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信じて
しおりを挟む久しぶりに会った女神さまは、前回と全く変わっていなかった。
女神さまだから当然か。
「女神さま、私の願いを聞き届けて下さってありがとうございました。」
ルネが先に口を開き、深々と頭を下げ、女神さまに感謝を述べていく。
「女神さまはご存知だったのですね。
この願いがエリーゼの為と言いながら、実は自分の為であった事を。
短い間でしたが、私は幸せに過ごせました。」
「短い・・・間?」
ルネの終わったような言い方に、俺は思わず聞き返してしまった。
「はい。エリーゼが二十歳になったら私は彼女に家の権利の全てを渡します。
精霊の力も殆ど彼女に移る事でしょう。
そうしたら私は普通の人間になってしまいます。
あと二年です。
それからは緩やかだった身体の時間も動き出して、私は若く輝いてゆく貴方を置いてどんどん老いて行くでしょう。」
「それでも、俺はルネが好きだよ。」
当然と答えた俺に、ルネは頭を振った。
「女神さま。最後の願いを叶えて頂けるなら、私がいなくてもレンが悲しまないように」
「何言ってるの?ルネがいなくなって悲しくない訳ないでしょ?
俺はルネの為にここへ来たんだ。
向こうにはもう戻れないんだよ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
するとルネは悲しそうな顔で俺を見てから、女神さまに向き直った。
「私は馬鹿なのです。
レンが私の事を好きと言って下さっているのに、女神さまの力でレンを私に縛り付けているんじゃないかと考えてしまうのです。
信じたいのに、信じ切れない。
女神さま。どうか、レンが私のせいで悲しまないように自由にしてあげてください。
対価は・・・残り全てを。」
「対価・・・やっぱり何かと引き換えで俺は呼ばれたんだ。
ゲームではミニゲームをして星が溜まると、それと引き換えに女神さまに願いを叶えてもらえたんだ。
ねぇ、ルネは何を交換したの?」
唇を噛んで黙るルネを見て、俺は立ち上がって女神さまに詰め寄った。
ルネは教えてくれないだろうから。
「・・・残った魂の半分を頂きました。
エリーゼを生み出すのに半分、私が残ったその半分をもらいました。
また魂を頂いたらルネは消えてしまうでしょう。」
「そんな・・・止めて。」
「私が魂をもらわなくても、魂が少なくなっているルネは、
精霊の力があろうが無かろうが、長生きできません。」
俺は女神さまとルネを交互に見る。
ショックな事を聞いたのに俺の頭の中は妙に冷静になっていて、ゲームのチュートリアルを思い出していた。
女神さまに願いを叶えてもらえる人は女神さまに気に入ってもらえる美しい魂の持ち主で、それは誰でも良い訳ではないとゲームの女神さまが言っていた事を。
きっと、ルネもルーカスもルーカスを呼んだ人も、ゲームを作った人も女神さまに気に入ってもらえたんだ。
ならば、女神さまに会ってもらえた俺にもその資格はあるはず。
「それなら、俺の魂を好きなだけあげるから、俺とルネの残りの寿命を一緒にして。」
「レン・・・」
ルネは青い顔をしている。
表情には出ていないが、女神さまも言葉に詰まっているようだ。
「違う世界からわざわざ連れて来られて、たくさん怖い目に遭わされたんだから、そのくらいの願い叶えてくれるでしょう?
一日でも、一週間でもいいから!」
「本当に良いのですか?」
「もちろん。」
「レン、いけません。どうか自分の為に生きて。」
そう言うルネは俯いている。
良く見ると下を向いた眼鏡には涙が溜まっていた。
「・・・わかりました、蓮さまは覚悟がおありなのですね。」
暫く考えてから女神さまはゆっくり話しだした。
「それでは、まず私が蓮さまから半分魂を頂きます。
それから蓮さまの残った魂とレナトスさまの魂を混ぜ合わせて、量が同じになるように分けてお二人へ入れれば残りの寿命が同じになる筈です。」
そんな粘土遊びみたいな事が出来るなんて凄いなぁと思いながら、俺は女神さまに頷いた。
「でも、これをしてしまうと本当の意味で二人は生涯を共にしなくてはならなくなってしまうのですよ。
もし何かの拍子に心が離れてしまったら・・・そこで二人の命は潰えてしまいます。」
「構いません。ルネがいなくなったら俺は生きていけないから。」
俺はルネの傍に行ってその細い肩に両手を掛けて顔を覗きこんだ。
「ルネはどうする?俺と一緒になるのは嫌?」
ルネは眼鏡を外すと、袖で涙を拭った。
「嫌な訳ないじゃないですか。でも・・・貴方が」
「ね、どれだけ言ったら信じてくれる?俺にはルネだけなんだよ。」
俺はもう他の誰にも惹かれない。
ここに来て良かった、向こうにいたらきっと俺は誰も好きになれなかったと思う。
そう言って、俺はルネの瞳から次々に溢れてくる涙を唇で拭った。
「・・・判りました。ずっと、一緒ですよ、レン。」
俺は待っていたその言葉を受けて立ち上がり、女神さまへ向き直って目を合わせた。
「女神さま、ルネと俺を出会わせてくれて、我がままも聞いてもらって本当に感謝しています。
ありがとうございました!」
俺は部活でしていたように勢い良く頭を下げて、女神さまへと心から感謝を述べ、ケジメを付けた。
ルネもゆっくり頭を下げる。
「ええ、私は女神です。
人々の願いを叶えるのが私の務め。
それにレナトスさま、私は貴方と蓮さまを引き合わせただけです。
心を操ったりなどしていませんよ。」
「女神さま。」
「お二人とも、どうかお幸せに・・・」
気付くと祠の前にいた。
一緒に来ていたエミルもベルンハルトもデニスも殆ど動いていなくて、やっぱり時間は経っていないらしい。
只、ルネが静かに涙を流していた。
「ルネ。」
俺はハンカチを差し出してその涙を拭う。
それから優しく立ち上がらせて、連れ立って離れへと戻った。
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