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閑話・エリーゼ
しおりを挟むエリーゼ
やっと父たちが帰って行った。
あれだけの人数が増えると大変だったけれど、いなくなると寂しいわね。
だって、この館には今、私と家令と侍女と護衛しかいない。
イーヴォも部下と一緒にごたごたの後始末に出てしまった。
私には母がいない。
父と私はそっくりなので、父の娘である事は間違いないと思うのだけれど、母の事は父も話さないし、誰も知らない。
父も今は亡き祖父母も屋敷の者も私には優しくしてくれたので、私は別に母などいなくても良かった。
でも、こういう時は同性で身分を気にせず話を聞いてくれる者が近くに居てくれたらと思ってしまう。
友達といえばキャロルくらい。
そのキャロルも結婚して遠くの領地に行ってしまった。
性格も父に似ている私は興味のあることにしか目が向かず、話の合わない同じくらいの子供はもちろん、婚約者になったアルフォンス様にさえも興味がなかった。
それでも同じ学校へ通えば、同級生だ、婚約者だと言う事で共に行動されられる。
その度にアルフォンス様をはじめ周りの皆に、冷たい対応をしたり尊大な態度を取ってしまい、愛想を尽かされたのは私のせいだ。
そもそも王子のアルフォンス様と庶子の私が婚約できたのは、私がシュミットの血を引いているから。
公にはされていないが、精霊の血脈を持つシュミット家は昔から王家を支え、護っていると言い伝えられている。
それは、父のように仕事としてであったり、婚姻関係であったり、侍女であったりと、とにかく王家に関わっていれば何でも良いのだ。
因みにシュミットの娘であった祖母は現王の女兄弟の教育係だったそうだ。
それもあってか年の近い私とアルフォンス様はいつの間にか婚約者になっていた。
しかしシュミットの者は総じて権力に興味がない。
けれど周りには様々な思惑を持つ者がいて、色々口を出してくる。
父も私も頼んでもいないのに、アルフォンス様のお気に入りのキャロルに嫌がらせをしたり、断れないような見合い相手を用意したりする者まで現れたのだ。
余りにもその仕打ちが酷いので、私はこっそりキャロルの味方をした。
おかげでキャロルとは仲良くなれて、私は初めてお友達が出来てとても嬉しかったわ。
その時に私に協力してくれたのが、父の侍従であったイーヴォだった。
自分でも扱い辛いと思う私に優しくしてくれて、おしゃべりが苦手な私の話を辛抱強く聞いてくれて、気付いたら私はイーヴォを好きになっていた。
それをキャロルに話したら、逆にアルフォンス様の方から婚約破棄してくれるような計画を立てて協力してくれた。
結果、思ったような成り行きにはならなかったけれど、婚約は無事に破棄された。
でも、あの時からアルフォンス様の様子がおかしい。
今更だが私に好意を持っている様だし、最近など父に付いて執務なども習っているそうだ。
彼を良く知る者が言うには、プライベートでも性格が180度変わってしまったらしい。
そう言えば、館でも前のような高慢さの欠片も無く大人しくなさっていて、怪我人を自ら治療していたり私の話を面倒くさがらず楽しそうに聞いてくれた。
変わったと言えば、父もあの頃から変なのだ。
今など、あのお堅い父がアルフォンス様に完全に心を許している。
仕事を中断されても、気安く話しかけられても、私にも見せない恥らうような笑顔で受け答えしている。
確かに今のアルフォンス様は、私から見ても前よりずっと好ましい方になったとは思う。
それでも、父のあの態度は娘としてどう対応したら良いのか。
あれにはイーヴォもびっくりしていたわ。
昔、父は私をアルフォンス様に嫁がせれば、シュミット出身の妃として大事にされ、幸せになれると思っていたらしい。
そして自分は表舞台から消えるつもりだったのだと思う。
それを家令から聞いたときは私は婚約を解消してしまった事を父に申し訳なく思ったものだが、アルフォンス様に話しかけられて、私にそっくりな顔で嬉しそうに笑う父を見て思った。
何処ぞの初心な令嬢かと思ったわ。
子供としては親のそういうの見たくないし。って言うか私が申し訳なく思う事なんかなかったわよね。
お父様がアルフォンス様に嫁ぐと宜しいわよ。
それならそれで、私は自由にさせて頂きますし。
実は私、大家族でにぎやかに暮らすのが夢ですの。
まだ少ししか膨らんでいないお腹を擦ると、それだけで幸せな気分になった。
さぁ、子供服を沢山作らなくては。
何人分必要かしらね。
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