賢き皇子の遁走曲

アソビのココロ

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第二皇子ルーク殿下

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「カイルの平民落ちは間違いであった。撤回する」
「なりません。陛下の言葉の軽さが問題視されます」
「ではどうすればよいのだ!」

 唇を噛む。
 事件後、フォレスタル公爵を宥めるために一刻も早い措置が必要と思われたが、それが完全に裏目に出た。
 カイル殿下の名誉を回復する手段がない。

「そもそも何故カイルは婚約破棄劇などを引き起こしたのか?」

 一番の疑問点はそこだ。
 取調官の報告には、アメリア嬢への配慮で自らが泥を被ったのではないかとある。
 あり得るか?
 その説は弱過ぎる。

「陛下、よろしいでしょうか?」
「ルークか。うむ、入れ」
「失礼いたします」

 第二皇子ルーク殿下が入室する。
 ルーク殿下はカイル殿下と異なり、亡き正妃様の御子ではない。
 とはいえマーカッフ辺境伯家出身で大きな勢力を社交界で発揮している側妃様の御子である。

 カイル殿下があまりにも優秀かつきらびやかであったため人々の口に上ることはまずなかったが、貴族間のパワーバランス的にはルーク殿下の方が次代の皇帝に相応しいのではないか、との考えもなくはなかった。
 皇太子カイル殿下の失脚で最も得をした人物とも言える。

「陛下とデズモンド閣下に申し上げたきことがあります」
「許す。申せ」
「昨日始まった皇太子としての教育の内容なのですけれども」
「不服か? 厳しくても努力せよ。その方が次代の皇帝となるために必要なことだ」
「いえ、あの、一年ほど前から兄上に出されていた課題とほぼ同じ内容なのです」
「「えっ?」」

 どういうことだろう?
 皇太子教育の内容は、皇室の暗部や秘密に触れることも多いと聞いている。
 至尊の位に就く者だけが知っていればよいことをかなり含むのだ。
 何故カイル殿下はそれをルーク殿下に?
 まさか……。

「兄上は僕を皇太子に推す意図があったとしか思えないのです」
「わしもルーク殿下と同様の考えです」
「何とな……」

 カイル殿下は次代の皇帝が自分があろうとルーク殿下であろうと、帝国の将来にそう違いはないと考えた。
 ならばアメリア嬢の醜聞を表に出さない方が、フォレスタル公爵家に貸しを作る分得だと。
 皇室と帝国の安寧を一番とする思考ならば一応納得できるが、自身が平民落ちではカイル殿下にメリットが全くないではないか。

「兄上は先を見通すことのできる賢者です。お願いですから連れ戻してください」
「もとよりそのつもりだ」
「平民落ちは陛下の決定ですから仕方ありません。その上でカイル殿下の能力を生かせる地位に就け、徐々に引き立てればよかろうかと」
「それしかないな。とにかく急ぎ連れ戻せ!」
「はっ!」
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