気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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 教会へ行ってから2日後、王都から迎えの馬車が来た。
 現れたのは正式な迎えの出で立ちをした王宮警備隊が護衛する馬車で、これに少しでも攻撃などしたら不敬罪で一族郎党潰されてしまう。
 宿で襲撃してきた奴らの処分の話も生々しい今、いくらヴィルヘルム派だって、そこまではしないだろう。

 俺、レナトス、エミルが馬車へ乗り込み、護衛は馬で周りを取り囲む様にして王城へ向かう。
 泊まるのは本当に信頼できる貴族の館のみ。
 エミルもベルンハルトも、今回は一瞬たりとも側を離れなかった。



 3日かけて、俺たちはやっとグーテンベルク城へ戻って来れた。
 城ではヴィルヘルムに通じている者のあぶり出しがあったらしく、緊張感が凄かった。

 父王に会うと労われ、あれから解った事を教えてくれた。
 どうやらラクーンの第二王子が俺をいたく気に入っているそうだ。
 父王は今まで何度も婚姻を望む手紙を受け取っていたが、宰相レナトスの娘エリーゼと婚約していた事もあり、ずっと断り続けていたらしい。
 ところが俺とエリーゼは婚約解消した。
 王子はこれ幸いと俺を手に入れようとしたそうだが、父王たちは相手にしなかった。
 そこで王子はグーテベルクで莫大な借金に苦しんでいたヴィルヘルムに行き着く。
 ラクーンの貴族に娘が嫁いでいたヴィルヘルムは、公爵でありながら借金を踏み倒し、家族でラクーンへ亡命する事を望んだ。
 安定した暮らしを手に入れる対価は俺を差し出す事。
 キルシュへ向かっている間に俺を攫ってラクーンへ差し出す計画だったらしい。
 しかもヴィルヘルムに囁かれたのか、ラクーン王はグーテベルクに牽制攻撃までしてきてるし。
 親バカ過ぎる。

「ところでアルフォンス。
 お前、治療魔法が上手く使えるようになったらしいな。」
 王が突然聞いてきた。
「ええ。光属性なんですから当然でしょ?」
「うむ。しかし、周りにあまり知られないように。
『聖女』などと騒がれ、いまさら王位争いに巻き込まれるのはお前も本意ではないだろう。」
 あー、それ、レナトスとエミルにも言われたなぁ。
「はい。俺は王位継承争いには参加したくありませんので。」
「それ以外にも只でさえ光属性は珍しく、狙われやすいのだ。
 知られればラクーンもさらにお前を狙うであろうし、その他の者にも狙われるであろう。
 重々、気をつけよ。」
「はい。」
 光属性適性者は珍しい。
 しかも治療魔法や癒しが使えるとなれば希少価値も高い。
 ゲームの主人公だったキャロルもその一人。
 そうだ、キャロルにも護衛を付けさせなくては。
 いくら愛があっても下級貴族の夫ではキャロルを守り切れないだろう。
 いっそ家族ごとここへ呼ぶか。

「ところで、ラクーンとの小競り合いはどうなりましたか?随分、落ち着いているようですが。」
 先に俺をラクーンへ渡すつもりはないと聞かされているのでそこは心配していないが、俺のせいで戦争になったら状況が変わるかもしれない。
 っていうか、俺いつの間にか重要人物になってる・・・
「それなんだが、今、ラクーンはキルシュに攻撃されていてな。
 隙を突かれたようだ。
 かなり激しい戦いのようなので、暫くはこちらを気にする余裕などないだろう。
 後ははカールに任せてあるし、レナトスも戻ってきているしな。
 話し合って、キルシュへはまた改めて使者を送る事にした。」
 カールは第一王妃の次男で、主にこの国の防衛を担っている。
 彼に任せておけば大丈夫だろう。
「そうですね。兄上ならば必ず国を守って下さるでしょう。」



 俺がいなかった間に国の状況が少し変わっているようだ。
 この後、母のドリス妃に会うつもりでいたので、そこで色々と教えてもらおうと思った。
 第二王妃である母は古い家系を持つ侯爵家の娘だ。
 ヴィルヘルムとは違う公爵家から来た第一王妃より位は低いが、かつてはこの国の裏の部分を担っていたという家から来た娘らしく、その知見は大したものだ。

「久しぶりね、アルフォンス。」
「はい。母上もお変わりなく。」
 前回会ったのは、キルシュへと旅立つ前だったか。
 この旅で俺がどんな目に合ったのかはもう知っているらしく、傍に控えるエミル、ベルンハルトも共に身体を気遣われた。

 母はプラチナブロンドとエメラルドの瞳、いつまで経っても変わらない美貌で俺から見てもとっても綺麗な人だ。
 隣に座る母に良く似た10歳下の弟、マリアンも可愛らしい。

 母の話ではこの大陸で一番安全そうなのはグーテベルクで、難民の流入が始まっていると言う。
 それなら彼らを援助する為に俺が表立って活動しなければならないだろう。
 それが光属性という、癒しや治療が使える唯一の属性を持つ俺の役割である。
 実際にその魔法が使えなくても、光属性で王族ならオッケーみたいだけれど。
 求められているのはキャンペーンガールみたいな感じだし。
 でも今は治療魔法も使えるし、実際に働いてみたいな。

「グーテベルクはもともとラクーン寄りだったけれど、貴方の事があったから今回は中立の立場を表明するそうよ。
 だから難民が増えても攻めて来られる事はないと思うけれど、均衡が崩れたら全面戦争になっちゃうわ。」
「面倒ですね。」
「そうよ。元々の原因は貴方なんだから、早く婚約者を決めた方が良いわよ。」
 母はにっこりと笑ったが、目が笑っていないのに俺は気付いた。

「貴方、レナトスと仲が良いんですってね?
 気付かなかったわ。エリーゼじゃなくてそっちだったなんて。」
「え?は?」
「本気なら応援するわよ。
 彼、娘はいるけれど一応、未婚だから。
 ちょっと複雑だけれど、婚約だってできるわよ。頑張って!」
 そう言って母は扇で口元を隠したが、にやにやと笑っているのが判った。
「レナトスって良く見ると可愛いわよねぇ?」
 母・・・貴腐人でしたか。
 うん、この世界では普通にいそうだな!マリアンがめちゃくちゃ引いてるけれど。
 ところで、レナトスが未婚っでマジ?

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