気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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満月の夜

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 暫くすると、ラクーンとラクーンとキルシュの間にある獣人の国から多くの難民がグーテンベルクへと逃れて来た。
 俺はその人たちのところへ慰問へ行くのが今の役割。
 週に1、2回順に難民を受け入れている教会やキャンプなんかの施設を回ってお見舞いをしたり、子供達と遊んだり、相談に乗ったりするだけなんだけれど。

 蓮だった頃は勿論、アルフォンスにも戦争の記憶はなく、酷い怪我をした者、心を病んだ者の姿はあの拉致事件と共に、平和に暮らしていた俺には衝撃的だった。
 だから治癒や癒しを使いたいんだけれど、俺の身の危険を考えたら魔法は見せない方が良い、って護衛の方からも言われて禁止された。
 それ意外にも見合いの申し込みや雑務が増え、徐々にストレスが溜まった結果、俺は心が弱り、少し眠れなくなってしまったのだった。


「月が綺麗。」
 今夜も眠れない俺は、自分の部屋のバルコニーから外を見ていた。
 バルコニーからは整えられた城の庭園が見える。
 満月に照らされた庭は絵画みたいで現実味がない。
 しかも今夜はいつもいる見回りの者も見えなかった。


 こんな風に一人の時は色々と考えてしまう。
 はどうなったのだろう。
 やっぱり小説みたいに事故とか病気で死んだのだろうか?それとも一年以上、行方不明のままだろうか?
 家族はどうしているんだろうか?心配かけているんだろうな。
 それに、あんなに俺に懐いていた海斗は泣いていないだろうか?
 ああ、一緒に高校を卒業できなかったな。
 ・・・俺はいつか元の生活に戻れるのだろうか?
 女神さまはアルフォンスは大丈夫と言っていたけれど、の事は教えてくれなかった。



 暫く庭を眺めていると、バルコニーの下を人が歩いて行くのが見えた。
 よく見れば、それはレナトスだった。
 俺には全く気付いていない様だ。
 レナトスはランプ一つで護衛も蓮れず、そのまま庭を突っ切り、奥の林へ向かって行く。
 その林には女神像の祀られている古い祠と、精霊の住みかと言われている小さな泉があるが、こんな遅い時間に行くような場所ではない。
 もしかして逢引き?と思った俺は、後を付けてみる事にした。

 一旦、部屋に戻り外履に履き替え、しっかりと上着を着る。
 そしてバルコニーから壁へと伝い、下層へ降りた。

 実はこの城、壁の装飾が多くて、それを伝えば簡単にバルコニーやベランダから出られる。
 今日は満月で明るいし、ボルダリングの要領で降りて行けば三階の俺の部屋からでも余裕で行き来できた。
 警備面でかなり問題があるのだが、俺が一人になりたい時に使えるので黙っているのだ。

 少しずつ鍛えて、最近やっとバランス良く動くようになった体で、音を立てないよう慎重に後を付ける。
 辿り着いたのはやはり祠だった。

 レナトスは祠の前で立ち止まり、綺麗な礼をすると、さらに奥へと向かった。
 奥は少し開けていて、小さいが水が渾渾と湧く泉がある。
 レナトスは小鳥の水のみ場のような場所に沸き続ける泉の前に立ち、石で囲んである淵にランプを置くと、膝を付いて泉の中を覗き込んだ。

 口元を見ると、小さく何か呟いている。
 掲げた両手を泉の上で何度も撫でるように動かすと、泉が青白く輝いた。

 一拍置いて、声が聞こえて来る。
 密やかに話すのは男の声。
 レナトスの声ではない、レナトスは泉の中を凝視している。
 時々、視線を上に向けていたが、俺に気付いたのではなく、なんらかの理由で泉から目を逸らしている様だった。

 5分ほど経ったが、泉は変わらず青白く輝いていてレナトスはじっとそれを見ている。
 どうやら誰かと待ち合わせという訳ではなかった様だ。
 俺はほっと息を吐いて、何を一生懸命に見ているのか知りたくなり、レナトスに声を掛けようと側へ寄っていった。


「あっ!!」
 近くまで来て、俺は泉の中に写し出されているものにびっくりして、思わず大声をだしてしまった。
「ア、アルフォンス様!」
 当然レナトスも俺に気付いた。
 でも、今はそうじゃなくて・・・
「俺・・・と海斗?」
 泉に映写されているように見えるのは、と海斗が抱きしめ合っている動画?だった。

『今日はお前の誕生日だろ?だから・・・』
 とが言っているのが聞こえる。
 次に見えたのはキスをする二人。
 ちゅっ、なんて俺が知っている可愛いやつじゃなくて、大人のキスをしている。
 やらしい・・・じゃなくて、これどうなってるの?
「レナトス?」
 暫く呆然としていたレナトスは俺の呼び掛けで我に返ったらしく、慌てて手を振って泉の中の画像を消した。
 そしてゆっくり立ち上がると、気まずそうにこちらを向いた。

「今の何?レナトスはを知っているの?」
「・・・」
 レナトスは何も言わず目線を外す。
「レナトス、知っている事を話せ。」
 俺はレナトスに対してわざと威圧的に振る舞った。

「・・・申し訳、ありません。全て私が悪いのです。」
 レナトスは綺麗な動作で俺に跪いたけれど、その声は少し震えていた。


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