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しおりを挟む俺とレナトスは今、祠の前に向かい合っている。
正確には俺は崩れた柱の根本に座っていてレナトスは地面に跪いているのだが。
「レナトス、詳しく話して。」
俺はなるべく王子らしく聞こえるように話した。
そうしないと目の前で縮こまっている年上の人にちゃんと話を聞けなそうだったから。
「申し訳ありません。私が全ての発端なのです。」
レナトスは土下座のように地面に額を付けた。
「シュミットの伝説は知っていますか?」
「ううん。」
「シュミット家の先祖はこの地に住む精霊でした。
その精霊はシュミットを荒らす者から守ってくれた騎士と結婚したのです。
精霊は騎士をこの地に送った王に『精霊の子孫と国がなんらかの縁を結び続ければ、グーテベルクは祝福を受け続けられるだろう』と言ったそうです。」
それを信じている父王は、レナトスと友人であった事もあり、年の近いアルフォンスとエリーゼを婚約させたそうだ。
「それで、何で俺が出てきたの?」
「それはアルフォンス様に虐げられている事にも気付かず、学園内でも集まりでも望まぬ者たちに囲まれているエリーゼが哀れで・・・私が女神さまにお願いしたのです。
『エリーゼと心を通じ合わせる事の出来る者と出会わせて欲しい』と。
女神さまの眷属である精霊の血を継いでいる私は女神さまに見つけて頂き易かったようで、そこの祠に願っているうちに願いを聞いて下さったのです。」
「ふぅん。それで俺とアルフォンスが入れ替わったのか。」
見つけてもらった・・・ゲームだと女神さまに願いを聞いてもらうには対価が必要だった。
ここはゲームじゃないからそういうのはないのかな。
「はい。私はその様な者がエリーゼの前に現れたら良いと思っていたのに、まさか入れ替わってしまわれるとは。」
「じゃあ、あっちの俺の中にはアルフォンスが入っているの?」
「はい。私はそちらも気になって、満月の晩には泉で見てました。」
どうやら魔力の高まる満月の夜だけ、この泉と向こうの世界が繋がるらしい。
そういえば、俺が来た夜もも満月だったかも。
「向こうの様子はどうだった?海斗と随分仲良くなっていたみたいだけれど。」
「ええ、流石はアルフォンス様です。
滞りなく暮らしていらっしゃいました。
海斗様とも恋人同士になられた様で、本日は海斗様のお誕生日を一緒に過ごしていらっしゃいましたよ。」
「は?」
待て待て、どういう事だ。
アルフォンスと海斗が恋人同士。
それじゃ、さっきのはやっぱり・・・
「それじゃ・・・向こうでは誰も悲しんだりしていないんだね。」
「はい。」
「そっか、良かった。」
それ以上突っ込んで聞けない。
俺、海斗と恋人同士にはなれないし。
不思議な事に、もう向こうに帰りたいとも思わない。
「俺もこっちで一生暮らす事を考えないとな。
レナトスが協力してくれるでしょ?」
そう言って、俺はレナトスの手を取って立たせた。
立ち上がる時に少しふらついたレナトスを抱きしめる。
「何で俺だったのかな?心を通じ合わせると言っても、結局エリーゼにはイーヴォが居たじゃない?」
「女神さまは『エリーゼと最も相性が良い人物を選んだ。』とおっしゃっていました。
イーヴォは『最も』ではなくとも相性の良い人物だったのかもしれません。
それに願いが聞き届けられるタイミングが遅かったのではないかと。」
「ふーん。それじゃぁ、俺はどうしたら良いのかな。
俺もいつか結婚しないといけないんでしょ?
レナトスはどうやって相手を探したの?」
「今まで私はそういう事に興味がなかったもので、判らないのです。」
んん?
「レナトスとエリーゼの母親はどうやって出会ったの?」
少し身体を離してレナトスの顔を覗き込むと、その顔は真っ赤で、やっべーと言う表情をしていた。
「前から聞きたかったんだけど、エリーゼの母親ってどんな人?
エリーゼとレナトスってそっくり過ぎるよね?何か隠してるでしょ?」
するとレナトスは瞳を揺らして俺を見つめた。
「・・・貴方にこんな事を話したらきっと困らせてしまう。」
いやいや、ここまで話されて聞かないとかないでしょ。
俺は続きを促した。
「エリーゼは私の魂の片割れなのです。」
レナトスは俺から離れた。
「最近のシュミット家は子供が生まれず、私の代では私しか家を継ぐ者がいませんでした。
シュミット家はグーテベルクを守るためにあり続けなければなりません。
しかし私はどうしても他人に興味が持てず、このままでは子供が残せないと思い悩みました。
そんな時に二十歳になり、当主を引き継いだ私は、シュミットの秘術である古文書も受け継ぎました。
その中に『自分の魂を分けて、もう一人の自分を創る。』と言う秘術が記されているのを見つけました。
先祖の中で子孫を残せなかった者は皆、その術を使っていたそうです。
私もその術を試したところ、上手くいってエリーゼを創り出せました。
男女の差や成長の過程で、今は別の人格になってしまいましたが、元々は同じ魂。
エリーゼが私。私がエリーゼと言っても過言ではありません。
だから私の分までエリーゼに幸せになって欲しかった。
本当に巻き込んでしまって申し訳ありません。」
そこまで一気に話し終えると、レナトスは俺に向かって深く頭を下げた。
「ふうん。向こうの世界でいうクローンみたいな物かな?そんな事が出来るなんて驚いたけど。」
「気持ち悪いでしょう?」
レナトスは苦笑いする。
「別に。レナトスはレナトスだし、エリーゼはエリーゼだし、やっぱり似てるなぁ。ってくらいにしか思えないや。
それに、その話だとレナトス=エリーゼって事だから、『エリーゼと最も相性が良い人物』はレナトスとも相性が良い人物とも取れるよね。」
「それは・・・」
俺は真っ赤になったレナトスを抱きしめ直した。
「レナトスは俺に興味を持ってくれていたよね。」
「・・・でも、私は男だし、貴方よりずっと年上だし、年の近い子供もいるのですよ。
それに私が全ての原因ですし。」
「うん。それでも俺はレナトスが良い。
もう何も気にしないでよ、俺はレナトスに会えて良かったって思ってる。
俺さ、レナトスが好き過ぎるからおかしいと思ったんだよ。」
「・・・好き?」
レナトスは真っ直ぐに俺の顔を見た。
「そう。俺がレナトスの事を何でこんなに好きなのか理由もわかったし、アルフォンスも海斗と仲良くやってるみたいだから、俺もこっちでレナトスと仲良くしたい。」
「嬉しい・・・ずっと仲良くして下さいね。」
レナトスは恥らいながらも俺を抱きしめ返してくれた。
「好き・・・これが『好き』って気持ちだったんですね。」
俺は何でこっちの世界に呼ばれたのか判った。
その答えが、レナトスの為だと言うなら喜んで受け入れるよ。
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