気が付いたら乙女ゲームの王子になっていたんだが、ルートから外れたので自由にして良いよね?

ume-gummy

文字の大きさ
32 / 41

信じて

しおりを挟む
 
 久しぶりに会った女神さまは、前回と全く変わっていなかった。
 女神さまだから当然か。

「女神さま、私の願いを聞き届けて下さってありがとうございました。」
 ルネが先に口を開き、深々と頭を下げ、女神さまに感謝を述べていく。
「女神さまはご存知だったのですね。
 この願いがエリーゼの為と言いながら、実は自分の為であった事を。
 短い間でしたが、私は幸せに過ごせました。」
「短い・・・間?」
 ルネの終わったような言い方に、俺は思わず聞き返してしまった。

「はい。エリーゼが二十歳になったら私は彼女に家の権利の全てを渡します。
 精霊の力も殆ど彼女に移る事でしょう。
 そうしたら私は普通の人間になってしまいます。
 あと二年です。
 それからは緩やかだった身体の時間も動き出して、私は若く輝いてゆく貴方を置いてどんどん老いて行くでしょう。」
「それでも、俺はルネが好きだよ。」
 当然と答えた俺に、ルネは頭を振った。
「女神さま。最後の願いを叶えて頂けるなら、私がいなくてもレンが悲しまないように」
「何言ってるの?ルネがいなくなって悲しくない訳ないでしょ?
 俺はルネの為にここへ来たんだ。
 向こうにはもう戻れないんだよ!」
 俺は思わず怒鳴ってしまった。

 するとルネは悲しそうな顔で俺を見てから、女神さまに向き直った。
「私は馬鹿なのです。
 レンが私の事を好きと言って下さっているのに、女神さまの力でレンを私に縛り付けているんじゃないかと考えてしまうのです。
 信じたいのに、信じ切れない。
 女神さま。どうか、レンが私のせいで悲しまないように自由にしてあげてください。
 対価は・・・残り全てを。」
「対価・・・やっぱり何かと引き換えで俺は呼ばれたんだ。
 ゲームではミニゲームをして星が溜まると、それと引き換えに女神さまに願いを叶えてもらえたんだ。
 ねぇ、ルネは何を交換したの?」
 唇を噛んで黙るルネを見て、俺は立ち上がって女神さまに詰め寄った。
 ルネは教えてくれないだろうから。

「・・・残った魂の半分を頂きました。
 エリーゼを生み出すのに半分、私が残ったその半分をもらいました。
 また魂を頂いたらルネは消えてしまうでしょう。」
「そんな・・・止めて。」
「私が魂をもらわなくても、魂が少なくなっているルネは、
 精霊の力があろうが無かろうが、長生きできません。」
 俺は女神さまとルネを交互に見る。


 ショックな事を聞いたのに俺の頭の中は妙に冷静になっていて、ゲームのチュートリアルを思い出していた。
 女神さまに願いを叶えてもらえる人は女神さまに気に入ってもらえる美しい魂の持ち主で、それは誰でも良い訳ではないとゲームの女神さまが言っていた事を。
 きっと、ルネもルーカスもルーカスを呼んだ人も、ゲームを作った人も女神さまに気に入ってもらえたんだ。
 ならば、女神さまに会ってもらえた俺にもその資格はあるはず。


「それなら、俺の魂を好きなだけあげるから、俺とルネの残りの寿命を一緒にして。」
「レン・・・」
 ルネは青い顔をしている。
 表情には出ていないが、女神さまも言葉に詰まっているようだ。
「違う世界からわざわざ連れて来られて、たくさん怖い目に遭わされたんだから、そのくらいの願い叶えてくれるでしょう?
 一日でも、一週間でもいいから!」
「本当に良いのですか?」
「もちろん。」
「レン、いけません。どうか自分の為に生きて。」
 そう言うルネは俯いている。
 良く見ると下を向いた眼鏡には涙が溜まっていた。

「・・・わかりました、蓮さまは覚悟がおありなのですね。」
 暫く考えてから女神さまはゆっくり話しだした。
「それでは、まず私が蓮さまから半分魂を頂きます。
 それから蓮さまの残った魂とレナトスさまの魂を混ぜ合わせて、量が同じになるように分けてお二人へ入れれば残りの寿命が同じになる筈です。」
 そんな粘土遊びみたいな事が出来るなんて凄いなぁと思いながら、俺は女神さまに頷いた。
「でも、これをしてしまうと本当の意味で二人は生涯を共にしなくてはならなくなってしまうのですよ。
 もし何かの拍子に心が離れてしまったら・・・そこで二人の命は潰えてしまいます。」
「構いません。ルネがいなくなったら俺は生きていけないから。」
 俺はルネの傍に行ってその細い肩に両手を掛けて顔を覗きこんだ。
「ルネはどうする?俺と一緒になるのは嫌?」
 ルネは眼鏡を外すと、袖で涙を拭った。
「嫌な訳ないじゃないですか。でも・・・貴方が」
「ね、どれだけ言ったら信じてくれる?俺にはルネだけなんだよ。」

 俺はもう他の誰にも惹かれない。
 ここに来て良かった、向こうにいたらきっと俺は誰も好きになれなかったと思う。
 そう言って、俺はルネの瞳から次々に溢れてくる涙を唇で拭った。
「・・・判りました。ずっと、一緒ですよ、レン。」
 俺は待っていたその言葉を受けて立ち上がり、女神さまへ向き直って目を合わせた。

「女神さま、ルネと俺を出会わせてくれて、我がままも聞いてもらって本当に感謝しています。
 ありがとうございました!」
 俺は部活でしていたように勢い良く頭を下げて、女神さまへと心から感謝を述べ、ケジメを付けた。
 ルネもゆっくり頭を下げる。

「ええ、私は女神です。
 人々の願いを叶えるのが私の務め。
 それにレナトスさま、私は貴方と蓮さまを引き合わせただけです。
 心を操ったりなどしていませんよ。」
「女神さま。」
「お二人とも、どうかお幸せに・・・」




 気付くと祠の前にいた。
 一緒に来ていたエミルもベルンハルトもデニスも殆ど動いていなくて、やっぱり時間は経っていないらしい。
 只、ルネが静かに涙を流していた。

「ルネ。」
 俺はハンカチを差し出してその涙を拭う。
 それから優しく立ち上がらせて、連れ立って離れへと戻った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った

しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー? という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡  短編コメディです

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。 ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。 平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。 天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。 「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」 平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

処理中です...