気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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エミル3

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 エミル

「エミル、俺の聞き間違いだろうか。
 アルフォンスはレナトスと想いが通じ合っているといったのか?」
「そうだよ、大丈夫?ベルンハルト」
 レナトスの執務室の前で待機していると、ベルンハルトが近寄って来た。
「知らなかった。」
「僕もだよ。まさかここまで進展してるなんてさ。」
 僕は悔しくて酷い顔をしているだろうが、ベルンハルトは相変わらず表情が変わっていない。
 まぁ、こいつはアルフォンス様以外全員にこんな感じだよな。

「くうううぅ~ピチピチな僕より、18才も年上の男が良いとは。
 もう、がっかりだよ!」
 しかも相手はシュミット様。
 系統は一緒じゃない?文官だし。きっと、抱かれる方じゃない?
 それなら絶対に僕の方が可愛いのに!
 キルシュでもどこでも一緒に付いて行くのは僕なのに!

 イライラして、ついベルンハルトに当たってしまう。
 今だって足を蹴っているのに痛くないのか、気付いていないのか顔色一つ変えないのがさらに僕をイライラさせた。
「くっそ!覗いてやる!」
「エミル?」
 ベルンハルトに止められたが、僕は訳がわからなくなるくらいの嫉妬に駆られて、シュミット様の執務室へ滑り込んだ。

 時間はまだ3時のお茶の少し前。
 執務室の中はまだ明るかった。
 気付かれたら開き直って、お茶の時間ですって言えば良い。
 僕は入って直ぐの所にあるソファーの陰に隠れた。

 二人は出窓に腰掛けてぴったりと身体を寄せ合っている。
 逆光に浮かび上がるシルエットは一枚の絵画のように美しい。
 アルフォンス様の方は泣いていらっしゃるみたいだ。
 その涙をシュミット様が指で拭っている。
 二人は何か呟くと、抱き合って口付けし始めた。
 ちゅっ、ちゅっ、と子供みたいなやつ。
 その後も額に、頬に。
 手もお互いの背を撫でているだけで、いかがわしさがない。

 10分もするといい加減、見ている方は飽きてきた。
 二人とも経験がないのか?童貞かよ。
 アルフォンス様、泣いてなんかいないで、もっと畳み掛けないとだめですよ!
 と思って、ふと、サイドボードの陰を見たら、そこの壁に人がいた。
 男は魔法なのか、体の半分以上が壁と同化している。
「!!!?」
 目が合って、びっくりして声が出そうになったが、僕は耐えた。
 向こうも僕に気付かれて無言でびっくりしていたけれど。

 そこでカタンと音がして、二人の体位が変わったのが判った。
 もう一人の覗きと同じタイミングで、そちらを向くとアルフォンス様がシュミット様の眼鏡を外し、壁に押し付けて口付けしていた。
 どうやらやっとディープキスまで至ったらしい。
 アルフォンス様の手もシュミット様の腰辺りを妖しく上下している。

 良し、そこだ!押し倒せ!
 と思ったら、アルフォンス様がシュミット様を抱き上げて、奥の大きなソファーに連れて行った。
 いいな、僕もアルフォンス様に抱き上げられたい。

 寝かされたシュミット様にアルフォンス様が覆い被さって、服の前ボタンを外し始める。
 その間にもアルフォンス様の唇はちゅ、ちゅ、と音を立ててシュミット様の首筋から開いた服の中へと移動し始めた。
「あ、あん・・・」
 シュミット様が感じているのか声が漏れている。
 結構、声がかわいい。
「レナトス・・・レナトス・・・」
「ルネとお呼びください。」
「ルネ・・・!」

 おお!愛称呼びを許したよ!と口を抑えて心の中で叫んでいたら、目を開いたシュミット様と目が合った。
 と、同時にトントンと扉を叩く音が聞こえて、「ニコです。入ります。」と声が聞こえた。

 僕が慌てて隠れたのとほぼ同時にシュミット様から許可が出て、開いた扉からニコが入ってきた。
 ニコは僕に一瞬視線を送ってきたけれど、直ぐに平静を取り戻してお茶の用意はいるか、今後の予定変更は必要か。と聞いていた。
 そして、二人が向き合った隙に僕を引っ張って外へ出してくれた。

 廊下では流石のベルンハルトも鬼の形相で待っていた。
 ニコは多分呆れた顔をしている。
「王子の侍従、覗きなんて趣味が悪いぞ。」
「エミルです。助けて下さってありがとうございました。もうしません。」
 僕はニコに素直に謝った。
 すると、ニコは犬の口元を少し歪めて笑っている様な表情をして、毛むくじゃらの大きな手で僕の頭を撫でてくれた。
「気持ちは判らなくもないが、レナトス様の為にもアルフォンス様の事は諦めてくれ。」
「はい・・・」
 ・・・はあぁ、気持ち良い。何これ?肉球?
 良く見ると、ニコは皆が言うほど怖い顔じゃないし、あの騎士よりよっぽどエッチな体つきをしている。
 それに実は優しい人なのを僕は知っている。
 こうやって話すのは初めてだけれど、ちょっと・・・好きかも。
 ニコは最後に僕の顎をひと撫でして離れた。

 その後、僕は侍女に指示を出したり、警備をするために扉の前に立つニコから目が離せなかった。
 僕、犬より猫派なんですけど。

 因みににシュミット様からお咎めは無かった。
 眼鏡をしていなかったからはっきり見えなかったのか、ニコの口添えがあったのか、今回は見逃してくれたらしい。
 もう一人の覗きは第二王妃ドリス様の密偵だったそうで、ドリス様直々に口止めされた。
 ちゃんと報告しているんですね・・・

 あとベルンハルトの怒りが3日ほど続いて辛かった。

 本当にもう覗きはしません。


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