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女神さま
しおりを挟むレナトスは城にいる父王に連絡が取れたそうだ。
攻撃を受けたのは国境だけで、俺から目を反らす為の威嚇だったらしい。
城の皆は無事で、向こうから迎えを寄越してくれるそうだが、ここへは急いでも2、3日掛かるらしい。
本当は直ぐにでも出発したいが、エミルや護衛も怪我が完全に治っていないし、皆が安全に王都へ戻れるのなら仕方がない。
俺はその間に少しでもゲームの内容を思い出そうと思った。
確かキャロルを気に入った王族がいた隣国って、国名は出てこなかったけれどラクーンの事だと思う。
でもゲームでは国と国が衝突する事なんかなくて、パーティ開場で王族に目をつけられたキャロルが攫われるんだ。
護衛に選ばれたベルンハルトが一人で助けに行って、高感度が高ければ成功してラブラブになると言う感じだった。
それにそこまで話が進んでいると俺はすでにルートから外れていて、ベルンハルトにキャロルを助けに行くように頼むだけで、特には関わっていない。
エミルなんてモブ扱いだった。
ゲームでは隣国の王族にキャロルを薦めたエリーゼも、当の本人のキャロルも今回は全く関わっていない。
それでも、イベントっぽい事は起こるんだなぁ。と妙に関心してしまった。
しかし、ラクーンも俺なんか誘拐してどうする気だったんだろう。
まさか花嫁にするなんて考えないだろうし・・・
・・・まさか。
理由は違うけれど、女神の加護に目覚めた聖女として連合国へ交渉に行くのはキャロルだった。
王族に攫われそうになるのもキャロル。
実際には俺の姿に変化したエミルだったけれど。
良く考えてみれば、ベルンハルトやエミルにも必要以上に好かれている自覚がある。
もしかして俺がゲームの進行を変えてしまったから、代わりに俺がキャロルの立場に近くなってるとか?
本当にゲームの世界ならチュートリアルの女神さまから何か説明があっても良くない?
俺、何も聞いてないけれど・・・
「・・・そうだ!教会!」
女神さまに会うには教会に行かないと!
今までは城に祭壇があったから、俺は教会と言う所に行った事がなかった。
俺はベルンハルトを伴ってレナトスに会いに行った。
シュミットの街を出歩くにはまず、レナトスの許可をもらわないといけない。
お茶の時間を狙っていったのだが、レナトスはまだ館の執務室にいた。
そこでは嬉々として仕事をこなしているレナトスと、顔色の悪いイーヴォたちがいた。
館では回りくどい事は省略して良いと言われているので、俺はベルンハルトと一緒に一礼して中へ入り、部屋の隅のソファーで仕事が一区切りするのを待つ。
部屋の中を見回して、そういえばこの館は家具は高級そうだけれど、建物の作りは王城よりシンプルだなと思った。
あと玄関ロビーにはちゃんと川の水が入った水槽があって、魚が泳いでいた。
水槽みたいな透明度の高いガラス製品はこちらでは珍しいからマジマジと見てしまった。
暫く考え事をしていたら、お茶にすると伝えられた。
「教会ですか?」
「出来れば女神像のある大きな教会が良いんだけれど。」
俺はお茶が始まって直ぐ、レナトスに教会へ行きたいと相談した。
「女神さまにお礼したいので、なるべく早く行きたいんだ。
それで外出許可をもらいたい。」
「それなら、お義父さまも共に行っていらっしゃいませ!」
突然、イーヴォが会話に混じって来た。
周りの文官たちも「是非、ご案内してください。」と言っている。
・・・皆の目が、俺に案内を頼めと言っている。
「レナトス、案内を頼みたい。」
一気に場の空気が緩んだ。
教会はシュミットの街の中心にあった。
水路に囲まれたシュミットの街は綺麗で整然としていて、無駄な装飾の無い石造りの家々は統一性があって、いかにもレナトスの領地と言う感じだ。
馬車がスムーズにすれ違えるように作られた広い道の所々に花壇があり、よく見るとそれさえも計算されて設置されている事がわかる。
起伏が多い土地なので、休む為のベンチや手すり、階段ではなくスロープになっている所も多く見掛けた。
教会も石造りで、王都のものよりシンプルで新しく、設備の整った建物だったが、中は古いものが綺麗に残されていた。
女神像が真ん中に配置された礼拝堂ではシスターたちが談笑していたが、こちらに気付くと皆で集まって来る。
一年の内、一週間程しかこちらに戻って来ないと言うレナトスは、教会に来るのも久しぶりだそうで、久しぶりに会うシスターたちにあっという間に囲まれていた。
俺はレナトスの親類の貴族と言う事になっていたので、勝手に女神像の正面に座って目を瞑り、両手を組んで祈りの言葉を唱えさせてもらった。
・・・目を瞑っている筈なのに、周りが金色に輝いた。
それは次第に天まで伸びて行って弾けて、俺の視界の全てが眩い白色になった。
もう目を瞑っているのか、開けているのかもわからない。
ゲームと同じだ。ここが女神さまと会える空間に違いない。
「連様・・・いえ今はアルフォンス様とお呼びした方が宜しいでしょうか。」
女の子の声に続いて女神さまが何も無かった場所にすうっと現れた。
白い髪ストレートヘアに琥珀色の瞳。
5、6歳の少女の姿。
やっぱりこれもゲームと同じだった。
ゲームでは女神像がセーブポイントで、女神像に祈れば女神さまに会えたのだ。
「はじめまして、女神さま。
呼び方はどっちでも良いんですけれど、俺に色々教えてください。」
俺は早く知りたい事がたくさんあるのだ。
「ええ。私に答えられる事でしたら何でも。」
女神さまはそう言うと、にっこり笑った。
「あのさ、いきなりなんだけれど、ここってゲームの世界なんですか?」
「いえ、ゲームではありません。
ここは現実の世界。
あなたの言っているゲームは、夢渡りをした者が夢に見たままを参考に作ったお話なのです。」
「夢で見たまま・・・それじゃあ、なんでゲームと話が変わってきてるの?」
「現実は選択肢一つで変わってしまいます。
その者の見た世界とこの世界は、重要な地点で違う選択肢が選ばれました。
それは似て非なる世界。もう同じ道は進まないでしょう。」
要はパラレルワールドとか平行世界になったって事?もしかして俺のせいかな。
うーん、もうゲームとは関係ない話に突入してるのかな。
それなら、そろそろ俺の知識は役に立たなくなりそうだ。
「知識は役に立ちますよ。」
考えている事に返されて俺がびっくりしたら、女神さまはにっこり笑った。
「それから、俺ってなんでこっちにきたの?アルフォンスはどうなっちゃったの?」
「蓮様、あなたは選ばれてこの世界へやって来ました。
あなたは望まれてこちらへ来たのですよ。
アルフォンス様も大丈夫です。
どうぞ胸を張って御心のままに愛を育んで下さいね。」
なんか女神さまのお話はふんわりして微妙にズレを感じる。
「では、あなたのご健闘をお祈りいたします。」
「ええ?ちょっと、やっぱりこれってゲームなんじゃ」
「いいえ。これは現実なのです。
進展があったら報告にきてくださいね♡」
バチッと音がして、我に返った。
後ろを見るとさっきと変わらずベルンハルトが護衛していた。
レナトスはシスターたちに囲まれたままだ。
女神さまとたくさん話したつもりだったけれど、時間にしたら、ほんの一瞬だったらしい。
しかも話が途中だった。
誰が俺を望んで呼んだんだろう?
報告に来て欲しいと言っていたから、また会ってくれる気はあるみたいだ。
女神様って、ちょっと母上に似ていたな。
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