気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

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会いたい

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 温暖な気候とはいえ、夜明け前は寒かった。

 数人いた護衛はサンドが全員眠らせてくれた。
 馬小屋へ行って馬を出し、一番質素な馬車(と言ってもかなり豪華だ)に繋いで、食料と必需品を積み込む。
 御者は牧場の息子だったリオンが買って出てくれた。
 ラースは少しだけ剣が扱えるそうなので帯剣させ、護衛としてリオンの隣に座らせる。
 びっくりしたのだが、実は女の子だったルディには首輪が見えないようにドレスを着せ、馬車の持ち主の貴族の娘に見えるようにした。
 サンドは屋敷の護衛から奪った防具を付け、馬に乗って外で護衛をしてくれるそうだ。
 でも「戦うのは苦手だから期待しないで欲しい。」と言っていた。
 一番、やっかいなのは俺の瞳の色だった。
 青と金色のグラデーションの瞳は珍しいそうで、見られたらそれだけで攫われる心配があるそうだ。
 俺はローブを頭からすっぽり被りルディと馬車に乗った。。


 この件にラクーンの王家が関わっているのかは未だに分からないので、なるべく目立たないように進もうと思っていたのだが、それは無理だと直ぐに判った。
 ルーカスの言っていた通り、一見して不心得者と判る人物がかなりいて、お金を持っていそうな者に声を掛けて仕事をもらおうとしていたからだ。
 俺を連れてきたワイバーン乗りも近くの町にまだいた。

 それでも俺がいた屋敷の辺りはまだ良い方で、町を過ぎるとかつて整備されていたであろう道はガタガタだったし、道沿いの店も略奪を警戒して空けていないところがあった。
 それでもラクーンの王都は通らないように迂回して、宿も馬車のクオリティに合わせてちゃんとした所に泊まったのだが、2日目の昼に王宮の者と思われる身形の男に馬車を止められてしまった。

 男は自分を宮廷魔道師のシャモンだと名乗った。
 シャモンは俺の顔を確認すると大勢の兵士を呼び寄せ、俺たちは逃げる事が出来ずに王宮へ連れて行かれる事になった。
 そして気付いた時にはサンドはいなくなっていた。



 今、俺とリオン、ルディ、ラースはシャモンと一緒に馬車に乗っている。
 リオンとルディは完全に萎縮しているが、ラースは気丈にも俺を庇ってくれていた。
「貴方はグーテベルクのアルフォンス王子さまでいらっしゃいますよね。」
 俺はシャモンに対して一言も発しなかった。
 他の三人も何も言っていない。
 だから、シャモンは俺がアルフォンスだと言う前提で話す事に決めたようだ。

「実は数日前に獣人国で交流のある部族から、新しい部族長がいらっしゃいました。
 彼の方は獣人国の国境にある魔石鉱山の所有権の半分が、自分にあると主張されたのです。
 調べてみると、確かに鉱山の半分をその獣人の部族から借りている事がわかりました。
 我が国ラクーンも数十年前までは収入の半分をその部族に払っていたのですが、前部族長になってからうやむやになり、支払っていない事が判ったのです。
 それで今度、部族長になった方がこれからの分と過去の払い忘れ分をまとめて支払って欲しいとおっしゃいました。」
 魔石鉱山の収入なんて莫大な金額だろう。
 しかも今のラクーンのお金の使い方を見る限り、とても払えるほど持っているとは思えない。
「こちらとしても突然の申し出で返答に困っていたところ、その部族長は『アルフォンス様の身柄をグーテベルクへ返せば支払い分を半分にしても良い』とおっしゃったのです。」
「え?」
 驚いた俺は、思わず反応してしまった。
 一瞬、シャモンの瞳が光る。
「部族長は今までグーテベルクで恩のある方に仕えていたそうです。
 その方に恩を返したいと。」
 獣人・・・もしかしてニコか?それならこの話を持ちかけたのはルネなのかも。
 俺はペンダントを握り締めた。

「それで私達は総出で貴方を探しておりました。
 共に城までお付き合いください。」
 シャモンはそのまま休む事無く馬車を走らせ、俺たちは城まで連れて行かれた。



 贅を尽くした作りのラクーンの城は騒がしかった。
 沢山の人が行き交い誰もが急がしそうで、なかなか王と俺たちの面会の許可が下りなかったので、その間にシャモンによって身支度を整えさせられた。
 大分時間が経ってから王の使いに呼ばれ、大きな扉のある謁見室へ通される。
 最初は俺だけ入るように言われたが、俺はリオン、ルディ、ラースが心配で、無理矢理一緒に連れて入った。 

 謁見室では王も椅子を降りて待っていた。
 リオンとルディとラースは恐縮して俺の後ろに隠れている。
 周りを見渡すと、一見誰だか判らないほど立派な姿をしたニコとなぜかルーカスがいて、一歩引いた所にはライムとルネがいた。
「ルネ!」
 俺は嬉しくて一目散にルネの所へ行って抱き付いた。
 でも、ルネは笑顔で少し抱きしめ返しただけで「後で。」と言って、王の前へ行くように促してきた。

「アルフォンス王子!この度の息子の仕出かした事を謝罪させて頂きたい。」
 王はそう言って俺に頭を下げる。
「俺は、許す事はできません。」
 これは誘拐だし強姦未遂でもあり、俺の心がどれほど傷ついたか、キルシュやグーテベルクに対してどれ程の犯罪を働いたのか、奴隷制を廃止しないうえに年端の行かない子供を奴隷にするなんて何事かと、延々と語ってやった。
 王はひたすら謝っていたが、俺の怒りが収まる事はなかった。

 時間が来て、今日の謁見はお開きになった。
 謁見室から客間に移動してから、やっと俺はルネと話をする事が出来た。
「ルネ、これはどういう事なの?ニコは本当に部族長なの?なんでルーカスもいるの?」
「うふふ、びっくりしましたか?」
 ルネはいたずらが成功した子供みたいに瞳をキラキラさせて笑ったが、その目の下には隈ができていた。
「ニコは本当に部族長になったんですよ。嘘じゃありません。
 ニコも忘れていた約束を思い出したのは私ですけれどね。」
 あ、久しぶりにルネのドヤ顔見たよ。
「なんでニコはグーテベルクにいたの?」
 そこでニコが、控えていたルネの後ろから俺の前に来た。
「俺たちは精霊を信仰している。
 だから俺は精霊の血を引くレナトス様に仕えたくてグーテベルクへ行っていたのだ。」
 獣人は基本、自分達の部族から離れないが、例外もいるんだそうだ。
「身分を隠していたのに、まさか切り札に使われるなんてな。」
 ニコは口を歪ませた。多分、笑っている。

「で、ルーカスは?」
「私は和平条約締結を口実に君を探しに来たんだよ。
 これでも君からの『鳥』が来てから直ぐに動いたんだぞ。
 で、彼が君の想い人か。」
「そうだよ、可愛い人でしょう?
 皆、本当にありがとう。」
 俺は安心して泣いてしまった。

 ルネが「これで交渉に乗って来なかったら、古代兵器で焼き尽くそうと思っていましたけれどね。」とか眼鏡を光らせて物騒な事を言っていたのは聞き流す事にしよう。



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