どうかこれ以上遠くへ行かないでください。
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